人工知能がクリエイターになる時代 - 映像も音楽も小説も創作、AI絵画4900万円も

ニューヨークで開かれたオークションで、AI(人工知能)の描いた絵画が43万ドル(約4,887万円)で落札された。AIは“受け身”のデータ分析を得意とするが、絵や音楽、文章の制作といった創作活動に使う試みも大きな成果を上げている。現在のAIは人間の猿まねに過ぎないとされつつも、独創性や芸術性が必要とされない領域なら「創作」も十分実用的になってきた。AIがクリエイターにもなれる時代が来そうだ。

人工知能がクリエイターになる時代 - 映像も音楽も小説も創作、AI絵画4900万円も

AIは「創作」もできるようになった

43万ドルの絵画をAIが描いた

米国ニューヨークにあるクリスティーズが10月に開催したオークションにおいて、「Edmond de Belamy, from La Famille de Belamy」という絵画が43万2,500ドル(約4,887万円)で落札され注目を集めた。決して安くない金額だが、ときおり数十億円、数百億円という落札価格の名画が登場することを考えると、驚く話でない。何の変哲もない肖像画なのに、なぜこれほどの高値がついたのか不思議に思う。

その秘密は、絵の作者にある。描いたのは人間でなく、人工知能(AI)だったのだ。正確には、フランスを拠点に活動しているObvious ArtというグループがAIアルゴリズムを使って制作した。

ちなみに、クリスティーズは今回の競売により、アルゴリズムで作られた芸術作品を取り扱った世界初のオークションハウスになった、としている。

AIはデータ処理係からクリエイターへ

AIの応用といえば、医療用画像を解析して診断を支援するシステムや、写真を調べて「猫」「犬」「人間」「建物」といったアルバムへ自動分類する機能などが思い浮かぶ。AIは画像や音声のようなデータから特徴を見つけ出すことが得意だ。たとえば、グーグルの純正スマートフォン「Pixel 3」などで提供されている「Googleレンズ」は、カメラを向けた被写体が何であるか認識する。

この種の作業は、本来なら人間の方が正確で間違いが少ない。ただ、AIは大量のデータを大きなミスなくそれなりの精度で高速処理できるため、人間の負担を減らす目的で利用される。人間は長時間作業していると疲れてミスを起こすが、AIであればその心配はない。そこで、与えられたデータを黙々と処理する業務で実際に活用され始めた。

ところが、冒頭で紹介したAIの応用は、単純な受け身動作ではない。人間の手助けがあったにしろ、作品を作り出した。AIは、比較的単純な作業だけでなく、創作活動まで人間の代わりを務めるようになるのだろうか。

AIはどうやって絵を描く?

GANアルゴリズムで生成

クリスティーズで落札された絵は、ニューラルネットワークの一種である敵対的生成ネットワーク(GAN)アルゴリズムで作られた。絵の制作過程は以下の通り。

(1)14世紀から20世紀に描かれた肖像画1万5,000点の画像データセットを使って学習させると、それを参考に生成器(Generator)が新たな画像を出力する。

(2)この画像を識別器(Discriminator)が人間の描いた絵と比較し、違いを識別できる場合は誤差を求めて生成器へ伝える。

(3)生成器は誤差データを使ってより本物らしい絵の画像を出力する。

(4)生成器と識別器は(2)と(3)の処理を繰り返し、識別器が出力画像と人間の描いた絵を見分けられなくなったら、完成とする。

Obviousはこの作業を繰り返し、Belamy家という架空の一族の肖像画11点を制作した。クリスティーズのオークションで落札された絵はその内の1点で、絵の右下には制作に使われたアルゴリズムを示す数式がサインとして記入されている。

「レンブラントの新作」を描くAIも

AIに絵を描かせるという試みは、以前から存在する。マイクロソフトなどが取り組んだ「The Next Rembrandt」プロジェクトでは、「夜警」という作品で知られ「光の魔術師」などと呼ばれる画家、レンブラント・ファン・レイン(1606年~1669年)の「新作」をAIで作った。

レンブラントの作品を3Dスキャンしてデータ化し、これをベースにレンブラント風の肖像画を生成し、最終的に3Dプリンタで出力した。プロジェクトの公式サイトで作品を拡大して見ると、その出来栄えに驚かされる。

