いまDtoCがアツイ!「現代のEC」を紐解く3つのキーワード

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記事の情報は2019-03-14時点のものです。

いまEC界隈で「DtoC(D2C)」が注目されている。先行する米国ではすでに一領域を形成しつつあり、2019年、日本でも加速するといわれるビジネスモデルだ。DtoCとは何なのか。そしてDtoCがもてはやされるのはなぜなのか。本連載では3回にわけてDtoCの本質を探る。
いまDtoCがアツイ!「現代のEC」を紐解く3つのキーワード

日本でも注目「DtoC」とは

ここ数年「DtoC(あるいはD2C)」というビジネスモデルが話題だ。DtoCはDirect to Consumer(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)の略で、メーカーがECサイトを通じて消費者へ直売するモデルを指す。

テクノロジーの進化でライフスタイルは大きく変わった。消費者はあらゆる情報を手にできるようになり、嗜好も多様化。購入チャネルも従来の店舗からECサイトへと移行しつつあり、メーカーも店舗も消費者との向き合い方を考え直している。そこで注目されているのがDtoCだ。とくに米国では、2010年頃から多くのスタートアップが登場し、大型の資金調達に成功している。

2019年、DtoCは日本でも加速するといわれている。本連載では、全3回にわけてDtoCの本質を探る。

初回のテーマは「DtoCとは何か」。DtoCを紐解くキーワードを3つに整理し、事例とともに見ていく。


1. データドリブンを促進する「EC直販」
2. 「SNS」でブランディング
3. 広がる「サブスクリプション」

1. データドリブンを促進する「EC直販」

まずDtoCの根幹は「直販」にある。自社で企画・製造から販売まで担うことで、中間業者へ支払うコストをカット。かつ、実店舗を持たなければ固定費も削減でき、商品価格を抑えられる。

たとえばアパレル業界では、メーカーが製造した商品は商社を介してブランドに渡り、さらに店舗を通じて消費者に届くといったように、メーカーと消費者の間に多くの手が入る。その分マージンが上乗せされ、価格も上昇してしまう。メーカーが高品質の商品を製造していても、価格や各ブランドの戦略が「邪魔」をしてしまうこともある。

この構図を変えるべく、4人の学生が2010年に立ち上げたのが、WarbyParker(ワービーパーカー)というメガネブランドだ。質のよいメガネをオンラインストアで販売、一般的なメガネより安い一律95ドルという価格を実現。「いいモノが安く買える」と消費者の心を掴んだ。

出典:Warby Parkerホームページ

さて、製造から販売までを一貫して行うという点では、SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel)と類似している。ユニクロなどがそれに当たるが、かれらは実店舗での販売が中心。DtoCはオンライン販売が中心という点で、異なるとされる。

オンライン販売だからこそ参入しやすく、多くのDtoCスタートアップが誕生した。さらに直販には、顧客のデータを自社で収集、管理できるといったメリットもある。データドリブンなマーケティング、経営戦略へとスピーディーに繋げられる。インターネットを巧みに使いこなすのが現代の直販ーーDtoCだといえそうだ。

2. 「SNS」でブランディング

ただし、当然ながら安いだけで売れるわけではない。とくにミレニアルといわれる20代前後の層は、背景のストーリーや品質などに納得したものを購入したいと考える傾向にある。商社や店舗の力を借りずにブランドを確立していくためには、自社で宣伝する努力が必要だ。そこで次のキーワード「SNS」が登場する。

ミレニアル世代に絶大な人気を誇るコスメブランド Glossier(グロッシアー)もDtoCの成功事例として知られている。創業者のエミリー・ワイス氏は、有名ファッション誌でのスタイリングアシスタント経験を生かした美容ブログを開設した。ブログ上で読者と交流するうちに、読者の声を反映したコスメをつくろうと思い立ち、2014年にGlossierを設立した。

