イヤホンなどのヒアラブルデバイスに注目
ソニーの携帯カセットテープ・プレーヤー「ウォークマン」が40年前に発売された当初、ヘッドホン姿で街を歩くと奇異な目で見られた。それが今では、当たり前の風景だ。そのあいだに、再生される音楽メディアはテープからCD、MD、MP3ファイルへと変化し、今やストリーミング配信になった。
ヘッドホンやイヤホンはワイヤレス型が増え、使われる無線技術もアナログ方式のFM電波から、デジタル方式のBluetoothに進化した。しかも、ただ音を出すだけでなく、ノイズキャンセリング対応だったり、スマートフォンと接続して通話できたりするなど、高機能化している。
最近では、「スマートイヤホン」と呼ばれる、耳に装着するスマートスピーカーといった位置付けの音声アシスタント対応ウェアラブルデバイスも増えてきた。そして、従来のイヤホンと異なる多彩な機能を備えるウェアラブルデバイスも含め、ヒアラブル(hearable)などと総称され始めている。
スマートウォッチやフィットネスバンドの普及で身近な存在になったウェアラブルだが、ヒアラブルはこれらに続いて需要が高まると期待される注目デバイスである。
成長率はすでにスマートウォッチ並み
ヒアラブルデバイスの出荷台数は順調に増え、その成長率はすでにスマートウォッチと肩を並べている。そんな状況を示す調査結果があるので紹介しよう。
現在のヒアラブル市場トップはアップル
1つ目は、IDCが発表した2019年第2四半期の世界ウェアラブル市場に関する調査結果だ。それによると、全ウェアラブルデバイスの出荷台数は6,770万台で、前年同期から85.2%も増えている。
この好調な市場において、ヒアラブルは3,180万台出荷し、同250.0%増という大きな伸びを記録した。ウェアラブルデバイス全体に占める割合も、24.8%だったものが半分近い46.9%へと高まった。急成長の理由について、IDCは、新製品が大量に発売されたことと、これまでスマートウォッチやフィットネスバンドを使っていた消費者が「第2のウェアラブル」として購入したこと、という2点を挙げた。
この分野で最大手のメーカーは、ワイヤレスイヤホン「AirPods」を擁し、人気ブランド「Beats」を傘下に収めたアップルだ。出荷台数1,590万台、前年同期比218.2%増、市場シェア50.2%と、他社を大きく引き離している。
2位は、自社開発の「Galaxy Buds」に加え、スピーカーで有名な「JBL」ブランドを持つサムスン電子。3位は、前年同期比714.8%増という驚異的な成長率のXiaomi(シャオミ)。4位は、著名オーディオ機器メーカーのボーズ。5位には、「Amazon Alexa」「Google Assistant」「Apple Siri」という3種類の音声アシスタントに対応する「Jabra」ブランドデバイスを展開するGNグループが入った。
1位から5位の出荷台数などは以下のとおり。
順位 | メーカー | 出荷台数 | 市場シェア | 前年同期比 |
---|---|---|---|---|
1位 | アップル | 1,590万台 | 50.2% | +218.2% |
2位 | サムスン | 330万台 | 10.2% | +252.1% |
3位 | シャオミ | 210万台 | 6.5% | +714.8% |
4位 | ボーズ | 180万台 | 5.7% | +288.1% |
5位 | GNグループ | 160万台 | 5.1% | +132.9% |
なお、6位以下の「その他」にまとめられたメーカーは、合計市場シェアが22.3%もあるうえ、成長率も310.5%と極めて高い。このなかから、上位に食い込むメーカーが出てくるかもしれない。
2023年には1億台超に
IDCは、今後ヒアラブル(イヤウェア)デバイスが大きく成長するとみている。具体的には、2019年に7,200万台と予想される出荷台数が、2023年に1億530万台へ増えるとした(ただし、こちらの調査ではイヤウェアとしており、前記調査のヒアラブルと定義が異なる)。
2019年から2023年にかけての年平均成長率(CAGR)は10.0%で、スマートウォッチの9.4%をわずかながら上回るそうだ。
タイプ | 出荷台数(2019年) | 出荷台数(2023年) | CAGR |
---|---|---|---|
スマートウォッチ | 9,180万台 | 1億3,160万台 | +9.4% |
イヤウェア | 7,200万台 | 1億530万台 | +10.0% |
リストバンド | 5,420万台 | 5,500万台 | +0.3% |
その他 | 500万台 | 1,040万台 | +20.3% |
合計 | 2億2,290万台 | 3億230万台 | +7.9% |
アマゾン参入で過熱するヒアラブル市場
成長が期待されるヒアラブルデバイスは現在まだ普及の初期段階であるものの、IDCは細分化の兆しが見られると指摘した。たとえば、スポーツ分野に特化したJabraの製品、高級志向のボーズ製品、さらに聴覚障がい者向けの製品など、多様化しているという。機能面でも、音楽用にとどまらず、音声アシスタント機能はもちろん、機械通訳、ヘルスケアやフィットネスのアドバイスなど、多機能化も進む見通した。
ヒアラブルは、イヤホンに慣れた消費者が受け入れやすい、という特徴を持つ。また、スマートイヤホンなどは情報が音声で伝えられるので、スマートウォッチより使いやすい場面もあるだろう。スマートフォンやスマートスピーカーで音声アシスタントの便利さに気付き、常に利用したい、という需要も出てきたはずだ。
そんななか、アマゾンがスマートイヤホン「Echo Buds」と、眼鏡型デバイス「Echo Frames」を発表した。Echo Budsは、Alexa対応のスマートイヤホンで、「Amazon Echo」などと同じく「アレクサ」というウェイクワードで音声アシスタントを起動できる。Echo Framesは眼鏡型だが、カメラやディスプレイは搭載しておらず、Echo Budsと同じく音声コマンドで使う。そのため、スマートグラスというより、ヒアラブルに分類した方がよいだろう。
スマートスピーカー市場でトップを走るアマゾンがスマートイヤホンを出すと、AirPodsで先行していたアップルも間違いなく影響を受ける。Google Assistant対応スマートイヤホン「Pixel Buds」で存在感を示せていないグーグルだが、新たなヒアラブルデバイスを10月16日の製品発表イベントで披露する可能性がある。
アマゾン、グーグル、アップルという音声アシスタント3大勢力のスマートイヤホンが出揃えば、ヒアラブル市場の競争は一気に過熱する。より魅力的なデバイスが登場しそうで、消費者としては楽しみだ。


※画像出展:米Amazon公式ブログ