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2人の女性CEOに注目
米国でオンライン求人サービスを提供しているグラスドアが、従業員から高い評価を得た企業のCEO(最高経営責任者)をランキング形式で紹介する「TOP CEOs 2018」を公表した。北米と一部欧州の企業が対象になっていて、順位は従業員からの評価に基づいて決まる。
評価の高いCEOは、どのような考えで会社を経営し、職場環境を整え、従業員を導いているのだろう。「社員に愛されるCEOの4条件 米ランキングトップ3が貫く信念とは」では、ランキング上位3人に注目して調べてみた。その結果、従業員から慕われる経営者は、企業文化、成長機会、従業員の幸せ、仕事以外の生活、という4項目を重視していることがわかった。
さて、ランキングを眺めていたら意外なことに気付いた。上位3人はすべて男性だったうえ、100位までに入った女性CEOはわずか8人だったのだ。日本に比べると女性の社会進出が進んでいるというか、社会で女性が活躍することなど当たり前と思いがちの米国だが、やはり企業トップへと上り詰めるには「ガラスの天井」が邪魔をするのだろうか。
ここでは、4位リンジー・スナイダー氏(イン・アンド・アウト・バーガー)と、19位シェリル・パルマー氏(テイラー・モリソン)のインタビュー記事などから、米国の状況をのぞいてみよう。あわせて、ランキングトップに入る“名CEO”の手腕を読み解く。
飲食からトップ入りしたスナイダー氏
まずは、4位に入ったリンジー・スナイダー氏を紹介しよう。イン・アンド・アウト・バーガーのCEOで、得てして不満の出やすい飲食業界から4位に入賞した。その極意はどこにあるのだろうか。
“働きたい職場”でグーグルを上回るハンバーガーチェーンを経営
イン・アンド・アウト・バーガー(In-N-Out Burger)は、米国6州で300以上の直営店舗を展開しているハンバーガーチェーン企業。新鮮な食材へのこだわり、注文を受けてから開始する調理などが評価され、とても人気がある。残念ながら日本には店舗がなく、数時間という超期間限定でイベント的な出店をしただけだが、本格的な上陸を望む声は多い。
職場としては、従業員が働きやすいと評価するBest Places to Workランキングの常連で、2018年版では4位に入った。これはグーグルやマイクロソフトを上回る順位であり、上位50社のなかで唯一のレストラン・チェーンである。
「現場での経験はプライスレス」
イン・アンド・アウト・バーガーの原点は、1948年にスナイダー氏の祖父母がオープンした店舗。大企業になった今でも、株式を公開していない。ちなみに、現在はスナイダー氏が株式の100%を保有しており、米国でトップクラスに若い億万長者だ。
そんなスナイダー氏は、2010年に社長、2017年にCEOとなった。東洋経済オンラインの記事によると、不幸に見舞われるなど苦労の連続だったようだが、経営手腕を発揮。新鮮な食事を提供するという創業以来のポリシーを守りつつ、店舗拡大を成功させた。
創業者の孫ではあるが、人生初めての仕事は歯医者の受付で、その後イン・アンド・アウト・バーガーの店舗で注文取りや調理などの仕事をしてきた。店舗の仕事を「想像以上に厳しく、そこでの経験はプライスレス」と振り返ったスナイダー氏は、「細かい部分に気付くことと、お金を出すお客様に商品と総合的な体験を提供することが大切だと学んだ」と話す。
従業員に耳を傾けることが最優先事項
グラスドアによるインタビューで、従業員に愛してもらえる職場と評価された要因を問われたスナイダー氏は、創業以来70年にわたって維持している強力な企業文化を挙げた。職場環境を日々前向きにしていかなければならないし、働く人を明るく夢中にさせることで、そうした職場を作っていくそうだ。
職場のリーダーには、チームとして動く雰囲気を作る能力が求められるという。そして、良い給与体系や柔軟な勤務体制も重要だが、結局は誇りを持って一員として働けることに尽きる、としている。
また、トレーニングで優れたリーダーを育成することに近道などない、と話すスナイダー氏は、「従業員に耳を傾けることが、自分にとって真剣に取り組むべき優先事項」とした。
従業員に長く働いてもらう4つの秘訣
スナイダー氏は、経営陣の心構えにも触れた。従業員に長く働いてもらう秘訣(ひけつ)は正しく処遇することであり、具体的には以下の4点を教えてくれた。
(1)前向きで楽しい環境を作る
(2)会社と従業員が共に成長する
(3)頑張りに見合う給与を支払う
(4)日々の仕事をこなす従業員に感謝を忘れない
良い給与やボーナスはもちろん大切だが、働く人の献身を見逃さず、感謝の意を示すことの方がはるかに重要だという。
男社会の建設業界で上位に入ったパルマー氏
続いては、男だらけの建設業界から上位入りしたシェリル・パルマー氏だ。数々の企業を押しのけて19位に入っている。
テイラー・モリソンとは?
