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AI音声アシスタントは受け入れられるのか
スマートフォンの音声認識が実用的になり、調べものや家電のコントロールを音声で済ませられるスマートスピーカーも身近な存在だ。機械に向かって話しかけることや、機械から音声で答えられることは日常的な風景となり、初体験したときの驚きは消えてしまった。
しかし、スマートフォンでレストランに電話をかけ、スムーズな会話で予約までしてしまうグーグルの人工知能(AI)音声アシスタント機能「Duplex」には舌を巻いた。グーグルが披露したやり取りは極めて自然で、AIが単に音声コマンドを解釈するだけでなく、人間と会話するレベルに達しているのだ。
電話は相手とリアルタイムにやり取りする必要があり、メールやチャットのような非同期の通信手段とは別の使いにくさがある。Duplexなどで電話コミュニケーションが自動化できれば、相手とタイミングを合わせてやり取りする必要はなくなり、時間の有効活用につながる。電話を受けて自動対応するAIアシスタントも、突然かかってくる電話に煩わされなくなるので、早く導入したい。
人間と流ちょうに会話するAIには驚かされた一方、気味の悪さも感じる。人間に似たヒューマノイドロボットの姿に拒否感を抱く「不気味の谷」と同様の現象が、AI音声アシスタントでも起きるのかもしれない。
AI音声アシスタントの利便性は明らかだが、消費者は懐疑的だったり、不信感や不快感を抱いていたりする。不気味の谷を乗り越えて、スマートスピーカーのように普及するだろうか。
消費者はAIに電話応対を任せたくない
消費者がAI音声アシスタントを受け入れるかどうかについては、調査会社のクラッチが米国で実施した消費者意識調査が参考になる。18歳以上の501人から回答を得たこの調査結果をみると、現時点で消費者はAIに電話応対をあまり任せたくないようだ。
7割がAIを信頼していない
AI音声アシスタントを信頼して比較的単純な電話応対を任せられるかどうか尋ねたところ、「かなり信頼していない」が39%でもっとも多く、「あまり信頼していない」も34%いた。つまり、全体の7割以上がAIを信頼していないという結果だった。
「とても信頼している」という回答は4%にとどまり、現在の技術は力不足と受け止められている。クラッチは、会話を十分に制御できない点が信頼されない要因の1つと分析した。
出典:クラッチ / The State of Conversational AI and Consumer Trust
話し相手がAIだったと途中で知ると
AI音声アシスタントと話すことについて、消費者はどう感じるのだろう。
自分が人間と思い込んで話していた相手が後でAIと判明した場合、61%が警戒感を抱くと答えた。だまされた気がするからなのか、人間とAIの境界が曖昧になって区別できないことを居心地悪く感じるからなのか、警戒する原因は興味深い。クラッチは、機械による詐欺電話などのリスクを心配する影響も考えられる、としている。
また、AI音声アシスタントが単になじみのない新しい技術であるため警戒される、という指摘もあった。たとえば、導入された当初ATMは信用されず、恐れられて使うのを避けられたという。スーパーマーケットのセルフレジも同じで、2000年代初めに登場した当時は意見が分かれていたが、今では当たり前になった。
ロボットだと事前に名乗ってほしい
このように信頼されなかったり、警戒されたりするAI音声アシスタントなので、使用する際は事前に人間なのかAIなのか宣言した方がよいだろう。事実、回答者の81%が、AI音声アシスタントであるのならば電話の冒頭でロボットだと名乗ってほしい、と思っていた。
ただし、クラッチは、こうしたAI音声アシスタントに対する腰が引けたような態度も、技術が進歩して日常生活へ浸透するに従い変化するだろう、とした。
日本でのロボットやAIに対する反応は
グーグルのDuplexはユーザーがAI音声アシスタントを使って電話をかける機能だが、逆に電話に出たらAIだった、という時代もすぐ来るだろう。
ソフトバンクロボティクスの人型ロボット「Pepper(ペッパー)」が入り口にいた店舗は珍しくなかったし、ロボットが接客するハウステンボスの「変なホテル」といったものまで登場した。自動車メーカーのフォード・モーターは、自動運転車と2足歩行ロボット「Digit」を組み合わせた配達サービスの試験を予定している。ドアを開けたら荷物を持ったロボットが立っていたというように、電話以外でもロボットが応対する場面は増えるはずだ。
出典:ソフトバンク / Pepper
出典:ハウステンボス / 変なホテル
出典:フォード / MEET DIGIT: A SMART LITTLE ROBOT THAT COULD CHANGE THE WAY SELF-DRIVING CARS MAKE DELIVERIES
先ほどのAI音声アシスタントに懐疑的な傾向という調査結果は、米国で得られたものだ。これに対し、アニメなどで昔からロボットに親しんできた日本の状況は違うかもしれない。調査内容が異なるので単純な比較はできないが、情報として紹介しておく。
ホテルのロボット接客は好印象
ホテルでのロボットによるコミュニケーションを実験したサイバーエージェントなどは、「ホテルでは積極的に話しかけるロボットが自然に受け入れられる」という結論を出した。
ホテルの廊下などに卓上型の対話ロボット「CommU(コミュー)」「Sota(ソータ)」を設置し、通りがかった人に挨拶するという実験を実施。被験者の反応は好意的で、会話や挨拶が「押しつけがましい」という回答は少なく、「機嫌は良くなった」と感じる人が多かった。
出典:サイバーエージェント / AI接客ロボットはホテルで自然に受け入れられる、産学連携の調査結果から
学生は4割がAIにネガティブ
ただし、若い世代は警戒しているようだ。
SMBCコンシューマーファイナンスは、高校生、専門学校生、大学生を対象としてAIに対するイメージを調べた。それによると、「機械にとって代わられる/仕事・バイトがなくなりそう」「機械に任せるのが不安/信用できない」などネガティブな反応が合計39.5%もあった。
若い世代なのでICTを使いこなしており、AIに肯定的な意見が圧倒的に多いと予想していたのだが、意外な結果だ。サイバーエージェントの実験と違って具体的な体験を通じた判断でないため、警戒心が強くなったのだろうか。スマートスピーカーのようなデバイスを実際に使う調査であれば、便利さや楽しさを感じてポジティブな回答が得られたかもしれない。
出典:SMBCコンシューマーファイナンス / 【ポジティブorネガティブ?】イマドキ若者の4割がAI(人工知能)に不安を覚える!?
10年後にはAIとばかり話しているかも
クラッチは、AI音声アシスタントが進歩すれば受け入れる消費者も増えるとした。現在のスマートスピーカーが音声で行う受け答えを聞いていると、完成度は高いように感じ、すぐに広まりそうだ。ところが、電話の応答という自由なやり取りはまだ難しいらしい。
ニューヨーク・タイムズの報道によると、グーグルのDuplexは完全にAIが話しているわけでないという。通話の約25%は人間が開始し、約15%は途中で人間が引き継いだとのことで、完全には任せられていない。
しかし、マイクロソフトが開発した、人間相手のように自然な会話がはずむ最新音声アシスタント技術など、AIの機能は着実に高まっている。10年前には珍しかったスマートフォンがこれだけ普及したように、10年後は電話でAIとばかり話している可能性もある。
