受付再開、キリン「ホームタップ」が月額・直販を選んだワケ - 大企業が挑むDtoC

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記事の情報は2019-04-25時点のものです。

キリンビールの「Home Tap(ホームタップ)」は、家庭用ビールサーバーと工場直送のビールをセットにした、定額サービス。申し込みが殺到し新規受付を停止していたが、4月より再始動した。月額制のサブスクリプションモデル、そして工場直送という直販を選んだ狙いを、マーケティング担当に聞いた。DtoC(Direct to Consumer)を紐解く連載の第2回としてお届けする(全3回)。

Home Tapは顧客と一緒につくりあげるサービス

岸本 Home Tapは直販にもチャレンジしています。苦労されたんじゃないでしょうか。

松井 まず、開始当初はECサイトもあまり充実しておらず、直販のノウハウは全くといっていいほどありませんでした。0から1、全く新しいものをつくりあげるなかで、1つのスキームをつくることに大変苦労しました。どんな新規事業でも同じかとは思うんですけど。

工場とは、ほかの商品同様に受給予測を立ててやり取りしています。追加注文や銘柄変更は会員ページで受け付けていて、スピードを求められることもありますが、注文翌日の出荷自体は販売店などへ向けていつもやっているので、仕組みは大きく変わりません。

ただ、規模が小さいため実は手運用でできているところがあります。次は1から10、きちんと事業にしていくフェーズなので、規模が大きくなるにつれて顕在化していない問題が見えてくると思います。それこそ、多くの注文に対応するために受注をAIに任せる、なんて未来があるかもしれません。でもHome Tapは、そこはデジタル化しないでしょうね。

岸本 顧客とのコミュニケーションに関わる部分ですね。

松井 そうです。直販に携わるのは私も初めてでしたが、改めて携わっている人が見えるという「人感」、あたたかみが大切だと感じました。大事な時間に登場するものだから、誰がやっているか分からない“怪しい感じ”が出るのはだめかなと。続けていただくためにはきちんと信頼していただかなくてはならないので、結局「人感」が重要。お客様へメールを送る際も意識しているところです。

会員専用ページイメージ。顧客対応には各チャネルを駆使する(画像提供:キリンビール)

松井 “ぽん”って商品が届くんだけど工場やつくり手の顔が見えて、サーバーから注ぐ手間があって。我々がお届けするだけではなくて、最後はサーバーから注いでいただくお客様とともに仕上げる。ビールを自分で注ぐまでの一連の体験が、Home Tapの価値の根源なんです。

アンケートのお声も、嬉しいものも厳しいものも一つひとつ受け止めています。ダイレクトに繋がり続けられることはすごく強みですし、お客様と一緒につくりあげている最中という認識で我々も仕事をしています。

3年で3万人、ビールに愛を注ぐ集団を形成する

岸本 最後に、今後の展開について教えてください。Home Tapは顧客にとってどういった存在でありたいですか?

松井 会員数はいま1,500人。4月以降は1,000人程度ずつ増やしていって、3年後(2022年3月)には3万人くらいを目標にしています。

岸本 3万人ですか!

松井 そうです。3万人ってすごいですよね。3万の、ビールに愛を注ぐ集団(笑)。

Home Tapは奇をてらったことは何もしていません。ただ食卓がより楽しくなるきっかけになるといいなと思っています。例えば最近夫婦の会話がないとかさまざまな食卓のドラマがあるなかで、週末くらいは何気ないけど幸せな食卓を囲む……サザエさん宅の瓶ビールみたいな、みんなが食卓に集う1つのきっかけになれたら嬉しいなと。食と人とお酒、その三角関係で、幸せな時間が生まれるといいですね。

まだまだ認知度も低いので、頑張ります。

キリンの挑戦から垣間見えたDtoCの本質

Home Tapの取材を通して見えてきたのは、「いい商品」でなければ売れないということだ。言うまでもなく当たり前のことだが、それでも、いい商品でなければ続けてもらえない。

HomeTapの場合は、サービスを提供するキリン、そして利用する顧客がともに持つ「ビール愛」が、その根源にあるように感じた。自信を持って世に送り出せるいい商品を、どうすれば最適な形で顧客へ届けられるか。結果的にDtoC、そしてサブスクリプションというビジネスモデルをとり、顧客に受け入れられたのだろう。

DtoCのパイオニアであるメガネブランドのWarby Parker(米国)や、オーダースーツを展開するFABRIC TOKYO(日本)なども、顧客とのコミュニケーションを生かした商品を自信を持って提供し、ファンを取り込んだ。

DtoCは、「いい商品」を顧客一人ひとりへ真摯に届けることーーものづくりの根幹を突き詰めた結果生まれた、現代のECスタイルなのかもしれない。