xR(AR、VR、MR)導入がもたらす「付加価値」と未来予測

xR(AR、VR、MR)は、単なる作業効率アップや教育コスト削減だけではなく、営業支援や顧客体験の向上、遠隔コミュニケーションや空間共有など、さまざまな付加価値をもたらす。連載最終回となる今回は、xR導入の未来予測も交えて、ホロラボ CEO 中村氏にお話を伺った。

xR(AR、VR、MR)導入がもたらす「付加価値」と未来予測

xR(AR、VR、MR)がもたらす「付加価値」とは

連載初回では、xRの定義や日本の産業界におけるビジネス活用の動向について、 第2回では、ファーストラインワーカーの働き方改革に焦点をあて、 第3回では、現場における人材育成・技術伝承を切り口として、xR導入の効果とメリットについて考察した。

最終回となる今回は、xR(AR、VR、MR)導入がもたらす「付加価値」について、未来予測も交えながら迫りたい。Microsoft Mixed Reality 認定パートーナーであるホロラボ CEO 中村氏によると、xRは単なる作業効率アップや教育コスト削減だけではない、さまざまな付加価値をもたらすという。

「例えば、ARデバイスを装着して作業すると、録画されている、誰かに見られるといった心理的作用から、ネガティブなイメージを持たれる場合もあります。しかし、xR空間の録画は、作業の証拠を残せるため企業価値向上や労働者保護に役立てられる付加価値として認識されるかもしれません」(中村氏)

またxRを導入することで、どんなに大きく重たい物でも、仮想的に持ち運べるようになる。顧客体験向上による売上増や、ビジネスモデルの転換も期待できる。

例えばディーラーでは、試作車を店舗に置いてお客さんに試乗してもらって販売する。しかしヘッドセットをかぶって3Dデータの状態で実物大の車体に試乗でき、その場で車種や色を変えたりオプションをつけたりできるようになれば、ディーラーにおける顧客体験は従来よりも豊かなものになり得るのだ。試作車を「作る」「運ぶ」「置く」という一連の業務、時間、コストも不要になる。

「いまはデバイスの性能上、ここまでの劇的な顧客体験向上は難しいです。しかし、xRを業務に導入する理論上の付加価値に着目し、実証実験が進められつつあることは事実です」(中村氏)

ほかにも、遠隔でのコミュニケーションや、遠隔にいる人同士での空間共有も、研究開発が進められている。

オフィス家具を扱うイトーキとホロラボは、共同開発した遠隔コミュニケーション技術を「ライフ・ワーク・バランスEXPO 東京 2019」で展示した。センサーを使って3次元スキャンした人物データが、目の前に現れて対話できるシステムだ。

提供:ホロラボ

働き方改革でテレワークが進み、オフィスが果たすべき役割は「人と人とが集う、コミュニケーションの場」へと再定義されつつある。遠隔コミュニケーション支援システムを使えば、オフィスに来られない人もその場に居るような感覚を得られるというわけだ。

「現在の通信環境でも、アメリカと名古屋でリアルタイムにじゃんけんをして盛り上がれるほど、遅延なくコミュニケーションを取れました。そして次に来るのが、5Gです。通信できるデータ量が一気に大きく、今以上に遅延が減ることが期待できるので、xRとは相性が非常によいと感じています」(中村氏)

3月27日に開催された、ドコモ5Gオープンラボ® GUAM オープニングセレモニーでは、3D立体映像をリアルタイムに遠隔伝送し双方向コミュニケーションを実現する「HOLO COMMUNICATION」(イトーキとホロラボが共同開発)を使って、日本とグアムで3D遠隔コミュニケーションを行なった。

提供:ホロラボ  日本とグアムをつなぎ、3Dで自然な対話を実現

リクルートテクノロジーズ・アドバンスドテクノロジーラボ(ATL)とホロラボが共同開発を手がける「ATL-MRイベントシステム」も画期的だ。2019年3月には、現実空間とVR空間に同時に約50名が参加したトークライブを開催した。リアルとバーチャルが融合した空間共有で、新たなコミュニケーション体験がうまれつつある。

プレスリリースより引用 ライブ開催中のVR側視点

5Gとデバイス、そして3Dデータ取得に役立つセンサーの進化も相まって、xR導入がもたらす「付加価値」は幅広い。「xRにはどういう可能性があるのか」を知っておかなければ、自社の業務に結びつけて考えることもできないだろう。

xR導入は「面白がる」ところから

2019年2月、SB C&Sとホロラボは共同開発した、3DCADやBIMで作成した3Dデータを自動でAR/MRに変換できるソリューション「mixpace(ミクスペース)」を発表した。権限さえあれば誰でも手軽にデータ変換を行える主に建設業/製造業向けのSaaSだ。

サービスの着想は2016年に遡るという。当初は製造業向けを想定していたが、軌道修正した。背景には業界ごとの文化の違いがあったと話す中村氏は、その発見を面白がっているようにも見える。

「製造業は、販売前の製品情報など機密性の高いデータを扱うため、クラウドにネガティブな印象です。一方の建設業は、さまざまな会社が混在します。データをクラウドで共有する文化が根付いているため、クラウドにポジティブです。建設業にまず受け入れられたのは、業界の文化の違いによるところがあった。これは開発を進めるなかで気がついた発見でした」(中村氏)

そのうえでmixpaceは、建設業でも製造業でも、またどの工程でも利用できるように設計されている。使い方を、ユーザー側に委ねているのだ。

年間116万円で5ユーザーまで使えるという利用料は、月額ひとりあたり2万円弱。日常業務でうまく使いこなせれば、決して高くないように感じるが、xR導入の”自社にとってのゴール”を決めることがいちばん肝心で、おそらくそれがいちばん難しいことを、改めて考えさせられる。

数多くのxR導入支援を手がけてきたホロラボ中村氏は、製造業や建築業をはじめ、さまざまな現場を見聞きするため各地を飛び回る忙しさも「大人の社会科見学みたいで楽しい」と笑う。

「毎回毎回、いろんなところに行って、根掘り葉掘り聞いちゃうんです。お客さんがどうしたいのかを引き出して、それを何と何の技術を組み合わせて解決すべきか、とことん話し合う。社会実験みたいで、楽しいです。HoloLens を初めてかけたときも、これを使えばどんなことができるのかと、周りのみんながすごく楽しそうに取り組んでいた。それが面白かったのだと思います」(中村氏)

xR活用・導入の事例は、2019年から2020年にかけて確実に増えるだろう。xRの可能性を知るためのアンテナを貼り、自社の業務にも改めて目を向けて、自分が「面白い」と感じた部分から興味関心を掘り下げてみてはいかがだろうか。「面白がる」ことこそ、xR導入の第一歩なのかもしれない。

連載記事一覧
第1回 xRの「ビジネス活用」最前線
第2回 ファーストラインワーカーの働き方改革は、xRで加速する
第3回 xRが起こす「現場の技術伝承」革命