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生活を便利にしてくれるスマートホーム
テレビやエアコンなどの家電製品は、赤外線リモコンを使って手元から遠隔操作することが当たり前だ。最近では、無線LAN(Wi-Fi)や有線LANで通信したりインターネット接続したりする、スマート家電と呼ばれるタイプの製品も増えた。
スマート家電を住宅内エネルギー管理システム「Home Energy Management System(HEMS)」やウェブサービス連携技術「If This Then That(IFTTT)」に対応させると、家電デバイス単体だと実現の難しい高度な機能まで提供可能なスマートホームを構築できる。そうしたスマートホームと人間との接点としては、スマート家電そのものに加え、PCやスマートフォンが使われる。最近では、スマートスピーカーやスマートウォッチも利用されている。
スマートホームでは、さまざまな動作が自動的に実行され、生活がより便利で過ごしやすく快適になる。空調や照明を適切に自動管理すれば、手間をかけずにエネルギー効率向上も目指せる。SFで描かれていたような未来の住宅は、あとどのくらいで実現されるだろうか。
スマートホームの市場規模は?
厳密なスマートホームの定義は存在しないが、調査会社IDCの公表した情報を参考にして、まず現時点および将来のスマートホーム市場の状況を確認しておこう。
2023年デバイス出荷は世界16億台に
IDCは、スマートホームシステムを構成するスマートスピーカー、スマートテレビなどのAV機器、エアコン、照明などをスマートホームデバイスとみなし、市場規模を推定した。それによると、2019年のデバイス出荷台数は世界全体で8億3,270万台となり、前年に比べ26.9%も増えるという。
2018年の同市場は、アマゾンとグーグルが低価格なスマートスピーカーを提供し、それが家庭にある幅広い種類のデバイスを結びつけたそうだ。そして2019年は、デバイス間の連携がさらに進み、より密接な動作をするようになってスマートホームのサービス多層化につながる、と分析している。
消費者は家庭で複数のスマートホームデバイスを使うようになり、スマートホーム対応の製品とサービスも増えることから、IDCはデバイス出荷台数が増加し続けると予想した。具体的には、2019年から2023年にかけての年平均成長率(CAGR)は16.9%で、2023年の出荷台数は16億台弱になると見込んだ。
デバイス種類別の予想出荷台数などは以下のとおり。かっこ内は、全体に対して各デバイスの占める割合。
ホームモニタリング&ホームセキュリティ
- 2019年:1億4,030万台(16.8%)
- 2023年:3億5,170万台(22.6%)
- CAGR:25.8%
スマート照明
- 2019年:5,690万台(6.8%)
- 2023年:1億8,320万台(11.8%)
- CAGR:34.0%
スマートスピーカー
- 2019年:1億4,430万台(17.3%)
- 2023年:2億4,010万台(15.4%)
- CAGR:13.6%
スマート空調
- 2019年:1,880万台(2.3%)
- 2023年:3,750万台(2.4%)
- CAGR:18.8%
ビデオエンターテインメント
- 2019年:3億5,810万台(43.0%)
- 2023年:4億7,540万台(30.5%)
- CAGR:7.3%
その他
- 2019年:1億1,430万台(13.7%)
- 2023年:2億6,940万台(17.3%)
- CAGR:23.9%
合計
- 2019年:8億3,270万台
- 2023年:15億5,740万台
- CAGR:16.9%
アマゾン、グーグル、アップルがけん引
現在のスマートホーム市場は、アマゾンとグーグルがスマートスピーカーでリードしている。そのため、今後しばらくは両社が支配的な立場を守るという。
ただし、IDCは数年後にはアップルも市場を引っ張る存在になるとみている。その根拠として、iPhoneやiPadといったiOSデバイス、macOSで動くMacの人気が高いところに、同社製品以外でも同社のアプリとサービスが利用できるため、徐々に消費者がアップルのエコシステムへ引き寄せられる、との理由を挙げた。さらに、アップルのサービスと互換性のある製品を開発するサードパーティもこの動きに合流するとみる。
アップル以外では、サムスン電子も注目すべき企業の1つだとした。IDCは、サムスンがあらゆるジャンルの製品を手がけているほか、独自OS「Tizen」やAIアシスタント「Bixby」への投資を継続させている点を評価した。
国内のスマートホーム市場は?
日本の状況についてIDC Japanは、スマートホームが拡大し、それがIoT市場をけん引する、との調査結果を発表した。スマートホーム拡大要因として、やはりアマゾンの「Amazon Echo(Alexa)」、グーグルの「Google Home」、アップルの「HomePod」といったスマートスピーカーが重要だという。
そこで、スマートホーム市場発展の鍵を握るスマートスピーカーについて、国内の調査結果をみてみよう。
スマートスピーカーの認知度は全年齢で高い
MMD研究所が実施した「スマートホーム関連製品に関する調査」によると、スマートスピーカーの利用経験者は4.2%、利用を検討している人も同じく4.2%と決して多くないが、それ以外に存在を知っている人の割合は58.4%あり、新しいタイプのデバイスにしてはよく知られていた。Wi-Fiに対応している家電製品も、同様の状況だった。
スマートスピーカーの利用経験を年代別でみると、10代から30代は6%を超えているのに対し、40代から60代なると2%から3%へと利用率が急激に低下して世代間のギャップが存在する。ところが、単に認知度だけを調べると、最低が10代の49.4%、最高が50代の62.7%で、全般的に年代が上がるほど認知度も高い、という逆の結果が得られた。
認知度の点でスマートスピーカーの機は熟しており、これから一気に普及し、それにつられてスマートホーム対応デバイスの利用も増える可能性がある。
2025年の市場規模は4兆円超
それでは、国内スマートスピーカー市場の予想をみてみよう。
富士キメラ総研の「スマートホーム市場総調査 2018」によると、スマートスピーカー市場は2018年が前年比2.9倍の46億円規模で、2025年には200億円規模にまで拡大するという。
さらに富士キメラ総研は、スマートホーム関連市場の規模が、2018年に3兆936億円(2017年比4.8%増)、2025年には4兆240億円(同36.3%増)と予測している。
セキュリティ対策はどうする?
徐々にではあるが、スマートスピーカーをハブにしてスマート家電がつながり、いずれ照明や風呂といった住宅そのものを構成するデバイス群も含むスマートホーム、コネクテッドホームになることは間違いないだろう。その先には、スマートメーターの時代が待っており、やがてスマートシティへと発展していくはずだ。
このように、期待の大きなスマートホーム市場だが、不安もある。あらゆるデバイスがインターネットに接続してIoT化すると、不十分なセキュリティ対策のデバイスが問題になってくる。脆弱(ぜいじゃく)なIoTデバイスを踏み台にしてスマートホームシステムが攻撃されると、生活を脅かす深刻なトラブルを引き起こしかねない。
IoTがスマートホームやスマートシティのアキレスけんになる可能性はすでに指摘されており、世界では対IoTセキュリティ支出が増えていく見通しだ。日本でも、総務省の主導でIoTセキュリティ対策プロジェクト「NOTICE」がまさに実施されている。
IoTやスマートホームデバイスのセキュリティと一口に言っても、対象領域は広く、対策も簡単でない。どこから手を着ければいいのか分からない場合には、手始めに重要生活機器連携セキュリティ協議会(CCDS)が公開しているガイドライン「CCDS 製品分野別セキュリティガイドラインスマートホーム編DRAFT_Ver0.1」に目を通してはどうだろう。まだドラフト版ではあるが、スマートホーム向けIoTデバイスに関するセキュリティを網羅的にカバーしており、全体像や考え方の把握に役立つ。