TaaS化するトラック業界、自動運転やデジタル化で2025年800億ドル規模へ

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記事の情報は2019-04-26時点のものです。

移動手段がサービス化する「MaaS(マース)」のなかでも、特にトラック輸送業務をサービスとしてとらえる「タース(Truck as a Service:TaaS)」という概念が存在する。ICTや自動運転といった技術の応用により、世界TaaS市場は2025年に794億2,000万ドル(約8兆8,800億円)超へと急成長する見通しだ。この機会をつかむため、トラック業界はどう対応すべきだろうか。
TaaS化するトラック業界、自動運転やデジタル化で2025年800億ドル規模へ

トラック業界をサービス化する「TaaS」

人の移動に使う自動車を所有しておくのではなく、必要な都度サービスとして調達して利用するマース(Mobility as a Service:MaaS)という概念が広まってきた。スマートフォンで好きなときに好きな場所からインターネットに接続し、サービス提供サイトにアクセス可能になった現在、ウーバー(Uber)やリフト(Lyft)などのライドシェアサービスがMaaSの具体的な代表例だ。

現在はまだ人間の運転だが、リフトが自動運転車タクシーの試験運行を実施したり、スーパーマーケットのウォルマートクローガーが自動運転車による配達を行ったりと、自動運転技術によるモビリティのサービス化は着実に近づいている。

自動運転は、乗用車だけで使われる技術でなく、当然トラックなど業務用の自動車にも応用できる。トラックが自動運転で走る時代になれば、物流を支える人々の負担は軽減され、運送事業のサービス化が進むだろう。

このような輸送のサービス化も、MaaSの一種ではある。ただし、市場規模が大きいことから、トラックのサービス化という意味で「タース(Truck as a Service:TaaS)」という言葉で区別され始めた。

TaaS市場は急成長が予想される

TaaSの市場規模はどの程度あるのだろうか。先日発表されたフロスト&サリバンの調査レポート(日本語版英語版)が参考になるので紹介しよう。

2025年には800億ドル規模

フロスト&サリバンは、TaaSにデジタル貨物仲介サービス、テレマティクスサービス、ビジネスアナリティクス(BA)、デジタル小売、トラック隊列走行(プラトーニング)を含めて調査を実施した。世界のトラック市場では、メーカー各社が自動運転化、サービスのコネクテッド化およびスマート化に取り組んでいるため、TaaS化がすでに始まっているとした。

世界TaaS市場の規模は2018年に132億6,000万ドル(約1兆4,826億円)だったが、2025年には794億2,000万ドル(約8兆8,800億円)超へと急成長すると予想している。なかでもデジタル貨物仲介サービスの拡大が大きく、2025年の売上高を542億4,000万ドル(約6兆646億円)と見積もった。

また、テレマティクスサービスで利用されるテレマティクス端末の台数は、2018年の2,570万台から2025年の7,310万台以上へ増え、運行状況を管理可能なトラックが増加することになる。これをサービス売上高の市場規模へ換算すると、2018年が51億4,000万ドル(約5,774億円)、2025年が165億1,000万ドル(約1兆8,460億円)に相当するという。

燃料節約や顧客獲得のメリットも

ビッグデータやIoTで実現されるビジネスソリューションは、市場機会を生み出し、TaaS市場は拡大していく。ICTの活用で得られるメリットは、それにとどまらない。

特に自動運転技術はプラトーニングなどを可能にして、トラックによる輸送業務のサービス化へとつなげてくれる。プラトーニングには運転の効率化も期待されており、トラック1台あたりの燃費を4%から11%節約できるそうだ。

また、見込み顧客に接触してから契約を結ぶまでのリードは約7割がオンラインで得られるとして、今後トラックメーカーやディーラーの営業部門にとっては、オンラインチャネルが差別化する要素になる、と指摘した。そして、顧客とやり取りする複数のチャネルを統合的に扱うオムニチャネル戦略をとると、顧客情報の獲得から見込み客へ転換する割合が40%から50%高まると見込んだ。

トラック業界はどう対応すべき?

フロスト&サリバンによると、さまざまな技術を組み合わせることで、サービスおよびソリューションがトラック業界の収益モデルになるという。たとえば、ボルボ・トラックスは、自動運転ダンプトラック(ダンプカー)による鉱石運搬業務を総合サービスとして提供する。デジタル化は、運行効率の向上、空荷走行の減少、二酸化炭素(CO2)排出の削減、コストの低減といった効果をもたらす。

こうした恩恵を被り、TaaSによる新たな市場機会を活用するには、トラックメーカーやディーラーは以下に示す対応をすべきだという。

  1. リアルタイム診断、サービスおよび修理のオンライン予約、遠隔修理や故障診断および予後診断への対応を進める目的で、デジタル技術関連スタートアップへの投資

  2. デジタルチャネルにおける顧客体験の個別化

  3. デジタルチャネル経由の顧客ロイヤルティ構築、アフターサービスおよびメンテナンス販売に向けた顧客管理プログラムの開発

  4. アフターサービスのコネクテッド化によるサービス差別化と、顧客行動のより深い理解

  5. 先進運転支援システム(ADAS)などの整備、健康管理に向けた取り組み、ドライバーの訓練

ただし、ICT活用やデジタル化、オンライン化はこれまでにないサービスを実現させる一方、サイバー攻撃の標的にされる危険性を高めてしまう。フロスト&サリバンも、データセキュリティが中心的問題になるとみており、トラック業界と政府が協力して安全確保する必要がある、としている。

自動運転の進歩も加速

トラックによる物流は社会のインフラであり、デジタル化による効率向上、自動運転による負担軽減やドライバー不足対策などが求められている。TaaSがトラック業界に大きな利益をもたらし、それが社会の利益につながることは間違いない。

運転すること自体を楽しむ趣味のドライブと違い、トラックの運転は仕事であるため、ドライバーの負荷を下げる自動運転は普及が特に早いだろう。トラックで自動運転が広まれば、自動運転技術の進歩も加速していく。

TaaSはトラック業界の利益になると同時に、MaaSや自動運転の発展にも貢献する。

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