「ミッション・ステートメント」と似た概念である「ビジョン・ステートメント」との違いや、実例や作成方法を説明していきます。
企業経営に欠かすことのできない「ミッション・ステートメント」について理解を深めましょう。
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- ミッション・ステートメントとは
- 混同しがちなビジョン・ステートメントとの違い
- ミッション・ステートメントの意義と役割
- 最終的な意思決定の指標
- 目的の共有による従業員のモチベーション維持
- 企業を外部へアピール
- 株主への目標提示
- ミッション・ステートメントを構成する9つの要素
- 顧客
- 製品・サービス
- マーケット
- テクノロジー
- 成長・健全性
- 企業理念
- 競争優位性
- パブリックイメージ
- 社員に対する姿勢
- ミッション・ステートメント作成に必要な3つの段階
- 作成専門チームを作る
- 9つの要素を検討する
- 検討した要素を文章化する
- 企業が掲げるミッション・ステートメント例
- 日産自動車
- エイチ・ツー・オー リテイリング
- 個人のミッション・ステートメント
- ミッション・ステートメントで指針を明らかに
ミッション・ステートメントとは
ミッション・ステートメントとは、企業や従業員が共有すべき価値観・社会的使命であるミッションを、実際の行動指針や方針として具体化したものです。
混同しがちなビジョン・ステートメントとの違い
よく似た用語として「ビジョン・ステートメント」があります。
ビジョン・ステートメントとは、企業が将来的に実現を目指している目標や夢を文章化したものです。
時間軸でいえば、ミッションステートメントは「現在」、ビジョン・ステートメントは「未来」となります。
それぞれの目的や内容、要素、共有するべき人なども異なっているので、混同しないよう注意しましょう。
ミッション・ステートメントの意義と役割
企業がミッション・ステートメントを持つことの意義や、そのミッション・ステートメントが持つ役割にはいくつかあります。それぞれ詳細について見ていきましょう。
最終的な意思決定の指標
ミッション・ステートメントは、意思決定の最終的な指標となります。
企業の将来を左右する重要な経営判断は、業界の状況や業績などに基づいて行います。
しかし、いくら業績を数値化し、株主の意向を汲み取ったとしても、100%成功するという保証がない状況下で意思決定を行わなければなりません。
そこで、ミッションステートメントが指標として存在するからこそ、重要な決断を下せるようになるのです。
目的の共有による従業員のモチベーション維持
ミッション・ステートメントを掲げることによって、社員の間で目的を共有できます。これにより、従業員のモチベーションを維持でき、全社員一丸となる狙いがあります。
また、ミッション・ステートメントによって、「働く意味」を見出せずに社員が退職してしまうことの予防的な働きも期待できます。
企業を外部へアピール
ミッション・ステートメントは、その企業がどのような想いや信念を持って経済活動を行っているかをアピールできます。経済活動だけでなく、社会貢献活動の選定の判断軸にもなります。
ミッション・ステートメントとは、企業の存在意義です。企業が社会に対してどのような活動を行い、どのような貢献を行っているのか、端的に表現するものがミッション・ステートメントなのです。
株主への目標提示
株式会社にとって、株主は欠かせない重要な存在です。株式会社は、株主に対して年度の経済活動結果を報告する義務があり、利益を還元しなければなりません。
また、事業活動を推し進めるためには、株主が納得のいく事業計画や目標が必要となります。事業計画や目標の設定根拠について株主の理解を得るためには、ミッションステートメントの存在が有効なのです。
ミッション・ステートメントを構成する9つの要素
ミッション・ステートメントの作成にあたっては、必要な要素が9つあります。これらの要素について、詳細を順にみていきましょう。
顧客
企業にとっての「顧客」とはだれなのか、また、その「顧客」に対してどのように価値を提供するのかについて検討を行います。
ミッション・ステートメントは企業の存在意義を示すものですから、「だれに」対して商品やサービスを提供していくのかを明確にしておく必要があります。
製品・サービス
企業の主要製品・サービスと、その特徴はどのようなところにあるかについての検討を行います。
企業が、どのような製品・サービスを提供することによって社会的な使命を果たしているかについて、ここで明確にします。
マーケット
企業が取り組む事業活動の「事業領域」や、「地理的なマーケット」についての検討を行います。
「マーケット」では、どのような市場において事業活動を行い、社会的使命を果たしていくのかを明確化していきます。
テクノロジー
企業の事業活動において使用するテクノロジーがどのようなものであるかについての検討を行います。
企業が事業活動を推進していくにあたって、どのような技術を用い、社会的貢献を果たしていくのかをここで明確にしていきます。
成長・健全性
企業の事業活動が将来的に成長していくのか、また、財務面での健全性は保たれているかについての検討を行います。