米国のトップ10に入る住宅建設業者で、宅地開発なども手がける企業。日本同様、米国でも建築業界は男社会だが、パルマー氏はCEOとしてテイラー・モリソンを引っ張っている。同社は、2018年版Best Places to Workで87位に選ばれた。
引っ越しで処世術を学んだ
インタビュー記事によると、ロサンゼルス生まれのパルマー氏は、子ども時代に親の都合で何度も引っ越しをしたそうだ。さまざまな土地を経験し、引っ越した先の環境になじみ、友だちを作るという経験を繰り返すうちに、柔軟性を身に着けたという。そして、世の中には多種多様な人がいることを知り、そうした人たちと仲良くすることを覚え、与えられた環境でベストを尽くすことを学んだそうだ。
「16歳になったらマクドナルドで働くべき」
15歳になってマクドナルドで働き始めたパルマー氏は、大学生になっても仕事を続けた。20歳の時にはサンディエゴ地区のマーケティング・マネージャーになり、20店舗ほどを担当して、25歳くらい年上の人たちとのやり取りを任された。マネージャー業務を通じて、人間関係を構築する仕事では、どんな作業であっても人間ファーストである、という結論に行き着いたという。
この仕事で得るものが多かったようで、パルマー氏は「16歳になったら全員マクドナルドで働くべき」と話す。機械操作や掃除は手抜きできないし、そうした一つひとつがブランドを作り上げているので、正しく実行する必要があり、働き方や人生の勉強になる、としている。
同じ考えの人が集まると、進歩しなくなる
パルマー氏はマーケティング分野で経験を積み、テイラー・モリソンで建築の世界に飛び込んだ。そこには女性がおらず、問題解決の方法や考え方がまったく違っていた、とインタビューに答えている。当初は、警戒までされたそうだ。
しかし、問題解決には多様性が重要と考えるパルマー氏。関係する人のタイプを増やし、さまざまなバックグラウンドを持つ人を集めるほど、問題をうまく解決できるという。「全員が同じ考え方をすると、どんどん進歩しなくなる」(同氏)
自分自身が自分のCEOであれ
建築業界で働く女性の多くが、何らかの人格を装ったり、ジェンダーとしての役割を演じたりすることを強いられるらしい。これに対し、パルマー氏は「自分を見失わないように」と呼びかける。自分たちの差異こそが優れている点であり、自分でない何者かになって競争するのではなく、自分のあらゆる面を出して競おう、とした。
女性やさまざまなバックグラウンドを持つ人に向けて、自分自身が自分のCEOであれ、とアドバイスしたパルマー氏。最後に「キャリアのどの場面においても、関係を構築し、理解に努め、知識を追求し、最高の自分を示し、門戸を開き、目標に向かおう」と話した。
ダイバーシティ重視が企業を成長させる
今回は女性CEOに絞って考え方をみてきたが、前回取り上げた男性CEOと同様、企業文化や成長機会、従業員の幸せなどを重視していた。女性だからといって、マネジメント手法は変わらないようだ。
ただし、テイラー・モリソンのパルマー氏が指摘するように、男女というジェンダーに限らず、多様性の欠如は進歩を阻み、企業に停滞をもたらすだろう。このことは、肝に銘じておきたい。