人材不足が世界的なリスクに
人材不足の問題が指摘されるようになって久しい。ここに来て人手不足倒産の増加、24時間営業を見直すファミリーレストランやコンビニエンスストアの動きなど、影響が表面化してきた。必要な人材を集められない要因は、少子化、都市部への人口集中、デフレにともなう頭打ちの賃金などさまざまだ。
人材不足は、日本だけの問題でないらしい。企業幹部に認識されているリスクを調査したガートナーのレポート「Emerging Risks Survey」で、人材不足が最大のリスクとされたのだ。
これまで同レポートでは、クラウドコンピューティングや強化されたプライバシー法規制、サイバーセキュリティなど、主に技術的な項目がリスクとして挙げられてきた。ところがここにきて、人材不足への懸念がそれらを上回ったのだ。
人材不足と技術的リスクはニワトリと卵
技術問題を上回り最大の懸念に
この調査は、ガートナーが四半期ごとに世界各地の企業を対象に実施している。
137人の上級幹部から回答を得た2018年第4四半期版の最新調査では、直面している懸案事項として、回答者の63%から人材不足が所属企業の大きな問題だとされた。業種別では、特に金融サービス、製造、消費者向けサービス、政府および非営利団体、小売りおよび接客といった分野で人材不足が問題視されており、ワースト5リスクの1つとして選ばれている。
2018年上半期に人材不足は登場せず、第3四半期に3位となり、第4四半期に最悪の懸案事項となった。ちなみに、第3四半期の1位はプライバシー法規制の強化、2位はクラウドコンピューティングで、これらを上回る形で人材不足が問題と認識され始めた。
技術リスク解消にも人材が必要
第4四半期の調査で人材不足のほかに挙げられたリスクは、2位がプライバシー法規制の強化、3位が変化の速度、4位がデジタル化の遅れ、5位がデジタル化の誤った構想、といった具合だ。プライバシー法規制の問題については、2018年5月に施行されたGDPR(EU一般データ保護規則)と、6月に成立した>カリフォルニア州消費者プライバシー法 でクローズアップされ、多くの企業幹部が意識するようになったと考えられる。
1位の人材不足を除くと、いずれも技術関係の懸念であることが興味深い。結局、人材不足はこうした技術的な環境の変化に起因していそうだ。仕事で必要とされる技能が昨今のICT化やデジタルトランスフォーメーション(DX)によって一変し、そうしたスキルを持つ人がそもそも少ない、という背景がある。技術系の人材不足が対応分野の懸念を増し、ニワトリと卵の関係になっている。人材不足とテクノロジーに関する懸念は、切り離せない。
ガートナーによると、プライバシー対策やサイバーセキュリティ、ソーシャルエンジニアリング、AI/ロボティクスのスキル不足、クラウドコンピューティングなど過去の調査で挙げられた技術的な問題によるリスクは、確固たる人材戦略で軽減されることが多い。
たとえば、GDPRのようなプライバシー法規制に適切な対応をするには、データ保護担当の幹部職を設けることが推奨されるという。そして、GDPRやデジタル化といった問題への対応を進めると、大量の専門的な人材が必要になり、企業内のあらゆる業務が影響を受ける。
人材不足には社内教育が有効
もっとも、対処すべきリスクに精通した幹部や、リスク解消に欠かせないスキルを要するポジションにふさわしい人材は、容易に見つけられない。ガートナーも「残念ながら大多数の企業において、もっとも必要とされる人材は、同時にもっとも貴重で高給取りな人材である」と指摘した。つまり、単純な人材戦略では、企業が直面している技術的リスクを緩和するのに必要な人材は確保できず、人材不足がいつまでも最大の懸案事項として残ってしまうのだ。
ガートナーは、人材を外部から調達するという発想を見直し、社内の既存人材を教育する方法へシフトすることを提案している。こうして深刻な人材不足の問題解決を目指せばよいという。さらに、リスクチームと人事部門のリーダーが協力して、企業が今まさに直面している主な人材リスクの分野を見極め、担当を明確に決めることも勧めた。
部署が違えば持っているリスク情報も異なる。そこで、お互いに情報を持ち寄って解決を目指すのが最善策になるのだろう。