マミートラックとは? 個人・企業ともに気をつけるポイントを解説

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記事の情報は2018-08-30時点のものです。

仕事と育児との両立を目指す女性が陥りがちなマミートラックについて、言葉の意味とワーキングマザーの実態について解説するとともに、個人・企業ともにとるべき対策について解説します。マミートラックから抜け出すためには、まず実態を把握し、思い込みや固定観念を取り払うことからはじめる必要があります。
マミートラックとは? 個人・企業ともに気をつけるポイントを解説

女性の社会進出という言葉が盛んに取り沙汰されるようになって久しいですが、近年、女性の働き方のひとつとして「マミートラック」という言葉が注目されていることをご存じでしょうか?

以前は産休や育児休暇がとれず仕事をなくしてしまう女性が多いことが問題視されていましたが、そういった失業の悩みがなくなりつつあるなか、新しい問題として、仕事と子育ての両立は可能ではあるものの、昇進や昇格とは無縁になってしまう問題が出てきているのです。

マミートラックとは

マミートラックとは、仕事と育児の両立を望む女性が、短時間勤務制度の利用や性別役割分担意識などを背景として昇進や昇格から遠くなってしまう状態を指す言葉です。

陸上のトラックが語源で、仕事における出世コースであるファスト・トラックに対し、子育ての必要から残業や転勤ができないといった制約のため、結果的に男性に比べて企業での出世が不利になってしまうキャリアコースという意味で名づけられました。

イメージとしては、永遠に抜け出せないトラックをひたすら回っているネガティブな状態を表現したものですが、本来は、仕事と子育てを両立させるため、労働時間などに便宜が図られている働く母親のためのキャリアコースといった、どちらかといえばポジティブな意味合いだったようです。

マミートラックの実態

このように、マミートラックという言葉は、時代によって言葉の使われ方や意味するところに違いが生じています。近年の日本におけるマミートラックの実態とはどういうものでしょうか?

産休後のキャリア復帰は難しい?

マミートラックの実態について調べたNHKの調査によると、産休や育休から復職した経験を持つ女性の多くが、出産前のポジションや業務内容に復帰するのが困難だったり、時短勤務で給料か減ってしまったりした経験をもっているようです。

また、短時間勤務制度を利用して退勤したあとに開かれる重要な会議に出られなかった、などの理由で昇格の機会を逸してしまうことや、企業に貢献できていないと自分自身が疑心暗鬼に陥ってしまうことも珍しくないようです。

同調査によると、産休前と同じ待遇で仕事ができるケースは全体の半数程度。残りの半数は、部署は同じでも以前とは異なる業務内容についていたり、部署も業務内容も違うという人も25%も存在します。仕事に復帰したものの働きがいのある仕事をできず、モチベーションが下がってしまう女性が多くいることが伺えます。

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仕事のモチベーションには個人差も

さらに同調査によると、約65%の女性が産休前と後で仕事へのモチベーションが変化したと回答しています。モチベーションが上がったと答えたのは約31%で、逆に下がってしまったと答えたのは約34%でした。

モチベーションアップの理由としては、子育てを経験したことによって視野が広がり、結果として仕事の幅も広がったといったものが多く、逆に意欲が下がった理由としては、残業ができないことや、時間の融通が利きづらいことで、社内での評価や報酬が下がってしまったといったものが多いようです。

特に給与面での影響は大きいようで、モチベーションに影響が出たと回答した人の半数以上が、子供を産む前に比べて給与が減ってしまったと回答しているのは注目に値するでしょう。

マミートラックの対策

上述のように、特に日本におけるマミートラックの主な問題点は、仕事の内容や待遇面で不利になってしまうところにあります。一部の女性にとっては仕事の意欲上昇につながっているものの、大半の女性はどうしてもお産や育児によって給与が下がってしまったり、同じような仕事に就けなかったりする実態があるわけです。

そういった事態を是正するための対策として、以下のような取り組みが考えられるでしょう。働く女性と企業、双方の積極的なアプローチが求められます。

上司とのコミュニケーションの活性化

NHKの調査からもわかるように、たとえ戦力外通告のような極端なものではなくても、上司や会社の配慮によって、産休後や育児中の女性が、当人にとって働きがいのない仕事や負担の少ない仕事を与えられているケースが多く見受けられます。つまり、育児と仕事を両立したい女性への無理解が原因となっているケースです。

