ファーストラインワーカーの働き方改革は、xR(AR、VR、MR)で加速する

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ファーストラインワーカーとは、製造、建設、医療など、実際に「現場」で働く方を指し、主にマイクロソフトで用いられている用語だ。本記事では、xR(AR、VR、MR)ですすむファーストラインワーカーの働き方改革に焦点をあて、Microsoft Mixed Reality 認定パートーナーであるホロラボ CEO 中村氏にお話を伺った。

ファーストラインワーカーの働き方改革は、xR(AR、VR、MR)で加速する

ファーストラインワーカーとは

ファーストラインワーカーとは、製造工場、建設現場、販売店で働く方や、診療や手術を手がける医療従事者など、いわゆる「現場」の第一線で活躍する方たちのことだ。オフィスでパソコンを使って働くインフォメーションワーカー(いわゆるホワイトカラー)と相対する概念として、主にマイクロソフトで用いられている用語だという。

同社はこれまで、Windows や Office365、Azure Cloud など、オフィスでパソコンを使って仕事をするためのソリューションを提供してきた。世界の労働人口約28億人のうち約4割、11億人のインフォメーションワーカーがビジネスの対象だったが、世界で17億人いるファーストラインワーカー向けにHoloLens(ホロレンズ)など新たなデバイスとサービスを提供することで、ビジネスを飛躍的に拡大できるという。

提供:ホロラボ

前回の記事でも紹介したように、製造業、建設業、ヘルスケアなどファーストラインワーカーが多く働く業種とxR(AR、VR、MR)は非常に相性がよく、日本でも次々と導入が検討されている。そしてこれらの業種は、日本における「働き方改革」の手が及びづらく労働生産性が低いと指摘される業種と重なっているのだ。

例えば建設業。国土交通省の発表によると、年間総実労働時間は2,000時間以上。製造業も、調査産業計と比べて約200時間多く、生産性への課題が伺える。また建設工事においては、約5割が4週4休以下で就業。休まず働きたい人も少なくないという業界事情については別途議論が必要だとしても、働き方改革の余地ありとの見方は強い。



出典:国土交通省 資料「建設業における働き方改革について」より

医師や教員の過重労働についても、その対策が議論されている最中だが、人間の生を左右するなか最適解が見出せていないのが現状だ。

xR導入の背景にある「3つの課題」とは

企業がxR導入を検討する背景には、業種にかかわらず共通した課題があるとホロラボ中村氏は指摘する。同社はMicrosoft Mixed Reality 認定パートーナーの1社で、製造業、建設業、インフラ、医療など多様な業種においてxR導入支援を手がける稀有な存在だ。

「働く人が減っている、高齢の熟練の方がいなくなる、教育に時間がかかる。どの業界のお客さんと話していても、課題はこの3つです。あとは働き手の国際化という側面もあります。とにかく働き手がいないという課題に対して、xRをひとつの解決策にしようと、各業界の大手企業が技術リサーチや導入検証を進めていらっしゃいます」(中村氏)

ファーストラインワーカーの働き方改革にxRを導入するメリット

xR(AR、VR、MR)とは、現実世界に3Dデータを重ね合わせたり、3Dデータで作り上げたバーチャル100%の別空間に没入したり、さらには遠隔で視界や空間を共有することもできる技術の総称だ。ファーストラインワーカーの作業効率アップはもちろん、トレーニングや営業支援、業種や職種は問わずさまざまな領域で活用の可能性が秘められている。xRを導入するメリット(利点)と可能性について、紹介しよう。

(1)ファーストラインワーカーの作業効率向上

1つめは、ARデバイスを装着して、現実空間にバーチャルのオブジェクトを重ねて表示し、作業効率アップを図れることだ。

「作業中にARデバイスをかけてPDFの仕様書を確認できるだけでも、両手をあけやすくなるので現場の方は助かるみたいですね。ほかにも、外科手術中に患者の身体上にバーチャルのガイドを表示させたり、トヨタさんなど工場の設備移転前に搬出入のシミュレーションやレイアウト確認のためにARを活用している例もあります」(中村氏)

また建設現場では、紙やパソコンで図面を見ながら、縦横、幅、奥行などの3次元空間について話し合う。2Dの平面図を見て各人が頭のなかで3Dに変換しながら会話するため、認識齟齬が生まれやすい。ARを使えば、みんなで同じ3Dデータを共有しながら作業を進められるため、非効率を解消できるというわけだ。

(2)ファーストラインワーカーの遠隔支援

2つめは、現実空間にバーチャルを表示させたデバイスをかぶった人の視界を、別の人が遠隔で共有し作業支援をできるということだ。

例えばHoloLensでは、現実空間に投影しているMixed Realityのデータも一緒に転送することができる。ARデバイスをかけた作業者が見ている視界そのものを、遠隔にいる人が同時に確認することができるため、まるで隣で見ているかのようにリアルタイムでアドバイスを受けられるのだ。

「ベテランをセンターに配置してARデバイスをかけてもらいます。技術の浅い人たちが現場に赴いてARデバイスをかけながら作業を進め、困ったことがあればその場でセンターにヘルプを出す。熟練者に見てもらいながら指示通りに進めれば、人手不足解消や人員育成にも役立ちます」(中村氏)

こうした遠隔支援も、現在のデバイス性能および通信環境下で、すぐに導入できそうな領域だという。

(3)ファーストラインワーカーのトレーニング効率向上

3つめは、トレーニングコストを削減できるという点だ。

JR東日本では、転てつ機という線路の制御装置の操作トレーニングに、HoloLensの活用を試行している。転てつ機とは、路線を切り替えるための装置だ。新しいタイプの転てつ機はLEDで状態を確認できるが、一つ一つ目視で確認する古いタイプの転てつ機も数多く残っている。

HoloLens(ホロレンズ)を使って実寸大の転てつ機と線路を表示させ、実際に身体を動かしながら転てつ機の操作訓練をできる教材の開発に、ホロラボも携わったという。遠方各地から品川の訓練施設に集合する時間、労力、費用を削減でき、訓練施設に来なくても効果的なトレーニングができるようになるか今後検証を進めていく。

自社の業務について「めちゃめちゃ考える」こと

JR東日本での事例を振り返りながら、ホロラボ中村氏はこう語る。

「xRは、作業効率アップやコスト削減できる可能性があるためか、特に経営者の心に響きやすい印象があります。だけど、どの業務にどのように使うかは、業務をわかっていないとできないし、使うのは現場の方なので現場の方がいないと話が進まないんですよ。いろんな部署の人が集まって、インフォメーションワーカーとファーストラインワーカーが一緒になって知恵を出し合う。そのプロセス自体が、会社が変わるきっかけになるのかもしれません」(中村氏)

トップからの命令で働き方改革が断行されても業務量が減らないため、持ち帰り残業が発生するという本末転倒な事例は多い。xR導入がきっかけとなり部署横断で、自社業務の見直し・改善を進めることができれば、その経験こそ企業が長く健全に発展し続けるための"無形資産"となるのではないだろうか。

連載記事一覧
第1回 xR(AR、VR、MR)の「ビジネス活用」最前線
第3回 xRが起こす「現場の技術伝承」革命
第4回 xR導入がもたらす「付加価値」と未来予測