「ファンミーティング」はファンの声を傾聴する場
佐藤氏 共感を強くするための「傾聴」について、もう少し詳しく説明しましょう。
これまでの発想では、今買ってくれていないひと、これまで来ていなかった人たちを調べて、なぜ来ていないのかを聞き、それを改善するというのがマーケティング調査の方法だったと思います。
しかし、この改善で一瞬顧客は増えても、ファンではないので、すぐにいなくなってしまうかもしれません。また、今買っていない人たちに話を聞くのですから、良いところまで変えてしまう可能性もあります。
ファンベースは、今支持してくれているファンの声を聞いていこうという考え方。つまり、悪いところを直すのではなく、良いところを伸ばすという発想です。ですから、「ファンが思う良いところ」を知るために、ファンミーティングが必要なんです。
アンケートで「どこが好きですか?」と急に聞かれても、すぐに言語化できなかったり、なかなか本音が出てこなかったりします。グループインタビューをしても、一人の強力な発言者に引っ張られる、うまく説明できないなどがあります。
なぜファンミーティングが必要なのか。まず、ファン同士が会うことが非常に効果があるからです。
ファン同士が話していくと、商品についての体験や好きなところに共感し、一般の人ではできないマニアックな話で盛り上がります。そしてその中で、ファン自身も言語化できていなかった好きなところを発見する。
ファン同士の会話は、まさに宝の山。我々がどうしても知りたい「ファンが良いと思うツボ」がある。ファンに愛されている理由がわかれば、そこにフォーカスを当てたファンベース施策を打てるのです。
ファンに自信をもってもらう
佐藤氏 そして傾聴の次にやるべきは、同じく共感を強くするために必要なこと。ファンに自信をもってもらうことです。
日本人は世界でもっとも悲観的です。自分の会社を信頼している率も、自分自身に満足している若者の率も、世界でもっとも低いです。他にもいろいろなデータがありますが、とにかく自己肯定感が低い。つまり自信がないんです。
同じく、ファンも自信がありません。「この商品が好きだ」といったら、バカにされるんじゃないか、間違っていると思われるんじゃないかと。だから、口コミをしないんです。
ではどうすればいいか。他のファンが発言していることを、アクセスしやすい場所に見えるようにすることです。
新聞、ネットの広告、PRなどもそれを見ることによって、ファンたちは自信を持ちやすい。また、インフルエンサーマーケティングでは情報は届かないと先ほどいいましたが、もしその人たちが本当にファンで、それを発信してくれるとしたら、それはファンたちの自信になります。
ファンが自信をもつことで、それを言いたくて仕方がなくなる状況を作ることが大事です。
ファンに喜ばれることほど、嬉しい仕事は他にない
佐藤氏 最初の疑問に戻ってみましょう。すでに買ってくれている人に、なぜ予算を投じるの?マーケティングは新規顧客を獲得するためでしょう?対前年比で効果は影響あるの?
あなたが会社でファンベース施策をする際、疑問をぶつけられることがあるかもしれません。こうした考えは根強いです。実際にやってみると、中・長期の施策が効率が悪い、手間がかかると感じるかもしれません。さらには、ファン一人ひとりの感情を細かく見ていくのも、とても大変なことです。
しかし、時代的にファンベースはけして間違っていないと僕は思います。妨害型の広告ではなく、ファンたちは情報を喜んで受け取ってくれる。
自分たちが生み出して、愛している商品。その価値を支持してくれ、愛用してくれているファンに喜ばれるほど、嬉しく、誇らしく、ポジティブな仕事は他にないと思います。
ですから、手間がかかるではなく「手間をかけたい」、時間がかかるではなく「時間をかけたい」と思って施策を打ってみてください。そうすれば、ファンは喜んでくれます。ファンベースは、顧客とじっくり付き合う、これからの時代のマーケティングなのです。
おわりに
現代経営技術研究所セミナー取材を、3日連続掲載でお届けしました。佐藤尚之氏の「ファンベース」は、マーケターの方はもちろん、企業のブランドや商品に関わるあらゆる仕事において、参考になる視点が多くあります。
連載第1回「ファンベースとはなにか」
連載第2回「今、なぜファンベースが必要なのか」
より詳しい内容は、佐藤氏の著書『ファンベース~支持され、愛され、長く売れ続けるために』(ちくま新書)にまとめられています。