テクノロジーは障がい者の目耳手足になる アクセシビリティを向上する3分野の最新技術

働く意欲があっても障がいを抱えているため外出が難しく、就労をあきらめる人は多い。しかし駅などのバリアフリー化が進んだのと同じように、障がい者の活動を阻む障壁はテクノロジーによって解消されつつある。試験的ながら、遠隔操作ロボットが接客するカフェまで登場した。アクセシビリティ向上をもたらす最新技術を紹介する。

テクノロジーは障がい者の目耳手足になる アクセシビリティを向上する3分野の最新技術

技術発展がもたらした光と影

顧客からの引き合いは多いにもかかわらず、人手が足りないため受注を見送り続けて収益を悪化させ、最終的に人手不足倒産へ至る、という問題が存在する。2018年の発生件数は、帝国データバンクの調査だと153件、東京商工リサーチの調査だと387件で、いずれも2013年の調査開始から最悪の数字だった。人手不足の解消は喫緊の課題だ。

出典:帝国データバンク / 「人手不足倒産」の動向調査(2013~18年)

出典:東京商工リサーチ / 2018年「人手不足」関連倒産、過去最多の387件発生、「求人難」型が1.7倍増と急増

働く意欲と十分な能力があるにもかかわらず、通勤が困難という理由で就労をあきらめている人が多い。そこで、リモートワークなどの対策が求められる。リモートワークが可能なら、職場への移動が難しい人も企業にとって貴重な人材に変わり、人手不足の解消につながるだろう。特に、身体障がいを抱えている人々が埋もれることを防ぎ、社会で活躍してもらえる。

平成の30年間で各所のバリアフリー化は大きく進んだ。駅や公共施設にはエスカレーターやエレベーター、スロープが設けられ、点字や音声による案内も増えた。テレビ番組でも字幕を表示できるようになり、アクセシビリティは確実に向上した。

その一方、機械的なボタンのないタッチパネルで操作するスマートフォンや銀行のATMが広まり、目の不自由な人にとっては以前より使いにくくなったものもある。

こうしたアクセシビリティの低下は、当事者でないとなかなか気付けない。しかしバリアに気付きさえすれば、障壁を取り払ってアクセシビリティを改善するのは難しくない。技術の進歩が多くのことを可能にしたのだ。

アクセシビリティ向上3分野の先端技術

具体的に、どのような技術がいかされているのだろうか。身の回りに存在するであろうバリアに対する感度を高めてアクセシビリティ向上へつなげるため、最新の障がい者向け支援技術を、「目」「耳」そして手足の不自由な人向けの3分野にわけて紹介しよう。

「目」の障がい者を支援する技術

人間は、視覚情報に大きく依存して生活している。目が見えないと情報入手が極めて難しくなり、自力で移動することも困難だ。

時刻を知るにしても、触覚的な手がかりの得られないスマートウォッチは駄目だ。この問題を解決するために、視覚障がい者向けの点字表示スマートウォッチ「Dot Watch」が開発された。スマートフォンとBluetooth連携して、時刻やメール受信通知などを点字で伝えてくれるので、目が不自由な人でもスマートフォンの活用が可能になる。

視覚障がい者の移動を支援するツールとしては、周囲の状況を超音波でとらえて振動で伝える「Sunu Band」や「BuzzClip」といったアイデアがある。腰への振動でナビをするベルト「feelSpace」も役立ちそうだ。

フェイスブックは、視覚障がい者の対面コミュニケーションを支援するため、カメラでとらえた人の顔を解析し、その人の情報を音声などで伝える技術「Accessibility Bot」を開発した。この技術が実用化されると、目が不自由でも出会った人が誰なのかすぐ認識し、会話を始められる。また、カリフォルニア工科大学の「Cognitive Augmented Reality Assistant(CARA)」は、マイクロソフトの複合現実(MR)ヘッドセット「HoloLens」を使い、周囲にある物体の情報を音声で知らせてくれる。

