ファンの支持を強くする3つのアプローチとは【ファンベースセミナー取材・第3回】

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記事の情報は2019-03-06時点のものです。

1月30日、現代経営技術研究所セミナーにおいて、コミュニケーション・デザイナーの佐藤尚之(さとなお)氏が講演を行った。佐藤氏は、企業やブランド・商品が大切にしている価値を支持してくれる人を「ファン」と呼び、ファンをベースに考えるフレームワーク「ファンベース」を提唱している。佐藤氏の講演内容、全3回の最終回は「ファンの支持を強くするアプローチ」について紹介する。

「ファンミーティング」はファンの声を傾聴する場

佐藤氏 共感を強くするための「傾聴」について、もう少し詳しく説明しましょう。

これまでの発想では、今買ってくれていないひと、これまで来ていなかった人たちを調べて、なぜ来ていないのかを聞き、それを改善するというのがマーケティング調査の方法だったと思います。

しかし、この改善で一瞬顧客は増えても、ファンではないので、すぐにいなくなってしまうかもしれません。また、今買っていない人たちに話を聞くのですから、良いところまで変えてしまう可能性もあります。

ファンベースは、今支持してくれているファンの声を聞いていこうという考え方。つまり、悪いところを直すのではなく、良いところを伸ばすという発想です。ですから、「ファンが思う良いところ」を知るために、ファンミーティングが必要なんです。

アンケートで「どこが好きですか?」と急に聞かれても、すぐに言語化できなかったり、なかなか本音が出てこなかったりします。グループインタビューをしても、一人の強力な発言者に引っ張られる、うまく説明できないなどがあります。

なぜファンミーティングが必要なのか。まず、ファン同士が会うことが非常に効果があるからです。

ファン同士が話していくと、商品についての体験や好きなところに共感し、一般の人ではできないマニアックな話で盛り上がります。そしてその中で、ファン自身も言語化できていなかった好きなところを発見する。

ファン同士の会話は、まさに宝の山。我々がどうしても知りたい「ファンが良いと思うツボ」がある。ファンに愛されている理由がわかれば、そこにフォーカスを当てたファンベース施策を打てるのです。

ファンに自信をもってもらう

佐藤氏 そして傾聴の次にやるべきは、同じく共感を強くするために必要なこと。ファンに自信をもってもらうことです。

日本人は世界でもっとも悲観的です。自分の会社を信頼している率も、自分自身に満足している若者の率も、世界でもっとも低いです。他にもいろいろなデータがありますが、とにかく自己肯定感が低い。つまり自信がないんです。

同じく、ファンも自信がありません。「この商品が好きだ」といったら、バカにされるんじゃないか、間違っていると思われるんじゃないかと。だから、口コミをしないんです。

ではどうすればいいか。他のファンが発言していることを、アクセスしやすい場所に見えるようにすることです。

新聞、ネットの広告、PRなどもそれを見ることによって、ファンたちは自信を持ちやすい。また、インフルエンサーマーケティングでは情報は届かないと先ほどいいましたが、もしその人たちが本当にファンで、それを発信してくれるとしたら、それはファンたちの自信になります。

ファンが自信をもつことで、それを言いたくて仕方がなくなる状況を作ることが大事です。

ファンに喜ばれることほど、嬉しい仕事は他にない

佐藤氏 最初の疑問に戻ってみましょう。すでに買ってくれている人に、なぜ予算を投じるの?マーケティングは新規顧客を獲得するためでしょう?対前年比で効果は影響あるの?

あなたが会社でファンベース施策をする際、疑問をぶつけられることがあるかもしれません。こうした考えは根強いです。実際にやってみると、中・長期の施策が効率が悪い、手間がかかると感じるかもしれません。さらには、ファン一人ひとりの感情を細かく見ていくのも、とても大変なことです。

しかし、時代的にファンベースはけして間違っていないと僕は思います。妨害型の広告ではなく、ファンたちは情報を喜んで受け取ってくれる。

自分たちが生み出して、愛している商品。その価値を支持してくれ、愛用してくれているファンに喜ばれるほど、嬉しく、誇らしく、ポジティブな仕事は他にないと思います。

ですから、手間がかかるではなく「手間をかけたい」、時間がかかるではなく「時間をかけたい」と思って施策を打ってみてください。そうすれば、ファンは喜んでくれます。ファンベースは、顧客とじっくり付き合う、これからの時代のマーケティングなのです。

おわりに

現代経営技術研究所セミナー取材を、3日連続掲載でお届けしました。佐藤尚之氏の「ファンベース」は、マーケターの方はもちろん、企業のブランドや商品に関わるあらゆる仕事において、参考になる視点が多くあります。

連載第1回「ファンベースとはなにか
連載第2回「今、なぜファンベースが必要なのか

より詳しい内容は、佐藤氏の著書『ファンベース~支持され、愛され、長く売れ続けるために』(ちくま新書)にまとめられています。