バーリンホウをご存知ですか?
中国では「80後」や「80后」と呼ばれ、1980年代生まれの中国人の若者達のことを指す言葉ですが、近年このバーリンホウがさまざまな側面から注目されるようになっています。
彼らは中国の政治的・文化的な点から語られたり、あるいは経済的な観点から多様な分析対象となったりすることも多く、国の根幹にまで影響するといわれている存在です。
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バーリンホウ(80後)とは
冒頭でも述べたように、バーリンホウとは1980年代生まれの中国人の若者のことを指す言葉です。
人口世界一の中国では、かつて人口爆発を懸念して「一人っ子政策」が国の政策として取り入れられました。国策として人口をコントロールしようとした結果、兄弟のいないたくさんの子供が誕生したわけです。
一人っ子政策の影響下で産まれたバーリンホウは、いまや若者の代名詞ともいわれ、鄧小平による改革開放路線の前に生まれた世代とは違った「新人類」として引き合いに出されることもあります。数にして約2億2千万人以上いるとされ、いまや中国社会全体に大きな影響を与えるに至っています。
時代で変化したイメージ
バーリンホウは両親をはじめ肉親からの愛情を一身に受けて育った影響により、わがままな性格である場合も多く、社会的にも世間知らずや身勝手といったイメージが先行していました。そのため「小皇帝」などと揶揄されることもあります。
「最も利己的な世代」などと厳しい評価をされてきた世代ですが、最近ではそういったイメージにも変化が出始めています。
世間知らずと評価されることはあるものの、バーリンホウは、中国社会において現代的な教育を受けて育った初めての世代であり、それまでの中国の教育状況では考えられなかったレベルの知識をもてるようになった人々です。
そのため、近年は彼らの近代的な思想を背景とした正義感や愛国心が注目されるようになり、これからますます発展するであろう情報化社会の担い手として期待されています。時代とともに彼らへのイメージが変化してきているのです。
高学歴低収入
社会的な期待を担っているバーリンホウですが、彼らの現実の生活が恵まれているかといえば、必ずしもそうではありません。彼らのなかには、たとえ大学を卒業したとしても満足な仕事に就くことができず、貧困のなか集団で身を寄せ合って生きている人々がたくさんいます。
そういった人々は「蟻(あり)族」と呼ばれ、高学歴であるにもかかわらず低収入なのが特徴です。北京などの郊外では蟻族の人々が一つのアパートに集団で住んでおり、現代中国社会の「買い手市場」の現実を物語る存在として物議を醸しています。
世代的に裕福なイメージを持たれがちなバーリンホウですが、こういった現実がある点は注目すべきでしょう。
バーリンホウ世代の特徴とは
このように、さまざまな観点から評価がされているバーリンホウですが、今では20~30代の社会の中心を担う若者であり、徐々に中国社会全体を牽引する存在になりつつあります。
ここでバーリンホウ世代の特徴について、特に注目すべき点を取り上げてみましょう。
市場経済とともに育った世代
バーリンホウの世代は鄧小平による改革開放路線の後の世代になります。
具体的には、彼らの最初の世代が生まれる前年の1979年に改革開放経済に移行し、それまで完全な計画経済だった社会のなかに市場経済が入り込んできました。
海外から松下電器やコカ・コーラといった有名企業も進出しはじめ、それまでの社会状況では考えられなかったような消費文化とともに育ってきた世代であるといえます。
一人っ子が多い世代
中国社会が開放経済に移行した1979年は、いわゆる「一人っ子政策」が開始された年でもあります。そのためバーリンホウの多くは兄弟のいない一人っ子であり、両親や祖父母から多大な愛情を注がれて育ってきました。
肉親の繋がりを重要視する中国社会においても、甘やかされて育った世代ともいわれており、身勝手で自己中心的な言動が目立つ人々という認識をもたれる原因となっています。
高学歴・海外留学経験者が多い世代
