エンジン捨てられない日本は、100年に一度の変革期を乗り切れるか

電気自動車(EV)、自動運転、コネクテッド・カー、MaaS(マース)と、AIやICTなど技術の発展で、自動車業界は「100年に一度の変革期」を迎えている。自動車メーカーが今後も発展していくには、技術を貪欲に吸収しなければならない。ところが、世界と日本では自動車業界の意識に大きな開きがあり、新技術への関心が低いようだ。エンジンを捨てられない日本の自動車メーカーは、この変革期を乗り切れるだろうか。

エンジン捨てられない日本は、100年に一度の変革期を乗り切れるか

自動車業界は100年に一度の大変革期

蒸気はガソリンや電気へ変わった

自動車というと、どのような機械をイメージするだろうか。ガソリンや軽油を燃料として使うエンジン車を思い浮かべる人が多いはずだ。最近では、モーターの力で走る電気自動車(EV)、エンジンとモーターを併用するハイブリッド車(HV)も増えてきた。

何らかの人工動力源で車輪を動かして移動する機械、と自動車を定義すれば、その歴史は250年前までさかのぼる。それは、1769年にフランスで発明された蒸気三輪車である。1873年には英国で電気自動車が発明されている。そして、1800年代の後半から1900年代初頭にかけて、蒸気自動車と電気自動車の時代が続いた。

これに対し、現在主流となっているエンジン自動車の登場は遅い。ガソリンエンジン車は、1885年に二輪車と三輪車がそれぞれ発明され、1886年に四輪車が作られた。蒸気自動車と電気自動車が廃れる一方、エンジン自動車は発展し、1908年に発表された「T型フォード」でモータリゼーションが急速に進んだ。

その後、エンジン優位の状況は100年ほど続くが、今はEVシフトという強い流れが存在する。そのため、自動車業界は現在100年に一度の大きな変革期を迎えた、といわれる。

そしてICTが自動車を飲み込む

大きな変革が起きているのは、自動車の動力源だけでない。

外部と常に情報を交換して多彩な機能やサービスを提供するコネクテッド・カー、自動車を個人で所有せず利用するカー・シェアリング、移動手段をサービスとして提供するMaaS(マース/モビリティ・アズ・ア・サービス)、さらにドライバーを必要としない自動運転など、自動車の業界全体がICTの波に飲み込まれつつある。

自動車メーカーがこの変革期を乗り切り、今後も発展していくためには、従来の自動車関連技術と異なる技術を貪欲に吸収して活用しなければならない。どれだけのメーカーが対応できるだろう。

グローバルの流れに乗りきれない日本

変革期に対する自動車メーカーや一般消費者の意識を探るため、自動車メーカーや販売ディーラー、MaaSプロバイダー、ICT企業の幹部と、一般の消費者を対象に世界各地で実施された、KPMGインターナショナルの調査レポート「KPMGグローバル自動車業界調査」をみてみよう。

世界はコネクテッド・カー重視

2030年までの自動車業界における主要トレンドを業界幹部に挙げてもらったところ、世界全体と日本で集計結果に大きな違いが生じていた。

具体的には、世界全体では「コネクティッド・カー技術」を「極めて重要」とする幹部が多かったのだが、日本の業界幹部は選んでいない。また、6位以下の項目についても、「モビリティサービスに関連する項目をグローバルの結果と比べたところ、日本の自動車業界のエグゼクティブの関心が薄いことがわかった」そうだ。

業界幹部が「極めて重要」とした項目は以下のとおり。

【世界】

1位:コネクティッド・カー技術(59%)
2位:バッテリー式EV(BEV)(56%)
3位:燃料電池車(FCV)(56%)
4位:HV(52%)
5位:新興市場での市場成長(50%)

【日本】

1位:FCV(52%)
2位:HV(48%)
3位:新興市場での市場成長(39%)
4位:自動運転車(36%)
5位:ビッグデータからの価値創造(34%)

出典:KPMG / 2019年KPMGグローバル自動車業界調査結果について

出典:KPMG / 2019年KPMGグローバル自動車業界調査結果について

エンジンを捨てられない日本

現状で自動車の動力源はエンジンとモーターの2種類だが、両者の組み合わせやモーターへの給電方法などの違いで多岐に分かれる。自動車メーカーなどの業績は採用する方式に依存するため、どの方式に投資するのかの判断は重要だ。消費者がどの方式を求めるかも、判断の材料となる。

業界幹部が「今後5年間で投資予定あり」とした方式と、消費者が「今後5年間に購入する」とした方式は、それぞれ以下のとおり。

【業界幹部】

HV
- 世界:71%
- 日本:48%

BEV
- 世界:71%
- 日本:55%

プラグインハイブリッド車(PHV)
- 世界:68%
- 日本:43%

レンジエクステンダー付きEV
- 世界:67%
- 日本:43%
※エンジンで発電した電力でも走行可能なEV

内燃機関エンジン
- 世界:65%
- 日本:63%

FCV
- 世界:60%
- 日本:38%

【消費者】

HV
- 世界:35%
- 日本:39%

内燃機関エンジン
- 世界:19%
- 日本:22%

PHV
- 世界:18%
- 日本:23%

BEV
- 世界:12%
- 日本:10%

FCV
- 世界:9%
- 日本:4%

レンジエクステンダー付きEV
- 世界:7%
- 日本:1%

世界全体の結果では、業界幹部はHVとBEVを挙げる割合が高かったのに対し、日本は内燃機関エンジンがもっとも高かった。消費者の結果は、世界も日本もHVが4割弱でほかの方式を引き離している。日本の業界幹部の選択は世界や消費者と大きく異なり、「エンジンを捨てられない」ようだ。

