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2019年は日本の職場環境が変化する節目
働き方改革関連法が施行され、外国人材の受け入れ拡大が始まるなど、2019年は日本の働く環境が大きく変わる節目になるはずだ。
とくに外国人材に関して、コンビニの店頭や工場、農作業、ソフトウェア開発の現場など、さまざまな職場で働く海外の人を見かけることはすでに珍しくないが、スキルを持つ海外からの人材が増えることは、人手不足の割に働き方改革が進まない日本の職場環境や仕事観を考えるよい機会になるかもしれない。
日本での就労が増加するであろうアジア太平洋地域に暮らす人々の仕事観は、日本の労働者とどう違うのだろう。
マイクロソフト傘下でビジネス系SNS「LinkedIn」を運営しているリンクトイン・ジャパンの調査によると、日本は「仕事で実現したい機会を達成する自信」がもっとも低い、という結果が得られてしまった。
これに対し、自信の高かったのは経済成長が急速に進む地域で、1位インドネシア、2位インド、3位中国およびフィリピンである。リンクトイン・ジャパンは、「自国の経済成長への期待」が自信の高さにつながった、とみている。
日本の職場環境や日本人の仕事観を客観的に見直すため、この調査の内容を紹介しよう。
発展して守りに入ってしまった日本
リンクトイン・ジャパンは、2018年9月から10月にかけて、日本、オーストラリア、中国、香港、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポールで18歳から60歳を対象に調査を実施。約1万1,000名から回答を得たという。
心理的要因が機会実現を阻む
現在の仕事でもっとも実現したい機会を答えてもらったところ、日本では「新しいスキルを学ぶ」(20%)、「国内でやりがいのある仕事」(18%)、「キャリアアップ」(7%)という項目が上位に入った。ほかの地域でも、「新しいスキルを学ぶ」「キャリアアップ」は多くの人が挙げている。
日本とほかの地域で大きく違ったのは、「起業したい」という回答だ。日本では選ぶ人の少ない項目だが、日本と中国を除く地域でいずれもトップ3に入った。日本の起業マインドの低さが調査結果に表れたようだ。
また実現したい機会を阻む要因は、いったい何なのだろうか。日本で多かった阻害要因は、「個人の財務状況」(26%)、「失敗に対する恐れ」(24%)、「自信がない」(23%)といった具合で、やはり自信の低さが大きく影響している。
ほかの地域では、「個人の財務状況」の次に「ネットワーキングやコネクションの欠如」と「求人市場が厳しい」が挙げられていた。リンクトイン・ジャパンは、日本では「心理的な要因」、ほかの地域では「外的な要因」が機会の実現を阻害している、と分析した。
新しいテクノロジーに対する意欲も低い
仕事で将来実現したいと願う機会は、日本だと「生活における選択肢を持つ」(39%)、「ワークライフバランスのある仕事」(38%)、「自分のスキルを活用できる」(38%)、「新しいスキルを学ぶ」(31%)との回答が多かった。
一方、日本で選択者の少ない「起業したい」(7%)、「新しいテクノロジーを学びたい」(14%)という項目において、前者はインドネシアとフィリピンで半数以上が、後者はインドで35%、中国で53%が選ぶなど、異なる結果が得られた。
「新しいテクノロジー」と一口に言っても、多岐にわたっており具体的なイメージがつかみにくい。これについては、リンクトイン米国本社の発表した別のデータが参考になる。
米国ではテクノロジー関連職の需要高まる
リンクトインは、米国で需要が急速に高まっている職種やスキルを調査し、「2018 U.S. Emerging Jobs Report」としてリリースした。このレポートを読めば、どんな技術が注目されているか分かり、学ぶべき「新しいテクノロジー」を把握できる。
AI、ブロックチェーン、データサイエンスに注目
リンクトインが第一に挙げたのは、やはり人工知能(AI)である。需要が急上昇した15種類の仕事のうちAIと関係するものは6種類あり、AIにかかわるスキルは技術分野にとどまらず、あらゆる業界で求められ出している。AIはまだ初期段階であるものの、労働市場に影響を及ぼし始めており、しかも、予想外の分野も影響を受けているという。
そのほかには、AI実装に必要な機械学習(マシンラーニング)、データサイエンス、暗号通貨(仮想通貨)の基盤技術であるブロックチェーンに対する注目度が高い。特に需要の多かった職種は以下のとおり。
1位:ブロックチェーン開発者(前年比33倍)
2位:マシンラーニング技術者(前年比12倍)
3位:アプリケーション販売の幹部(前年比8倍)
4位:マシンラーニング専門家(前年比6倍)
5位:医薬品や医療機器を専門的に扱える人材(前年比6倍)
それでもソフトスキルが欠かせない
AIやロボットに仕事が奪われる最悪の事態に備える必要があるかというと、リンクトインは誤解だとした。AIに関係する分野と仕事が増え続けるだけで、AIの関与が高まるのに応じて人間の持つスキルの重要性も高まっていく、と指摘した。
たとえば、対人的なコミュニケーションのスキルや状況を認識する能力は不要にならず、今後も求められるとしている。事実、対話によるコミュニケーション、リーダーシップ、スケジュール管理といった「ソフトスキル」を持つ人材は不足しており、需要と供給のバランスが悪いそうだ。
求められる「昭和的な働き方」からの脱却
リンクトイン・ジャパンの調査結果をみると、AIやブロックチェーンで大きく変わろうとしている世界に対し、消極的な日本の労働者像が浮かび上がる。30年続いた平成が終わる今でも、昭和的な働き方を引きずっているかのようだ。
これに関しては、ワークスモバイルジャパンが実施した「昭和的働き方」に関する意識調査が興味深い。
それによると、会社員は54.6%が勤務先を「昭和的」と評価しており、30代に限ると6割強が「昭和的」と答えていた。そして「昭和的な働き方」の条件を尋ねると、「休暇が取りづらい」(56.3%)、「働く時間が長い」(47.9%)、「残業が評価される」(43.3%)という声が多かった。
昭和的な働き方の悪い点については、「慢性的に残業がある」(55.8%)、「業務の進め方が非効率的」(47.6%)に続いて、「IT利活用が進んでいない」(42.8%)という回答が多い。また、「イマドキな働き方」に当てはまるものとして「働く場所がフレキシブルに変えられる(テレワーク、リモートワークなど)」を36.2%の人が選んだ点も、ICT全盛時代の影響だろう。
AIやブロックチェーンなどと比べればレベルの低い話であるが、積極的なICT活用を最優先で推進しなければならない。それを働き方改革の第一歩にして、職場のグローバル化、最先端化に取り組み、目まぐるしく変化する世界のビジネスから取り残されないようにすべきだろう。