Glossierは当初からSNSを徹底活用し多くのファンを獲得した。いまや、アーティスティックな写真が並ぶInstagramは1,800万人のフォロワーを持ち、YouTubeは13万8,000人のチャンネル登録者数を誇る(いずれも2019年3月時点)。またGlossierはユーザーとのコミュニケーションも欠かさない。Instagram一つとっても日々登録されるユーザーのコメントに密にリプライしているし、Glossierのハッシュタグがついた投稿にもコメントを返していく。トータルでのSNS戦略がファンの心を掴んでいるのだろう。

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直販によりメーカーが購入者のデータを持ち分析できるようになった。SNSの興隆によりユーザーと“直接”対話し反応を収集、改善や新商品開発に生かせるようになった。エンドユーザーと密に交流できるのがDtoCの醍醐味であり、成功のために欠かせない要素だといえそうだ。

3. 広がる「サブスクリプション」

昨今DtoCを盛り上げているキーワードがもう一つある。定額・定期購入ーー「サブスクリプション」だ。DtoCのすべてが定額制を取るわけではないが、サブスクリプションを組み合わせたモデルで成功している企業も多い。

2011年設立のDollar Shave Club(ダラー・シェイブ・クラブ)は、ヒゲ剃りを毎月定額で顧客へ届けるサービスが成功し、名を馳せた。2016年には消費財大手ユニリーバに10億ドル(約1,100億円)で買収された。

2012年創業のPeloton(ペロトン)もサブスクリプションを採用しフィットネス業界に革命を起こしたとされる。同社は家庭向けエクササイズバイクに月額39ドルのオンライン講座を加えて販売し高い収益をあげており、NPS(企業への信頼を数値化したもの)はAppleをも上回る注目企業だ。

フィットネスマシンは買い切りが基本で、仮に熱烈なリピーターがいたとしても買い替えスパンは長いため、常に新規顧客を開拓し続けなければならない。そういったなかで同社は、エクササイズバイクにディスプレイを取り付け、“カリスマインストラクター”のフィットネス教室を「受けられる」動画を配信した。売って終わりではない仕組みをつくりあげたのだ。

日本では2017年、キリンビールが家庭向けビールサーバー「Home Tap(ホームタップ)」をサブスクリプションで提供し始めた。月4Lのビールが工場から届き、月額7,500円(税別)。決して安くはないが「店で飲むよりおいしい」と口コミが広がり、一時会員募集を停止せざるを得ないほど人気となった。

どんな商材でも、ファンは少なからず定期的に購入してくれる。ここに「定額」という概念を組み合わせて、企業も顧客も価値を得られる仕組みが生まれている。サブスクリプション型のDtoCは、インターネットでシームレスにつながる現代だからこそ、人々に受け入れられたのかもしれない。

「Home Tap」担当者のインタビューは次の記事で紹介。

受付再開、キリン「ホームタップ」が月額・直販を選んだワケ - 大企業が挑むDtoC
キリンビールの「Home Tap(ホームタップ)」は、家庭用ビールサーバーと工場直送のビールをセットにした、定額サ...
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日本でDtoCは盛り上がるのか

おもに米国の先行事例をもとに、DtoCを3つのキーワードから掘り下げた。日本でもスタートアップが続々と登場し、2018年12月にはオーダースーツの分野でワールドも参入するなど大手の事例も出始めた。さらに、EC直販を支援するプラットフォームの立ち上げも相次いでいる。

これから大きく動こうとしている日本のDtoC。一領域を形成するまでに盛り上がり、また根付くのだろうか。本連載では、第2回「バカ売れ家庭用ビールサーバー、キリンの挑戦」、最終回「日本の小さなDtoCが生み出す世界」の3回にわけて、注目のビジネスモデルを紐解く。

第2回 キリン「ホームタップ」が月額・直販を選んだワケ - 大企業が挑むDtoC
第3回 日本の小さなDtoCが生み出す世界