企業は事業活動を通じて、何らかの社会的使命を果たしていくことになります。そのためには、将来にわたって安定的に事業を行う必要があり、事業の成長性や健全性を検討しておく必要があります。
企業理念
ミッション・ステートメントは、企業理念を具体的な行動指針に落とし込んで作成されるものです。そのため、企業理念はミッション・ステートメントを作成するにあたって、当然考慮すべき大切な要素のひとつとなります。
競争優位性
前述の事業の成長・健全性を確保するためには、競争優位性(企業の強み)がどこにあるかを検討しておく必要があります。
事業活動を行う主戦場であるマーケットにおいて競争優位性が確保できなければ、他社との競争に敗れ事業継続が困難になってしまいます。
パブリックイメージ
企業の社会的責任や環境に対する配慮についての検討も求められます。
特に高度成長期においては、企業の成長を優先したために発生した公害や環境破壊が厳しく見直され、社会的責任や自然環境への配慮を社外に積極的に発信することの重要性も増してきています。
社員に対する姿勢
そして、忘れてはいけないのが社員です。継続的に事業を行い、多大な社会貢献を行うためには、相応数の社員が必要となります。
社員をどのように扱うかについて企業側の姿勢を示すことは、長時間労働などの労働環境に関する問題から「働き方改革」が急務とされている日本社会では欠かせない要素となっています。
ミッション・ステートメント作成に必要な3つの段階
実際にミッション・ステートメントを作成するにあたっては、3つの段階を経て行います。その各手順について詳しく見ていきましょう。
作成専門チームを作る
ミッション・ステートメントを作成は、作成専門チームを作って進めるのがよいでしょう。
その作成専門チームの人選は役職や社員のレベルに関係なく、株主も含めて企業運営に関わるすべての人で構成するようにします。具体的に作成専門チームを構成するメンバーは、管理職レベルの社員、一般社員、株主の代表者となります。
ミッション・ステートメントは、企業に関わるすべての人間が理解・浸透するものでなければならないため、このようなチーム構成が望ましいのです。
9つの要素を検討する
作成専門チームが結成されたら、前述の9つの要素それぞれに対する議論を行います。
その際、チームメンバーの意見をすべて吸い上げることが大切です。9つの要素の中でも、企業を存続させるために重要となる「顧客」、「パブリックイメージ」、「企業理念」、「社員に対する姿勢」については、しっかりと時間をかけるようにしましょう。
検討した要素を文章化する
自分たちが理解・納得した9つの要素をつなぎ合わせ、文章化していきます。
文章にする際は、企業の強みや社会貢献、コミュニティなど、一般社会にも共感を得やすい単語を組み込むこともおすすめです。
ミッション・ステートメントは企業内だけでなく、社会に積極的に発信していくものにもなるので、「発信する」という視点で言葉を選択すると良いでしょう。
企業が掲げるミッション・ステートメント例
日産自動車
日産自動車のミッション・ステートメントは、次のとおりです。
「私たち日産は、独自性に溢れ、革新的なクルマやサービスを創造し、その目に見える優れた価値を、すべてのステークホルダーに提供します。それらはルノーとの提携のもとに行っていきます。」
これを見ると、製品・サービスや競争優位性、企業理念が盛り込まれているのがわかります。
エイチ・ツー・オー リテイリング
エイチ・ツー・オー リテイリングのミッションは次のとおりです。
「『地域住民への生活モデルの提供を通して、地域社会になくてはならない存在であり続けること』を企業の基本理念とし、お客さまおよび株主の皆さまをはじめ、お取引先、従業員といったステークホルダーの期待にお応えするとともに、社会全体に対し貢献することが企業としての存在意義であると考えています。」
企業理念を中心に「社会全体への貢献」がミッションとして盛り込まれています。
個人のミッション・ステートメント
ミッション・ステートメントは企業だけのものではありません。スティーブン・R・コヴィー氏の著書『7つの習慣 人格主義の回復』では、個人がミッション・ステートメントを作成することを勧めています。
個人のミッション・ステートメントは、自分はどうなりたいのか、何をしたいのかを明確にするための憲法であるとされています。
個人の場合も企業の場合と同じように、自分がとるべき行動を判断するための重要な要素となります。
ミッション・ステートメントで指針を明らかに
ミッション・ステートメントは、企業活動の行動指針となるものです。
ミッション・ステートメントでは、「だれに対して」「どのような価値を」「どのような製品・サービスで」「どのような市場で」提供していくか、などを記述していきます。
ミッション・ステートメントは社内で共有することにより、従業員のとるべき行動の判断基準となり、従業員全体が同じ方向を見て進めるようになります。
また、社外にも公表することによって、社会における企業の存在意義を示せます。
企業だけでなく、個人もミッション・ステートメントを作れます。
ミッション・ステートメントを作成し、企業、そして自分の進むべき方向性を明らかにしていきましょう。