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W11(ダブルイレブン)とは
W11(ダブルイレブン)とは、中国では双十一と呼ばれる、毎年11月11日に行われている独身の日(シングルデー)を祝うイベントです。
近年では独身の日を祝うというよりも、毎年売上規模が拡大しているECサイト(電子商取引サイト)のイベントを指すことが多くなっていますが、その理由を解説していきます。
中国のシングルデーとは
11月11日は中国で光棍節(こうこんせつ)にあたりますが、つるつるの棒(光棍)に似ている「1」が4つ並ぶところから「独身の日(シングルデー)」とも呼ばれています。
正式な祝日ではなく、1990年代に大学生の間で自然発生したもののようで、独身者の間でのお見合いパーティや、独身者へのプレゼントなどが行われていました。
この状況に目をつけた中国の最大手ネットショップ「天猫(TMALL.COM)」が、デートに行けない独身者はネットで買い物しようというコンセプトで、「双十一」というネットショッピングセールをはじめ、現在のW11につながっていったのです。
双十一はどのようなイベントか
2009年から開始されたW11というECセールイベントは、上述のように、スタートのきっかけとなったのがアリババグループのB2Cサイト「天猫」であり、C2Cサイト「淘宝(現在の天猫)」であるため、厳密には「双十一」という登録商標を持つ、これらのサイトが行うイベントがW11を意味していました。
しかし現在では、中国のECサイトが行うイベントとして全土に広がっており、11月11日のセールすべてを含めてW11と呼ばれるようになっています。
なぜW11が中国最大のECイベントになったのか
いまや中国最大のECイベントとなったW11は売上規模も年々拡大を続けています。
- 2009年:約5,200万元
- 2010年:約9.3億元
- 2011年:約33.6億元
- 2012年:約191億元
- 2013年:約362億元
- 2014年:約571億元
- 2015年:約921億元
- 2016年:約1,207億元
2016年にはついに1,000億元を超え、日本円で1兆8,700億円もの売上を1日で達成しています。
W11がこのような急成長を遂げたのは一体なぜでしょうか。それには大きく分けて次の四つの理由が考えられます。
EC市場自体の拡大
まず一番大きな理由として、中国EC市場自体が大きく拡大したということが挙げられます。
2013年には市場規模が1兆8,400億元(29兆円)に達したといわれていますが、近年では中国の人口13億人のうち、インターネット利用者が7億3,000万人、利用者の約64%である4億7,000万人がECを利用していることが調査で明らかになっています。
既存店舗のEC参入が相次いでいるほか、国土が広いということから、ECとの相性の良さで市場が爆発的に広がり続けている、と見てとれるでしょう。
通信インフラとモバイル端末の普及
こうした中国EC市場の拡大を支えるのは、急速な通信インフラの整備とモバイル端末の普及です。
中国の経済成長を背景に、大都市では整備が進んでいた通信インフラが、三・四級都市でも進みつつあり、国産の手頃なスマートフォンの登場により、中流階級以下の人々にもモバイル端末が普及したのです。
特にモバイル端末の普及は影響が大きく、ECサイトでの売上にモバイルからの購入が占める割合は年々大きくなっています。
EC販売戦略の成功
W11の成功は販売価格にもありますが、綿密な戦略によるところも大きいといえます。
たとえば、オンラインからオフラインに誘導するO2O戦略ですが、実店舗を持つ天猫が、オンラインでW11のQRコードを発行し、サプライヤーである自動車ディーラーなどで実車を確認したうえでオンラインで予約するといった具合です。
このように自動車の取扱い製品の拡大、ブランド品の需要拡大に対応するといった市場拡大のための施策が功を奏しているという現状もあります。
越境EC(国を超えた電子商取引)の拡大
そういった意味では、越境EC(国を超えた電子商取引)の拡大も見逃せません。
中国のECサイトで海外メーカー製品を購入するという越境ECも、市場規模の拡大とともに成長を続けており、2016年にはEC利用者の1割にあたる4,000万人が越境ECを利用、総額6兆3,000万元にも及ぶ売上を記録しました。
2016年のW11でも、日本やアメリカなど、各国の越境ECは非常に好調だったようです。
2016年のW11も大盛況
このW11は、すでに述べたとおり過去最高の売上を記録するといったことから絶好調だったといえます。
しかし、従来行われてきたW11との変化も見られ、アリババグループをはじめとする各ECサイトの工夫も見られます。
海外の消費者へも販売
従来のW11では、シングルデーイベントという本来の意味からも、基本的に中国国内の消費者が越境ECを含めたECサイトを利用する、というものになっていました。
しかしアリババグループが「EC店舗一つで世界に商品を販売する」というグローバル戦略を打ちだしたため、海外商品を輸入して国内販売するだけでなく、中国国内製品を香港や台湾をはじめとする海外の消費者に販売する、というトライアルが行われました。
エンターテインメント性の重視
中国のECでは「Happiness & Health」といわれ、人々に喜びをもたらす購買に、エンターテインメント性を追加するともっと楽しくなるという考え方が主流になっています。
そのため2016年のW11では、従来以上にエンターテインメント性を重視したイベントが行われました。
最たるものが、デビッド・ベッカム夫妻を招いた生放送での前夜祭です。
さらに前夜祭以外でも、W11当日にはさまざまな販促イベントを盛り込んだ、24時間の生放送も行われ、刻一刻と変化する販売総額表示とともに、消費者を刺激し続けていました。
越境ECの販売好調
一方、越境ECに目を移すと、世界53か国、3,500種類の商品を提供する7,700ものブランドが2016年W11に参入し、中でもアメリカのMacy’sやイギリスのSainsburyなどは、1時間程の間に昨年のW11実績を突破するといった非常に好調な姿勢が目立ちました。
国別の売上を見ると、昨年2位であった日本が1位になるといった躍進が見られ、2位アメリカ、3位韓国、そしてオーストラリア、ドイツがそれに続いており、店舗別で見ても3位にムーニー、4位にミキハウスがランクインし、日本の健闘が目立ちます。
物流の改善
2015年のW11では、返品率が4割に近かったともいわれています。
これは消費者のモラルの問題ではなく、W11によって荷物の集中した物流が混乱し、遅配を含めた運送事故が多発したことにあるようです。
これを反省し、2016年のW11までに新たな物流組織の設立やビッグデータの活用による効率化を行い、スペインの消費者の元へ商品が翌日配送されたといった改善が行われています。
W11に象徴される中国ECに参入すべきか
広い国土を持つ中国では、実店舗に足を運んで買い物をするということが大都市圏に限られており、地方都市を含めた中国全土で見た場合、購買活動とECがいかに親和性を持っているのか、EC市場の成長率を見てもわかります。
中国でのインターネット利用率、EC利用率を見た場合、この領域にはまだまだ可能性が残っており、デジタルに親しんだ若い世代が成長するにつれ、さらに拡大していくと思われます。
越境ECでも、金額は膨大なものになりつつありますが、EC全体から見れば成長の余地は大きく、日本からも参入を検討している企業が多いでしょう。
しかし、中国の商習慣や国民性や何を欲しているのかなど、充分な検討を行ってから参入しないと、競争の厚い壁に阻まれてしまうかもしれません。企業にとって魅力的な市場だけに、スピーディーでいながら充分なリサーチを重ねることが重要です。
下記の記事では中国の若者(バーリンホウ)について解説しています。中国の人口の多くを占める若者をターゲットにしたビジネスを拡張していくためにも、実態を知る必要があります。ぜひお役立てください。