2018年が「副業元年」といわれるワケ
2018年は「副業元年」だと言われています。1月に厚生労働省が「モデル就業規則」を改訂し、これまであった副業禁止の項目が削除され副業を容認する規則に変更されました。これにより大手企業を中心としてさまざまな企業が就業規則を改訂し副業を解禁する企業が増加しています。
副業解禁は働き方改革の一環
このように2018年が副業元年になったことには、日本政府が推進している働き方改革の影響が大きいと考えられます。
2017年に政府の働き方改革実現会議という機関が発表した「働き方改革実行計画」の中で副業の推進が盛り込まれており、冒頭で説明したモデル就業規則の改訂にも大きな影響を与えました。それまで、モデル就業規則では規則の中に副業禁止項目が設けられていました。しかし、2018年の改定でこれが削除され、勤務時間外での副業・兼業なら認められるような規則に改訂されました。
このような働き方改革の潮流を読み取ることにより、副業を認める風潮が企業の中にも醸成されつつあります。

副業を容認する企業は13%
ただし、実際に副業を容認している企業はけっして多いわけではありません。転職サービスのエンジャパンが2018年5月に発表した正社員3,000名に対する副業に関するアンケートによると、88%の人が副業に興味を持っている一方で、副業が認められている会社は13%だという結果が発表されています。
副業を容認する企業はじわじわ増えていると言われていますが、いざ副業と容認すると人事制度を大幅に改訂する必要があります。また、情報セキュリティや競合避止、評価制度など副業のために調整しなければならないテーマは多岐にわたるので、企業もまだ副業をどのように会社の制度に組み込むべきなのかを模索している最中だと考えられます。
副業推進の動きは加速化
このように副業が企業全体で徐々に推進されている一方で副業ができる環境は着実に整えられつつあります。
一部の企業は副業の容認が優秀な人材の獲得や成長、離職率につながると公言して積極的に副業化を推進しています。また、副業のマッチングサービスや、副業者のためのレンタル、シェアオフィスなども増加しており、社会的に副業を行いやすい環境が構築されつつあります。
公務員は副業をできるか
ちなみに、サラリーマンは昔から雇用契約の内容次第で副業が可能だったのに対して、公務員は法律によって一律で副業が禁止されていました。この規制も昨今の働き方改革の潮流を受けて改善しつつあります。
公務員の副業は禁止だった
公務員は法律によって明確に副業が禁止されています。国家公務員は国家公務員法103条、104条、地方公務員は地方公務員法38条によって副業が禁止されています。
これらの文言によれば国家公務員は営利企業の役員になってはいけない、内閣総理大臣および所轄庁の長の許可がない限り兼業はできないと決められています。そして地方公務員は任命権者の許可を受けなければ企業の経営者や役員、兼業を行うことが禁止されていました。
文言上は許可さえあれば兼業を行う余地はありますが、この許可はほとんど認められませんでしたので、実質的に公務員は副業が禁止されていました。
国家公務員の兼業を認める見通し
このように実質的に国家公務員の兼業は実質的に禁止されていましたが、政府が国家公務員の兼業について一部の活動では容認する見通しを示しています。
2018年6月の日経新聞は、政府はNPO法人やNGOなどの公益活動に目的を限定して兼業を認める方針で、国家公務員の兼業を正式に認める調整に入ったと報道しています。公益活動とは利益を追求しない、社会福祉などを目的とした活動のことを指します。
副業を可能にする動き
実際にすでに副業を認めている地方自治体も存在します。たとえば神戸市では2017年から職務外で報酬を得て地域活動に従事する際の基準を明確にし、社会性、公益性が高い活動での副業を推進しています。
副業することによって、公務で得た知識やスキルを社会に還元したり、副業から得た知識やスキルを公務に還元することによって、よりレベルの高い住民サービスを行うことが目的だと言われています。奈良県生駒市などの地方自治体もこれに追随しています。
公務員の副業・兼業については賛否両論ありますが、公益活動に従事するという公務員の職務特性を考えると、その職務能力向上や情報収集にも役立つ副業を一律禁止とすることは非生産的とも言えるのではないでしょうか。
副業解禁のメリット・デメリットと課題
次に、副業を解禁することによって具体的にどのようなメリット・デメリットがあるのか企業の視点から説明します。
メリット
まず副業解禁は柔軟な働き方を実現し、優秀な人材の確保、人手不足の解消につながると言われています。好景気が続いていることにより優秀な人材を確保するのが難しく、人材を確保することが困難になっています。副業を解禁することによって起業したいモチベーションの高い人材を雇用できますし、副業したい人を雇用することによって人手不足が解消します。
また、副業により社員が会社の業務だけでは得られない経験を積んだり、情報収集をしたり、人脈を形成することによって社員が成長し、成長した社員が会社の成長に貢献してくれるというメリットも考えられます。
デメリットと課題
もちろん、副業を解禁するとデメリットも生じます。
まず考えられるのが本業に対する悪影響です。社員に副業を許可することによって本業の情報が漏えいしたり、知らない間に競業が発生する可能性もゼロではありません。さらに本業後の副業バイトは「残業」として割増賃金を支払わなければならないのではないかという論点も存在します。
また、副業ワーカーを受け入れる体制を構築するのが難しいという問題もあります。ただの時間給で働くアルバイトならば問題ありませんが、業務やプロジェクトの一部を副業ワーカーにまかせてどのように進捗管理するのか、成果を評価するのかという問題があります。業務内容の可視化やデジタル化、タスク単位での賃金策定ができていなければ副業ワーカーを適切に活用することは困難です。
副業を解禁した企業
では、まだ副業を解禁していない企業が多い中でいち早く副業を解禁した企業はどのような取り組みを行っているのかについて説明します。
エイチ・アイ・エス
大手旅行代理店のエイチ・アイ・エスは2018年4月から副業を解禁しています。
ただし、副業として認められるのは個人事業のみで二つの会社で働く二重労働の解禁は見送っています。こうした対応をとる企業は多いようです。
副業を解禁した背景には訪日外国人旅行者と地域ガイドをつなぐC2Cマッチングサイトを立ち上げて、インバウンド強化の国策に貢献するために、社員も積極的に通訳ガイドに取り組む体制をつくりたいという主旨があります。
ちなみに、このときに、時短社員へのフレックス勤務の拡大、在宅勤務のトライアル運用、再雇用制度の導入などについて取り組むことを発表しました。
新生銀行グループ
新生銀行も2018年4月から副業を解禁しています。新生銀行の場合は自営業も他社雇用による副業も認められています。
副業の解禁は所定の基準を満たすすべての社員が対象になり、競業や情報漏えい、信用失墜行為などいくつかの禁止事項に抵触する可能性がなければ、本人が申請しグループ人事部と上長による合議で検討されます。
副業が認められると、副業に従事した業務時間を毎月グループ人事部に報告する必要が発生するようです。
「副業元年」後半戦の動きに注目
2018年は副業元年であると言われていますが、まだ多くの企業は副業を解禁していません。ただし、政府の働き方改革に関する方針を受けて兼業を解禁する企業は今後も着実に増加すると考えられます。
本記事で説明した2つの企業以外にも、たとえばソフトバンクやコニカミノルタは2017年にすでに副業が解禁されていますし、富士通も2018年以前から従業員個人の社会活動を社内にも広げるなかでどのように本業と両立できるように副業のための制度策定を行うべきか模索しています。
今後どのような企業が副業を解禁するのか、「副業元年」後半戦の動きに注目してください。

