目次を閉じる
Bluetoothイヤホン出荷台数、前年比190%で好調
Bluetoothワイヤレスイヤホンのユーザーが増えており、なかでも左耳用と右耳用のユニットが分離した完全ワイヤレス(TW:True Wireless)イヤホンなどと呼ばれるタイプを使う人が目立つ。カウンターポイント・テクノロジー・マーケット・リサーチの調査によると、TWイヤホン市場は急拡大しており、全世界の出荷台数は2019年が1億2,000台、2020年が前年比90%増の2億3,000万台になるという。
今や当たり前のBluetoothイヤホンだが、バッテリ駆動時間に不満を持つ人がいる。サイズの問題でバッテリ容量が限られるTWイヤホンだと、音楽を1日中聴き続けることは困難だ。Bluetoothの規格には、消費電力の少ない通信モード「Bluetooth Low Energy(BLE)」も定められているが、データ通信速度や通信可能距離の面で音楽再生には適さない。
これに対し、Bluetoothの標準化団体であるBluetooth Special Interest Group(Bluetooth SIG)が、BLE上で音楽再生用の通信を可能にする新規格「Bluetooth LE Audio」を発表した。LE Audioに対応したデバイスを使えば、音楽データを低消費電力で伝送するだけでなく、複数の人と同じ音楽を楽しんだり、公共施設での音声案内を無線化したりするなど、Bluetooth活用の幅が広がる。
新規格「LE Audio」3つの特徴
LE Audioは、低消費電力モードのBLEでも音楽を楽しめるほど高音質のデータ通信を可能にする技術だ。LE Audio登場により、従来のBluetooth音声通信は「Classic Audio」と呼ばれることになった。
Bluetooth SIGの資料(その1、その2)から、LE Audioの特徴を整理しよう。
1.少ないデータで高音質
LE Audioは、音声信号をデジタルデータに変換する技術として、「Low Complexity Communications Codec(LC3)」と呼ぶ新たなコーデックが導入される。
Bluetooth SIGは、LC3なら低い転送速度でも高音質が可能としている。実際に既存コーデック「Sub Band Codec(SBC)」と比較したところ、転送速度を半分に落としてもLC3の方が高音質だったという。
データ転送速度が低下すると、消費電力が減る。つまり、バッテリ容量を増やすことなく音楽再生時間を延長できる。現状の再生時間で構わないのなら、逆に必要なバッテリが小さくなるので、今よりもコンパクトなTWイヤホンが作れる。
2.複数の音を同時に送信できる
音声データの送信方式として、独立した複数の音声ストリームを同期送信させるマルチストリーム・オーディオを採用する。
たとえば、ステレオ音声の場合、左チャンネル用と右チャンネル用の音声を同時に送信し、TWイヤホンの右耳用ユニットと左用ユニットが対応するチャンネルのデータを受信する、といった制御が可能だ。現在のClassic Audioだと、左右のチャンネルをまとめて1つのユニットへ送るしかなく、TWイヤホンはユニット間で独自の無線転送を行っている。そのため、転送処理がうまくいかないと左右で音のタイミングがずれてしまう。LE Audioのマルチストリームなら、この問題が解消される。
音楽用の音声データと同時に、通話や音声アシスタント用のデータも送信できる。これまでのBluetoothデバイスは電話に出ると音楽再生が止まっていたが、LE Audioは音楽の音量を下げるだけで、再生を止めずに電話をつなげられる。
3.1デバイスの音を複数人で同時に聴ける
LE Audioでは、1台のデバイスから複数のBluetoothイヤホンへ音声を送るブロードキャスト機能に対応する。
ブロードキャストではデバイスとイヤホンのペアリングが必要なく、通信可能な範囲に入れば通信できる。1台のスマートフォンで再生する音楽を友達と一緒に聴くような使い方のほか、映画館の観客へ一斉に音声配信する、といった用途も考えられる。マルチストリーミングと組み合わせれば、映画館や空港なら音声の言語をチャンネルごとに変えて台詞や案内を流し、適切なチャンネルを選んでもらう、という応用もありえる。
LE Audioは、さまざまな場面で役立つ新たな使い道をBluetoothにもたらしてくれる。
LE Audioの仕様は、テュフ ラインランド ジャパンによると、2020年上半期中に決まる予定だそうだ。仕様が固まりさえすれば、対応製品のリリースに時間はかからないだろう。
Bluetooth活用はますます活性化
無線イヤホンで使われているせいか、Bluetoothは単なる音楽の無線送信技術とみられがちだ。ただし、最近はイヤホン版スマートスピーカーといった位置づけのヒアラブルとしての使い方も増えた。さらに、BLEによってBluetoothは近距離データ通信に多用されている。ウェアラブルやIoT、スマートホーム、スマートビルディングといった分野での利用事例も多い。
スマートホームがBluetooth需要を増加
アライド・ビジネス・インテリジェンス(ABI)によると、IoTの世界でBluetoothが存在感を増していく。スマートホームでは多種多様なデバイスがBluetoothで通信するため、スマートホーム市場の拡大にともないBluetooth対応デバイスも増えるという。
具体的には、2024年時点で8億1,500万台以上のBluetooth対応スマートホーム機器が出荷され、Bluetoothデバイスのなかで最大分野になる、と予測した。BluetoothがLE Audioで強化されれば、利便性が高まり、今までになかった便利なスマートホーム用のデバイスやサービスも開発され、市場拡大も加速する。
もっとも、現在のスマートホームには標準規格が存在せず、ベンダー間の非互換性が普及の妨げになっている。ただ、2019年12月にアマゾン、グーグル、アップルなどが立ち上げたスマートホーム向け通信規格の検討グループ「Project Connected Home over IP」は、障害を一気に取り除く可能性が高い。
この新たな通信規格とLE Audioの相乗効果で、Bluetooth対応デバイスに対する需要がさらに増えていく。