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ソーシャルビジネスとは
ソーシャルビジネスとは、子育て・高齢者・障がい者の支援や、地方活性、環境保護、貧困、差別問題などさまざまな社会問題の解決を目指して事業を展開し、社会貢献を目指す取り組みのことです。社会課題が多様化してきたいま、行政による福祉的解決には限界がありソーシャルビジネスには注目と期待が寄せられています。
企業や個人からの寄付金や行政からの補助金・助成金などの外部資金だけを頼りに活動するのではなく、ビジネスを手段として社会問題に取り組むことで、事業収益を上げ、取り組みの持続・拡大を目指すという点が最も大きな特徴です。
ソーシャルビジネスの定義
2007年に発足した経済産業省のソーシャルビジネス研究会によると、ソーシャルビジネスとは、「社会性」「事業性」「革新性」3つを満たしているビジネスと定義されています。組織の形態は、株式会社・NPO法人などさまざまな組織が考えられます。
社会性
現在解決がもとめられる社会的課題に取り組むことを事業活動のミッションとすること
事業性
ミッションをビジネスの形に表し、継続的に事業活動を進めていくこと
革新性
新しい社会的商品・サービスや、それを提供するための仕組みを開発したり、活用したりすること。また、その活動が社会に広がることを通して、新しい社会的価値を創出すること
一般企業との違い
一般企業ともっとも異なるのは、目的です。ソーシャルビジネスの目的は、高齢者や障がい者の支援や、地方活性やまちづくり、環境保護、貧困などの社会的課題を解決することです。なかには、子どもの社会におけるいじめに焦点を当てたSNS監視システムなどもあります。
こうした社会課題の解決は、従来は営利目的の事業にはなじまないとして、行政またはボランティアの管轄と考えられて来ました。しかし税金や寄付をよりどころとする福祉的なアプローチには、限界があります。
事業の維持・継続・拡大は外部環境によって左右されがちであり、長期的な視点で社会問題に取り組むことが難しいのです。このため、人命や人類の存続に影響のある緊急度の高い問題も未解決のまま深刻化してきたという側面があります。
そこで一般企業でもCSRとして社会貢献が使命のひとつに掲げられることが増えて来たのですが、これはあくまで事業で利益を出したうえでのこと。企業側からすると、真の目的は社会問題の解決ではなく、「自社ブランディングのため、イメージアップのため」というのもまた事実です。社会的課題の解決を第一とするソーシャルビジネスとは、根本的に目的が違うといえます。
ソーシャルビジネスの現状
ソーシャルビジネスの市場規模
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが平成27年に発表した「我が国における社会的企業の活動規模に関する調査 」でソーシャルビジネスの市場規模が算出されました。
それまでも、社会的企業の市場規模については、経済産業省などさまざまな機関・団体から推計値が発表されていましたが、同調査では「社会的企業の範囲や定義が異なることもあり、大きな差異が生じていた」と指摘。以下7つの要件をすべて満たす企業を社会的企業と定義し、その市場規模を推計しています。
(1)「ビジネスを通じた社会的課題の解決・改善」に取り組んでいる
(2)事業の主目的は、利益の追求ではなく、社会的課題の解決である
(3)利益は出資や株主への配当ではなく主として事業に再投資する(営利法人のみの条件)
(4)利潤のうち出資者・株主に配当される割合が 50%以下である(営利法人のみの条件)
(5)事業収益の合計は収益全体の 50%以上である
(6)事業収益のうち公的保険(医療・介護等)からの収益は 50%以下である
(7)事業収益(補助金・会費・寄附以外の収益)のうち行政からの委託事業収益は 50%以下である
これによると、ソーシャルビジネスの企業数は20.5万社。ソーシャルビジネスの付加価値額は16兆円で、対GDP比で3.3%を占める市場規模です。またソーシャルビジネスの社会的事業による収益は、10.4兆円となっています。
ソーシャルビジネスに取り組む法人格
- 営利法人
- 一般社団法人
- 一般財団法人
- 公益社団法人
- 公益財団法人
- 特定非営利活動法人 など
同調査によると、「利益の追求よりも社会的課題の解決が主たる事業目的か」というアンケートでの質問に対して、「はい」と回答した割合が営利法人のみ6割台。その他法人格として活動する場合よりも、営利法人の場合は社会課題の解決と営利追求の両立バランスに葛藤する姿も伺えます。
ソーシャルビジネスの取り組み領域
日本政策金融公庫総合研究所が平成26年に発表した「社会的問題と事業との関わりに関するアンケート」結果によると、ソーシャルビジネスで取り組んでいる社会問題の領域は、地域社会に関する問題が最多です。次いで、社会的排除に関する問題、地球環境に関する問題、開発途上国の支援に関する問題と続いています。
具体的な事業内容としては、障害者の就労支援や施設などへの送迎をはじめとする障害者支援が最多で、デイサービスなどの高齢者支援、子育て支援の取り組み、環境関連が多いようです。