世界や消費者とも異なる日本の業界

自動車メーカーが「自動車を作って売るだけ」で済んでいた時代は終わろうとしている。消費者が自動車を所有せず、MaaSプロバイダーを利用して移動手段を確保するようになると、自動車メーカーはモビリティ・サービスを自ら、もしくは他社と連携して提供しなければ生き残れない

KPMGがモビリティ関連シェアリング・エコノミーについて主な成功要因を尋ねたところ、次のような結果が得られた。

【業界幹部】

ブランドの信頼性
- 世界:41%
- 日本:25%

いつでもどこでも利用可能なこと
- 世界:26%
- 日本:16%

コミュニティや価値観の共有
- 世界:20%
- 日本:36%

TCO(自動車の総保有コスト)
- 世界:13%
- 日本:23%

【消費者】

ブランドの信頼性
- 世界:43%
- 日本:48%

いつでもどこでも利用可能なこと
- 世界:39%
- 日本:38%

コミュニティや価値観の共有
- 世界:16%
- 日本:18%

TCO
- 世界:23%
- 日本:34%

モビリティサービスを利用するつもりはない
・世界:17%
・日本:16%

消費者や世界の業界幹部が「ブランドの信頼性」を多く選んだのに対し、日本の業界幹部は「コミュニティや価値観の共有」に注目しており、ここでも相違が目立つ。また、消費者は「いつでもどこでも利用可能なこと」も重視していた。

EV・自動運転で迫る「業界変革」

自動車市場の変革は、EVシフトや自動運転などさまざまな技術が重なって起こされる。そこで、最近の興味深い動きや技術をいくつか紹介しておこう。

他業種が参入するEV市場

まずEVの分野では、本田技研工業(ホンダ)が2019年下半期にEVを発売するとし、3月にスイスで開催される「ジュネーブ国際モーターショー2019」へプロトタイプ車を出展すると発表した。EVシフトへの流れが強い欧州市場を強く意識しているのか、ホンダは2025年までに欧州で販売する自動車の3分の2をEV化する計画もある。

EVは比較的シンプルな構造のモーターが動力源であるため、複雑なエンジンのノウハウを持たないメーカーでも開発しやすい。たとえば、サイクロン掃除機や羽のない扇風機といった家電品で知られるダイソンが、自社開発EVの販売を計画している。

大手どうしの提携も加速

EVにとってはバッテリーが重要な構成要素だ。だが自社開発には限界もあり、自動車メーカーは蓄電技術を得意とする企業と手を組むことになる。実際に、トヨタ自動車がパナソニックと車載用電池の分野で提携したり、フォルクスワーゲン(VW)が全固体電池のベンチャー企業であるクアンタムスケープに1億ドル(約109億円)出資したり、といった動きがある。

また、FCVに関しては、アウディと現代自動車(ヒュンダイ)が燃料電池について特許クロスライセンス契約を結び、トヨタも燃料電池の燃料となる水素事業に本腰を入れた。

このように、今後の自動車業界は電気と切っても切り離せない関係を構築していくわけだが、VWに至っては、自動車から住宅やオフィスビルなどに電力を供給するVehicle to Home(V2H)や電力を電力会社へ提供するVehicle to Grid(V2G)を見据え、電力販売事業「Elli」を始めるとした。

自動運転の実用化は目前

自動運転は技術自体が驚異的なうえ、事故や飲酒運転といった自動車にまつわる問題を一掃する可能性があり、期待が高い。

公道での運用も始まっていて、フォード・モーターとウォルマートは自動運転車による試験的な配送サービスを開始し、クローガーは同様のサービスを正式に提供する。

また、ボルボ・トラックスは自動運転ダンプトラック(ダンプカー)による鉱石運搬サービスを開始する。

完全な自動運転とは異なるが、英国政府はドライバーの運転するトラックに複数のトラックを自動運転で追従させる隊列走行(プラトーニング)の試験に取り組んでいる。隊列走行はドライバー不足対策につながる注目技術であり、アップルも関連特許「PELOTON」を取得済みだ。

日本の自動車業界は「茹でガエル」に

KPMGの調査結果をみると、日本の業界幹部は既存の自動車という枠から抜け出せていないように感じる。特に、コネクティビティ、デジタル化、サービスとしてのモビリティに対する関心が低い。このままだと日本の自動車メーカーや関連企業は、変化していくモビリティ市場で「茹でガエル」になりかねない。

ダイソンがEV事業に乗り出し、ニコンが自動運転車の「目」である距離計測センサのLiDAR(ライダー)の開発企業ベロダイン・ライダーに出資するなど、予想外のプレイヤーが自動車業界と関連を持ち始めている。

自動車とかかわる業界にいるのなら、最新技術に対する感度を高くしなければならない。また、関係ない業界だとしても、自分の持つ技術やサービスが自動車やMaaSに活用できるのでないか、と常に考える必要がある。

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