さらに、高度な支援技術「Human-scale Localization Platform(HULOP)」と、同技術ベースのアプリ「NavCog」をIBMとカーネギーメロン大学(CMU)が開発した。これは、各所にあらかじめ設置しておくBluetoothビーコンとスマートフォンを組み合わせ、視覚障がい者を道案内しようとするものだ。

なお、HULOPを開発したIBMフェローの浅川智恵子氏は、視覚障がい者向け支援技術の開発に以前から取り組んでおり、ウェブページ読み上げ技術「Home Page Reader(HPR)」開発の功績で全米発明家殿堂(NIHF)から2019年の殿堂入り対象者に選ばれた。

「耳」の障がい者を支援する技術

聴覚障がい者に関しては、クラウドファンディングのキャンペーンは失敗したものの、交わされている音声会話をリアルタイムにテキストへ変換してヘッドマウントディスプレイ(HMD)に表示する「LTCCS」という技術が提案された。LTCCSを使えば、目の前の会話がまるで字幕付き映画のようになり、耳が不自由でもコミュニケーションに参加できる。

また、現代自動車(ヒュンダイ)は、耳の不自由な人の運転を支援する技術を開発した。この技術は、マイクでとらえた周囲の音を解析し、ディスプレイにテキストで表示したり、ハンドルを振動させたりしてドライバーへ伝える。これにより、聴覚障がい者でも接近する緊急車両のサイレンに気付けるようになる。

話すことが困難な人向けには、サムスンの失語症患者向け絵文字チャットアプリ「Samsung Wemogee」や、思い浮かべた言葉を音声化するマサチューセッツ工科大学(MIT)のシステムといった技術が開発されている。

手足が不自由な人をサポートする技術

足の不自由な人に対する支援技術の代表は、おなじみの車いすだ。街のバリアフリー化は進んでいるものの、車いすでスムーズに移動できるルートは限られており、知らないとなかなか見つけられない。これに対し、グーグルは地図サービス「Googleマップ」に車いす用移動ルートの表示スイッチを追加している。

文字通り下肢障がい者の足となる車いすだが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者など手が不自由な四肢麻痺の人は使えない。そこでインテルとフーボックス・ロボティクスが編み出した解決策は、顔の表情変化で操作可能な電動車いす用キット「Wheelie 7」である。手でジョイスティックを操作できなくても、これなら自分の意志で車いすを動かせる。

手の不自由な人がPCやスマートフォンを使う際には、限られた数の大きなボタンだけで多彩な操作を可能にするキーボード「Key-X」が役立つ。マイクロソフトは、指や手、腕の動きなどに制約のある人もゲームを楽しめるよう、ゲーム機「Xbox One」および「Windows 10」搭載PC用のコントローラ「Xbox Adaptive Controller」を販売している。

「外出できなくてもカフェで接客」できる未来

こうしたアクセシビリティ向上技術が実際に使える時代になれば、多くの障がいは就業の妨げにならなくなる。これは、眼鏡やコンタクトレンズのおかげで強い近視の人でも不自由なく生活できるのと変わらない。

最後に、そうした未来が夢物語でないと確信できる取り組みに触れておこう。2018年11月から12月にかけて試験的に運営された、分身ロボットカフェ「DAWN ver.β」だ。

出典:オリィ研究所 / OriHimeカフェ実験、いよいよ始まります!

このカフェで表向き働いているのはロボットの「OriHime-D(オリヒメディー)」。ところが実際の店員は、このロボットを遠隔操作しているALS患者や障がい者、引きこもりの人など、外出の難しい人たちだそうだ。

ロボットといっても背後には生身の人間がおり、血の通った接客サービスが受けられる。OriHimeを開発したオリィ研究所らは、「そこへ行けない、身体を動かすことができない人でも働けるということを当事者に」して、「動けないが働きたいと思う人がいるということを世間に知っていただきたいという思い」で、このカフェを運営したとしている。

このプロジェクトは、既存の概念にとらわれない発想をいかし、さまざまな技術を組み合わせることで、飛躍的なアクセシビリティ向上が可能になることを示す好例といえる。

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