出典:The Next Rembrandt

また、テクノロジーを使ったアートを表彰するルーメン賞は、AI製の絵「The Butcher's Son」を2018年の金賞に選んだ。世界的な芸術賞でこの種の絵が選ばれたのは、これが初めてだという。

出典:ルーメン賞 / The Butcher's Son

AIが創作したモノたち

実はは小説や音楽も得意

AIによる創作活動は、絵画にとどまらない。はこだて未来大学教授の松原仁氏が中心になって活動している「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」は、AIに作らせた小説を日本経済新聞社の「星新一賞」へ応募し、一次審査を通過させてしまった。

ほかにも、グーグルのプロジェクト「Magenta」、ソニーコンピュータサイエンス研究所が作曲したザ・ビートルズ風の曲「Daddy's Car」、自動作曲サービス「Amper Music」「Jukedeck」など、音楽に関するものも多い。

特にAI作曲は実用レベルに達していて、著作権フリーのBGMとして便利に利用できる。

日経の記事を書く「AI記者」

AIの自動生成物を見て驚いたのは、日本経済新聞社が試験的に運用しているAI記者だ。企業の決算データを入力されたAIが「決算サマリー」記事を書き、「日本経済新聞 電子版」「日経テレコン」などで公開している。

単に売上や利益などの数字データを文章に埋め込むだけでなく、数字の背景となる要点をまとめた文章まで書いてしまう。人間がチェックや修整を行っておらず、作成から配信まで完全に自動化されている。

決算発表の集中する時期には、人間の記者だと処理しきれないほど大量の情報があふれる。AI記者は、そんな場面で有効活用されるだろう。

仮想世界を「完全に」自動生成

さらに、先ごろ公開されたAI関連の研究で話題になった事例は、AI処理用チップなどを手がけているエヌビディア(NVIDIA)が開発した3D世界のリアルタイム・レンダリング技術である。

出典:エヌビディア / Invention Has Potential to Create Virtual Worlds for Gaming, Automotive, Robotics, VR

この技術を使うと、3D仮想世界を作るのに必要な3Dオブジェクトを、現実世界のビデオ入力で自動作成できる。たとえば、都市部の道路を走りながら撮影したビデオを解析させると、映っていたビルや自動車などが3Dモデルとして出力される。3Dモデル化されてしまえば、あとは編集アプリで自由に加工可能だ。

3Dオブジェクトの作成や3D空間への配置は、手間のかかる作業である。これがエヌビディアの技術で自動化できれば、ビデオでとらえた現実の都市を舞台にする3Dゲームなどの制作が大幅に省力化される。

AIが人間のあり方を大きく変える?

AI技術の進歩は目覚ましく、チェスや将棋、囲碁といった厳格なルールが存在し、勝敗、つまり正誤が明確に規定された領域では人間の能力を超えてしまった。一方、絵画や3Dグラフィックス、音楽、文章などの分野は、人間が「優れたもの」として受け止める「一般的な善し悪し」や緩いルールは存在するものの、ルールを逸脱する型破りがよい結果につながることもある。こうした制作作業は、従来の技術ではコンピューターの手に負えないものだった。

ルールの明文化が難しいそうした分野でも、AIの能力は人間に近づいてきた。もちろん、現在のAIが出力したものは、人間による作品の猿まねに過ぎない。しかし、高度な独創性や芸術性が必要とされない領域なら、模倣でも十分実用的なこともある。

AIが人間の知性を超える「シンギュラリティ」の到来など待つことなく、産業革命の機械化が人間の働き方や生活全体を変えたように、人間のあり方はAIによって大きく変化させられるだろう。

シンギュラリティとは | 2045年問題・技術的特異点はいつ?AIは人を超えるか | ボクシルマガジン
AI(人工知能)が人類の知性を超える段階といわれる「シンギュラリティ(技術的特異点)」とは?シンギュラリティの意味...
これはAIに仕事を奪われた人の話ではない、AIを使う人の話である | ボクシルマガジン
AI(人工知能)がさまざまな分野で活用され始めている。AIが人の仕事を奪う、2045年には人の能力を超えるなどとい...