今、ファンベースが必要な理由~4つの視点から紐解く【セミナー取材・第2回】

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記事の情報は2019-03-05時点のものです。

1月30日、現代経営技術研究所セミナーにおいて、コミュニケーション・デザイナーの佐藤尚之(さとなお)氏が講演を行った。佐藤氏は、企業やブランド・商品が大切にしている価値を支持してくれる人を「ファン」と呼び、ファンをベースに考えるフレームワーク「ファンベース」を提唱している。佐藤氏の講演内容から、第2回は「今、なぜファンベースが必要なのか」について紹介していく。

2. 時代的・社会的にファンの重要度が増していく

ファンベースが必要となってきた背景には、大きな時代の変化が存在する。佐藤氏は、5つの背景を挙げた。

人口減少・高齢化社会・独身社会・超成熟市場・情報過多と二極化である。

人口減少・高齢化・独身社会

佐藤氏 人口減少や高齢化社会などは、何度も聞いていらっしゃることかとは思いますが、日本では、毎年100万人もの人口が減っていきます。これは、100万都市である千葉市や仙台市が毎年消滅するのと同じです。つまり顧客は物理的に減っていきます。

また、2024年には全国民の3人に1人が65歳以上となる高齢化社会。人生100年時代と政治家たちが言いはじめたこともあり、これまでお金があると思われてきた高齢者たちは、消費を控え始めています。また、高齢者は保守的で、これまで使い慣れた商品を好み、新しい商品は簡単には買いません。

生活者の数が物理的に減り、需要も減る中で、新規の顧客を増やす、買ってくれる人を増やすというのは大変なことだと言えるでしょう。

そして、2035年には人口全体の約半分が独身者になると言われています。これからは、結婚・妊娠・出産などのライフステージの変化による新しい需要も減っていきます。

超成熟市場

佐藤氏 超成熟市場とは、いっぱい商品があるのに、全部クオリティが高いという市場のことです。アメリカでの、ある実験結果を紹介します。

スーパーで、「豊富に品揃えすると売上が伸びる」ことを証明するために、24種類のジャムを置いた売り場と、6種類しか置かない売り場で比較した。結果、24種類の売り場では3%しか買わなかったのに、6種類の売り場では30%近くが買った。その差は約10倍。(米コロンビア大学・シーナアイエンガー教授)

つまり、人は選択肢が多すぎると選ぶのに悩み、自信をなくし、購入を辞めてしまうのです。今は、Amazonや楽天など、選択肢は無数にあります。そういう中で、我々はだんだんモノを買わなくなっていきます。

しかも超成熟市場は、どれも良い商品なのです。そうなってくると、USPが陳腐化します。

USP(Unique Selling Proposition)とは、平たくいうと、商品固有の特徴、差別化ポイントです。しかしこれからは、ほとんどこれが効かなくなると思います。

先行商品は、それが優れた商品であればあるほど、後発に研究されます。たとえばアップル社のiPhone。2007年に発売されたこの超イノベーティブな商品でさえ、たった数年で他社に追随され、陳腐化し、売上でも追い抜かれてしまう時代です。

ドミノピザが、30分でピザを届けるサービスを始めたとき、そのUSPは圧倒的な優位性がありました。しかし、ピザーラ、ピザハットなどに追随され、味のバリエーションを出され、付加価値もつけられ、安価化され、陳腐化していきました。最初にドミノピザを「30分で届く」で選んだユーザーは、他に移っていってしまう。

つまり、「30分で届く」という機能価値は、すぐに陳腐化してしまう。だからこそ、感情で「ドミノピザが好き」と思ってもらうことが重要。機能価値ではなく、情緒価値をつけていかなくてはなりません。

機能価値はコピーできますが、情緒価値はコピーできません。情緒価値を高めていくことこそ、超成熟市場において競争力を持つための重要なアプローチだと僕は思います。

情報過多と二極化

佐藤氏 そして今「情報が多すぎる」ということについて。僕は著書の中で、情報は「砂の一粒」時代という造語を作りました。どういうことか。

人類が残した一番古い情報は、4万年前の洞窟絵です。ここから、情報は延々と積み重ねられてきました。しかし、この積み重ねてきた4万年よりも、2000年から2003年までの、たった3年間に流れた情報のほうが多かったのです。

出典:電子情報学会誌・喜連川優氏「情報爆発のこれまでとこれから」より

そして2006年から情報量はさらに増加し、2020年にかけて無限に上がっていくのがわかります。2010年には988EB(エクサバイト)=約1ZB(ゼタバイト)ですが、これはどのくらいかというと、「世界中の砂浜の砂の数」なんだそうです。

今は2019年なので、それよりも多くの情報が、1年間に流れているということです。

たとえば、商品を100億バイトの情報で露出しましょうという広告キャンペーンを行ったとします。でも、受け取る側からすれば、砂粒がちょっと増えただけのこと。ほとんど認知されません。人間が受け取れる情報量は変わっていないことを考えると、基本的に情報は届かないと考えた方がいい。

もしもそれが偶然にも認知されたとしても、全砂粒が「俺を見ろ」と叫んでいる。その中のひとつですから、広告のことなんてすぐに忘れられてしまいます。

イノベーター理論でいうと、ネットやSNSなどの情報量が非常に多いイノベーター、アーリーアダプターの人たちは、まさにその状況です。

一方で、アーリーマジョリティより右側の人たちはどうか。

先ほどお話しをした「砂浜の砂よりも多い情報」は、ネット上の情報です。しかし、日本にはこのネット情報にアクセスしていない人たちが、意外と多くいるんです。

Yahoo!が発表した都道府県別の検索数のグラフを見ると、東京だけ検索数が突出しています。さらに、同じリリースで出された、年間の電車利用回数とマイカー通勤・通学率を調べたデータでは、電車に乗っている人はやはり東京だけが突出しています。ほとんどの道府県の人は電車に乗らず、車を利用しています。

出典:Yahoo!プレスリリースより「都道府県別 人口あたりの検索数」

何でもネットで検索し、電車の中でスマートフォンをずっと見て情報を得ているのは、首都圏だけの風景。他の都道府県の人たちは、車に乗っているからラジオも聞くし、たまにLINEを見る程度で、家ではテレビも見る。オワコンとか言われていますが、新聞だって読むんですよ。

東京はマイノリティ、別の国なんです。東京のマーケターは、デジタルマーケティングにばかり寄り過ぎてしまいがちですが、この事実はきちんと知っておいたほうがいいですね。

よくソーシャルメディア時代だと言われますが、SNSを使っている人の22%がヘビーユーザーで、その2割で総利用時間の82%を占有している、という調査結果が出ています。それを当てはめると、日本最大の利用者がいるTwitterのヘビーユーザーは990万人(月間アクティブユーザー4,500万人の22%)。彼らの中でほとんどバズが起こっているので、Twitter上のバズが、日本の残りの1億1,690万人に伝わるのは難しいことなのです。

また、OECDが世界72か国の15歳に調査したデータを見ても、世界の中でも日本の若者はネットを活用しない傾向が顕著です。つまり今のところ、一部の若者以外は、この二極化の分断を超えては来ないということです。

左側は情報が多すぎて、我々が伝えたい情報が伝わりにくい。右側はテレビCMなどは効くが、デジタルマーケティングが通用しない。

もし、皆さんのお客さんが両方にいるというのであれば、両方のアプローチを考えなくてはいけないかもしれません。つまり、予算がいままで以上に必要ということになるわけで、非常に大変です。

これが、今の時代の状況なわけです。