受付再開、キリン「ホームタップ」が月額・直販を選んだワケ - 大企業が挑むDtoC

キリンビールの「Home Tap(ホームタップ)」は、家庭用ビールサーバーと工場直送のビールをセットにした、定額サービス。申し込みが殺到し新規受付を停止していたが、4月より再始動した。月額制のサブスクリプションモデル、そして工場直送という直販を選んだ狙いを、マーケティング担当に聞いた。DtoC(Direct to Consumer)を紐解く連載の第2回としてお届けする(全3回)。

受付再開、キリン「ホームタップ」が月額・直販を選んだワケ - 大企業が挑むDtoC

日本でも注目「DtoC」とは

DtoC(D2Cとも)はDirect to Consumer(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)の略で、メーカーがECサイトを通じて消費者へ直販するモデルを指す。先行する米国では2010年頃より多くのスタートアップが登場し、大型の資金調達に成功している。

2019年、DtoCは日本でも加速するといわれている。DtoCとは何か。本連載では3回にわけて、DtoCの本質を探る。第2回の本記事では、新規受付を一時休止するほど話題となった、キリンビール「Home Tap(ホームタップ)」の事例から、サブスクリプション型DtoCモデルを紐解く。

第1回「いまDtoCがアツイ!「現代のEC」を紐解く3つのキーワード」はこちら。

いまDtoCがアツイ!「現代のEC」を紐解く3つのキーワード | ボクシルマガジン
いまEC界隈で「DtoC(D2C)」が注目されている。先行する米国ではすでに一領域を形成しつつあり、2019年、日...

企画・取材・執筆 岸本美里(Beyond編集部)

大手メーカーが挑んだサブスク型DtoC

キリンビールの「Home Tap(ホームタップ)」は、レンタル制ビールサーバーと、毎月工場から届くビールをセットにした定額サービス。月7,500円(税別)から利用でき、2019年3月時点で1,500人の会員を抱える。サービスをローンチしたのは2017年6月。ビールファンを中心に話題となり申し込みが殺到、約1年半新規会員の受付を停止していた。2月よりプレ会員登録の受付を再開、4月から本格的に再始動した。

日本の大手メーカーが取り組むDtoC。直販、そしてサブスクリプションモデルを選んだ狙いは何だろうか。マーケティング部でHome Tapを担当する松井香菜さん(以下、敬称略)に話を伺った。

想定以上の反響でやむなく休止……

岸本 まずは再開にあたり、顧客の反応はいかがですか?

松井 おかげさまで1月の募集再開以降、約1万人がプレ会員にご登録くださっています。

2017年の開始当初はワンステップですぐ本登録できるようにしていたんですけど、想定をはるかに超える反響があってアクセスが集中したんです。サイトに入れないお客様が出たり、そもそもサイトが動かなくなってしまったりしたので、今回はご迷惑をおかけしないよう、プレ登録会員のなかから抽選で本登録をご案内するという2ステップ制にしています。

岸本 体制構築の苦労が垣間見えます。生産体制の見直しなども行っていたかと思いますが、サービス停止中、具体的に何に取り組んでいらっしゃったのでしょうか。

松井 一番力を入れたのはサーバーのブラッシュアップです。Home Tapは、自宅でおいしい生ビールをサーバーから注いで飲んでいただくという、一連の体験を提供するサービスです。泡が出過ぎたり、逆に出づらくなったりなど、使い方によっては誰もがおいしいビールを注げるわけではないという課題があったので、ビールを注出する機械など内部の細かい改善を続けていました。

「たまに飲むものになりたくなかった」

岸本 すべては「おいしいビール」のために。みなさんのビール愛が伝わってくる気がします。それにしても、なぜ月額、しかも工場直送を採用したのでしょうか。

松井 理由を紐解いていくと、最初にこのサービスで実現したかったことにたどりつきます。

キリンに入社すると工場で研修を行います。そこでタンクから直接注いだビールを試飲できる機会があるんですけど、このビールが本当においしくて。この「できたてのビール」という感動をぜひビール好きのみなさんとも共有したい、味わってほしいという思いが、Home Tap事業立ち上げの根幹にあります。ビールは生き物なので日が経つごとに劣化が進んでしまいます。「1日でも早くお客様に飲んでいただくには」をつきつめた結果、直接お届けする形態をとりました。

鮮度がいいと香りが違う。フレッシュなホップの香りを味わえて、味のまとまりもあって、するっと飲めるんです。しかもサーバーに設置していると、ガス充填で空気に触れないので、開栓後でも劣化しづらい。きめ細やかな泡も感動していただけるポイントだと思っています。(※キリン注:開栓後48時間以内に飲みきるよう推奨)

ボトルを入れて栓をつなぐだけ。サーバーの中はシンプル

松井 月額制にしたのは、たまに飲むものになりたくなかったからです。年1回ではなくて、週1回なり2週間に1回なり、日々の生活をよくするリズムの1つにこのビールが携われるといいなという思いから、定期お届けにしました。例えば、料理に手間暇かける週末などを想定しています。開発初期の資料には「しあわせ週末定期便」とか書いていて、ちょっと恋愛小説感があるんですけど(笑)。

会社の視点からいうと、鮮度を意識するとどうしても少量ずつつくらなければなりません。製造効率と定期配送の両方が実現できるバランスを検討した結果、月に2回、1Lのペットボトルを2本ずつお届けするというスキームになりました。

真摯な価格設定で勝負をかけた

岸本 月7,500円で4L。350mlあたり約650円します。正直、安くはないですよね。しかもビール自体が売れない中で……。会社としては大きなチャレンジだったのではないでしょうか。

松井 価格は、真摯に、このサービスをお届けするために必要なコストを加味して設定させていただいています。正直この値段とこのサービスで出してみて、どれだけお客様が共感してくれるかわからない中で、思った以上に反応があったというのがまさに2017年に起きたこと。会社としても売れるか半信半疑だった部分が確信に変わり、「お客様が支持してくださっているんだったら」と続けています。

それ以上に、「サーバーから注いで飲む」という夢を持つビール好きの方が本当に多くいることに、出してみて改めて気づきました。一歩先の斬新すぎるものだとお客様がついて来られないことがあるんですけれども、自宅で生ビールという半歩先のありそうでなかった提案ができたことが、お客様の共感を得られたのだと思います。

追加注文の多さも1つの気づきでした。会員の3割くらいの方が追加くださっていて、月10本注文する(追加6本)方も複数。「もう他のビールが飲めない」というお声もあり、本当にありがたいです。年間7〜8種の限定品を出すので飲み比べるために追加される方も多いです。

もちろん大量生産には強いですし、おいしいものをできるだけ多くのお客様に届ける点では長けている自信があるのですが、一方で、早くからクラフトビールに取り組んできたことも大きくて。大量生産しながら少量多品種もつくれる、このキリンの強みがないとHome Tap事業はできませんでした。

限定品には、都内に構えるブルワリー併設レストラン「スプリングバレーブルクリー」の人気銘柄も並ぶ(提供:キリンビール)

松井 Home Tap単体でも特殊だし強みがあるんですけれども、商品ラインナップの多さも楽しみにしてくださるといいなと思っています。