そういう場合、女性が自ら「○○の仕事がしたい」とか「昇進したい」といった意思表示を行うことが重要です。周囲に過剰な配慮は不必要であること、あるいはこちらの希望と齟齬があることを伝え、双方にとって納得のいく落としどころを発見するために、上司とのコミュニケーションを積極的に行いましょう。

焦らず長期的な展望をもつ

物事を長期的に捉え、広い視野で仕事を捉え直すことも重要です。

一時的に給与が下がってしまっても、今できる仕事を率先して行うことで信用を得たり、計画的に仕事をこなすことで生産性を向上させたりすれば、企業の方から通常勤務に戻って欲しいと打診されることもあります。特に中小企業の場合は、慢性的な人手不足に陥っているケースが多いため、有能な社員には最前線で仕事をして欲しいと考えるものです。

とはいえ、頑張りすぎて無意識の間に無理が重なり、心身のバランスを崩してしまう人も少なくありませんから、その点は注意すべきでしょう。長期的にキャリアを形成するためには、心身のバランスを健康に保つことが大事です。

また、企業の側も、時短勤務によって朝夕の重要な会議に出れない社員のために会議の時間帯を見直したり、テレビ会議やリモートワークを導入することで、育児との両立を頑張っている人が問題なく仕事のできる環境を広げる努力が必要です。

こういったリモートワークや在宅勤務といった働き方については、以下の記事で詳しく説明していますので、ぜひこちらも参考にしてください。

企業文化の変化

マミートラックの問題を是正するには、企業全体で意識改革を行う必要があり、それには企業文化を変化させる努力も重要となります。

たとえば、残業を無くし社員一人ひとりの生産性を向上させる施策を打ち出したり、海外の企業のように成果重視で評価したりといった、働き方に関する考え方をアップデートする必要があります。また、育児との両立を頑張る女性と直接関わる管理職を中心に、マミートラックについての理解を深めてもらうことも重要です。

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特にマミートラックの問題の根底には、上司が持つ無意識のバイアスや、仕事よりも家庭を優先しなければならないといった、女性自身が持つ性役割に関する固定観念があります。そのため、そのあたりの意識を変えることが企業文化変化の第一歩であることを認識しなければならないでしょう。これは働く女性と上司という個人間の問題だけではなく、企業全体の問題なのです。

マミートラックに対する企業の取り組み

最後に、マミートラックに関する実際の企業の取り組みを紹介しておきます。

カルビー

大手スナック菓子メーカーのカルビーでは、いわゆる時短勤務をする女性に対しても一般社員と同じだけの昇進機会を与え、そこで成果を出せればキャリアアップにつながる制度を本格的に導入しています。

具体的には、時短勤務のスタッフは勤務時間が過ぎれば、たとえ会議中であっても退社でき、通勤時間やスキマ時間に資料をまとめるなど必要な仕事ができるようになっています。自宅のパソコンやスマホなどで部下や取引先とすぐに連絡がとれるように整備することで、たとえ会社内にいなくても問題なく業務を進められる体制にしているわけです。

日産自動車

日産自動車では、いわゆる在宅勤務制度やフレックスタイム制を拡充し、特に育児との両立をはかる女性が働きやすい環境の整備に努めています。

具体的にはコアタイムを設けないフレックス制度によって、個人が自由に働く時間を設定できるようにしたり、1日の労働時間を8時間にフィックスさせるための「ハッピー8」を社員全体に徹底させたりしています。

これによってスタッフに柔軟なタイムマネジメントを実現させ、育児との両立をしやすくしているわけです。ワーキングマザーという存在を一般化し、マミートラックの抱える問題を是正する有効な対策といえるでしょう。

マミートラック を抜け出してより良い仕事に

近年、育児との両立を目指す女性の抱える問題として注目されているマミートラックについて、NHKの調査などを参考に解説してきました。

一時的にマミートラックに陥ってしまっても、自分のキャリアを自律的に捉え、粘り強く周囲に働きかけることで状況を改善できます。けっして楽な道ではありませんが、1 on 1ミーティングなどを利用してマミートラックを脱出するために根気強く積極的に上司に意思表示しましょう。

企業の側も、マミートラックは企業全体の問題であることを認識し、社員のキャリアプランについて捉え直さなければならないでしょう。育児をしながら生産性の高い仕事ができないといった固定観念を捨て、育児との両立をはかる女性が最大限パフォーマンスを発揮できる環境を整える努力が必要です。

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