バーリンホウの親の世代といえば、いわゆる文化大革命の時代に毛沢東を崇拝していた人々が多く、自由主義的な思想や国際的な視点から物事を考えるといった発想に疎い傾向がありました。教育らしい教育をまともに受けられなかった人々です。
それに対してバーリンホウの多くは大学を卒業した高学歴であり、日本や欧米を中心とした近代国家的な思想や経済感覚に触れる機会が多くありました。
そのため中国共産党による教育方針や対外政策について、外部の視点から冷静に判断できる可能性がある点は特筆すべきでしょう。
ITリテラシーが高い世代
ITリテラシーが高く、インターネットを利用してさまざまな情報を発信しているのもバーリンホウの特徴といえます。
共産党の監視があるため、中国国内ではどんな情報も自由に手に入れられるという状況ではありませんが、それでも高いIT技術を用いて情報化社会の担い手となっているのがこの世代です。
海外から熱心に情報収集をしているため、ファッションのセンスや社会的マナー、あるいは公衆衛生に関する感覚なども先進国の若者に近い傾向があります。
中国市場を牽引するバーリンホウ
最後に、バーリンホウをターゲットとした注目すべきビジネス上のトレンドをいくつか挙げてみましょう。
これまで説明したきたように、同じ中国人でもバーリンホウとその前の世代とでは、考え方や価値観に大きな違いがあります。特にビジネス的な視点から中国を分析するうえでは、バーリンホウの特徴をよく理解しておくことが重要です。
なぜならば、訪日中国人の約8割が80~90年代の若者が占めており、バーリンホウの口コミが日本をはじめとした海外を訪れる中国人の貴重な情報源となっているからです。
バーリンホウは中国市場で多大な影響力を持っているだけでなく、いまや日本における影響力も無視できなくなりつつあります。
eコマース市場における影響力
バーリンホウの世代はITリテラシーに長けているため、2億人以上という人口とあいまってeコマース市場において大きな影響力をもつに至っています。
今ではオンラインショッピング利用者のうち、バーリンホウ世代にあたる25~30歳と31~35歳の消費者層が全体の半分以上を占めている状況です。
そういった高い購買力をターゲットとして、モバイル市場やファッション市場などでさまざまなサービスが展開されており、今後その規模はますます大きくなると予想されます。
バーリンホウをターゲットにしたARサービス体験
近年注目を集めているAR(拡張現実)サービスでも、バーリンホウをターゲットとしたビジネスが展開され始めています。
たとえば世界的に有名な家具量販店であるイケア(IKEA)は、AR技術を用いたモバイルアプリを提供し、バーチャルな世界を現実世界に応用する試みが好評を博しました。イケアのカタログを専用アプリで読み込むと、家具を立体的に見ることができたり、実際に使用したときの様子をユーザーが確認できるというものです。
これが中国国内でバーリンホウを中心に人気を集め、2億部以上ものカタログが発行されるに至りました。
ARやVRなどの違いについて詳しく知りたい方は以下の記事を参考にご覧ください。
バーリンホウのライフスタイルを反映した住宅トレンド
また、バーリンホウの好むライフスタイルの提案をすることで、肥大化する住宅ニーズを満たそうとする企業も出てきています。
彼らはシンプルながらも快適なライフスタイルを求めており、その象徴としてワイヤレス環境の整った手頃な価格の住宅を好むという分析があります。そのため、今後数年間はバーリンホウのスマートな暮らしを後押しするようなスマートホーム関連製品の開発がトレンドになるとされています。
バーリンホウを特徴や背景を理解しよう
近年、中国国内だけでなく、世界的にも注目を集めているバーリンホウについて、その社会的な背景から、彼らをターゲットとしたビジネス上のトレンドに至るまで重要なポイントを解説してきました。
物質的・精神的に他の世代と大きな違いがあるとされているバーリンホウは、いまやこれからの中国社会のキーとなる存在であるといわれています。今後、ビジネスなどの分野で彼らと関わることになる人は、これを機会に彼らの背景や特徴について、しっかりと押さえておきましょう。