ソーシャルビジネスに取り組む団体の代表には高齢者または女性が多いというのも特徴的です。また、女性従業員の割合も、ソーシャルビジネスに取り組んでいない企業と比較して圧倒的に高く、ソーシャルビジネスを始めた理由として「家族や友人、社員など身近に社会的問題の当事者がいた」ことを挙げる人が多いことも特徴です。
また、「社会や地域の役に立っているという実感を得たい」という理由は、年齢が高いほど多くなる傾向があるそうです。人生100年時代における自己実現、学び、活躍の場としてソーシャルビジネスはこれから改めて注目されるのではないでしょうか。
ソーシャルビジネスにおける課題3つ
市場規模も成長中のソーシャルビジネスですが、持続的・安定的に事業を継続するにあたりどのようなことが課題になっているのでしょうか。「人材の確保」「従業員の能力向上」「売上拡大」3つの観点から、課題について掘り下げて説明します。
人材の確保
ソーシャルビジネスでは、従業員20人以下の会社が7割を超えます。前述の「社会的問題と事業との関わりに関するアンケート」結果によると、ソーシャルビジネスを進めていく上での最大の課題は「人材の確保」であることがわかります。
課題意識に共感できなければ参加しにくいことや、ソーシャルビジネスに取り組んでいない企業と比べて福利厚生などの待遇面が劣ることもあり、「人材の紹介」を求めている団体も多いようです。
従業員の能力向上
同調査によると、「従業員の能力向上」も大きな課題です。従業員が少なく規模の小さな組織では、ソーシャルビジネスに限らず人材育成に人手もお金ももかけづらいもの。
ソーシャルビジネスに取り組む一部の団体では、働き方改革における副業容認の流れを追い風に、大手IT企業などで活躍する高スキル人材の副業先として受け入れを進めている例もあります。社会課題に対する啓蒙が進めば、こうしたマッチングが今後増えて人材確保・能力開発が進む可能性があります。
売上拡大
ソーシャルビジネスの売上だけでは黒字化が難しいという団体も少なくありません。行政との連携はもちろんですが、借り入れや助成金に関する知識・スキルを身につけることも必要だといえます。
社会的課題の解決が目的のソーシャルビジネスでは商品・サービスの単価を上げにくく、収益性が低いという面も否めません。資金を調達し、売上拡大につなげるためのシステム開発やマーケティングを戦略的に実行していくビジネスセンスが求められています。
ソーシャルビジネスの事例
ここからは、具体的にソーシャルビジネスの事例を紹介します。
視覚障がい者と健常者の混同社会が目標
特定非営利活動法人の日本ブラインドサッカー協会は、20・30代の日本人の間で、高い認知度を誇るソーシャルビジネスです。
ブラインドサッカーを通じて「視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現すること」をミッションとして、7つの事業を展開しています。
ブラインドサッカーは、障がい者と健常者が一緒にできるスポーツです。両者が混ざり合いながらブラインドサッカーをするという方法で、障がい者への偏見をなくそうとしています。
母親の声を反映したサービス提供
MammyProは子育て情報サイト「ママナビ」を運営しています。ママナビに集まったママの声(ニーズ)と企業を結びつけて、商品化する活動をしています。
「今の中高生は将来に夢がない」というニュースを見れば、ショッピングモール内の各ショップで職業体験ができるイベントを開催し、「子どもの安全」に不安を抱く声があれば、不審者情報などをリアルタイムで配信できるシステムの構築に着手するなど、子育てママを支援しています。
この事業は、経済産業省のソーシャルビジネス55選に選ばれています。
共生できる社会づくり
愛伝舎は「外国人が日本に住むことの難しさ」を問題と捉え、多文化共生、社会参画を目指して活動しています。
大きな収益の柱となっているのは、行政から委託されている携帯電話を利用した電話通訳サービスです。この通訳サービスは、県営住宅や保健所で言葉が通じないために生じるトラブルを解決してくれます。
その他、ゴミの出し方などの生活ガイダンスも提供し、日本に住む外国人と日本人が心地よく共存できるように支援しています。
この事業も、経済産業省のソーシャルビジネス55選に選ばれています。
ソーシャルビジネスの可能性をみんなで広げよう
多様化、複雑化した社会の中で、ソーシャルビジネス市場はより拡大することが予想されます。市場が拡大し、事業分野も広がるソーシャルビジネスには、社会の問題を解決し、よりよい社会作りに貢献できるチャンスがたくさんあります。
病児保育で有名なNPO法フローレンス代表の駒崎氏は、「コンサルティング企業アクセンチュアからの人的支援(プロボノ)が非常に貴重なもので、この支援がなければ新規事業である障害児専門保育園「ヘレン」の立ち上げは難しかっただろう」と自身のブログで語っていたそうです。
「社会問題の解決に寄与したいけれども、自分の生活を顧みず飛び込めるほどの勇気はない」と感じる人たちが、自分が勤める企業を通じてソーシャルビジネスを支援していくという道も、新たに開かれているといえるのではないでしょうか。

