なぜ、健康経営が注目されているのか
企業主体で「健康経営」に取り組むべき目的とは何だろうか。それは、社員の健康増進をゴールとした福利厚生ではなく、健康の先にある社員の「生産性アップ」である。
アメリカでは以前から、健康と生産性について以下のうちプレゼンティーズムが問題視されてきた。
・アブゼンティーズム・・・心身の健康上の問題により、出勤できていない状態
・プレゼンティーズム・・・出勤しているものの、心身の健康上の問題により、充分なパフォーマンスを発揮できていない状態
(例:花粉症、二日酔い、腰痛、肩こり、不眠など)
アブゼンティーズムは生産性に与える影響がわかりやすいが、プレゼンティーズムはそもそも問題自体が表面化しにくく、影響が見えにくいという特性がある。
一方、日本ではこれまで多くの会社がアブゼンティーズムを中心に予防と対策を行ってきており、極端な言い方をすれば「出勤しさえすれば良い」「会社で、管理職の目の届くところで業務をしていれば安心」という風潮が一般的だったと言えるだろう。
これに対し、ディー・エヌ・エーでは、プレゼンティーズムが会社にもたらす損失を数値化することで問題を具現化。また、運動・食事・睡眠・メンタル・喫煙などの項目についてアンケートを用いて社内の実態調査を行い、生産性アップのために解決すべき健康課題をあぶり出していったという。
健康経営というと、「健康経営格付」や「健康経営銘柄」が話題になることが多く、多くの方は企業イメージの向上や資金調達時のメリットなどのイメージが強いのではないだろうか。
しかし、健康経営アドバイザーでありディー・エヌ・エーCHO(ChiefHealthOffice)室長代理も務める平井孝幸氏は、勤怠管理システム「ジョブカン」を提供するDonuts主催のセミナーに登壇し、「多くの会社が抱える生産性の課題解決策として健康経営を捉えるべきだ」と主張した。
ディー・エヌ・エーでは、段階的に健康経営を推進
ディー・エヌ・エーでは、まず「みんなが健康であること」を当たり前にするために、スマイル健康プロジェクトと題し、楽しくワクワクするような健康づくりに取り組んだという。
プロジェクトの第一段階では、食事・運動・メンタル・睡眠などをテーマに外部講師を招いた健康イベントを積極的に行い、まずは健康に対する興味喚起を行った。健康に関するセミナーやイベントの開催はこれまで90回以上、延べ1,000人以上の社員が参加した。
健康マメ知識をコミカルなキャラクターで表現したオリジナルポスターを社内に掲示したり、二日酔いに効くサプリメントの社内販売を行うなどユニークな取り組み方が功を奏し、社員が楽しみながら能動的に参加することができたのだ。
2017年からはプロジェクトの第2段階として、社員の行動変容や取り組みの発展を意識し、より踏み込んだ施策をスタート。現在は、社員アンケートにより判明した腰痛・肩こりによる生産性低下に着目し、これをゼロにするための「腰痛撲滅プロジェクト」に取り組んでいるという。
また、並行してプロジェクトの第3段階、社会への発信も進んでいる。経済産業省、渋谷区の後援を受けて立ち上げた渋谷区に本社を有する企業で組織する“渋谷ウェルネスシティ・コンソーシアム”を通じて、健康経営を推進するための人材育成にも意欲的だ。
参考にすべきは、健康が社員への押し付けにならないように配慮しながら、時間をかけて段階を踏んで取り組みを進めている点ではないだろうか。
「健康に全く興味のない人が不快に思わずいつのまにか健康になっていく環境づくりのため、自分自身や取り組みのメンバー自体が楽しんで推進することを意識している」(平井氏)
いくら健康経営が生産性アップに効果的とはいえ、トップダウンで進めてはその取り組みは広まらない。社員が主体的かつ継続的に取り組める風土づくりが重要なのだ。