BATH(バイドゥ・アリババ・テンセント・ファーウェイ)によるハイテク都市深センの人材エコシステムとは

アジアのシリコンバレーともいわれる深センは中国の経済特区に指定されて以降、世界に類をみないスピードでハイテク都市へと変貌を遂げた。しかもその勢いは増すばかりだ。今回は、その爆速成長を支えるBATH(バイドゥ・アリババ・テンセント・ファーウェイ)から派生する「BATH系人材エコシステム」について解説する。

BATH(バイドゥ・アリババ・テンセント・ファーウェイ)によるハイテク都市深センの人材エコシステムとは

中国のIT大手4強「BATH」は揃って深センに拠点

昨年は日本でも中国企業の躍進がよく報道されるようになった。「BAT」と聞いてピンと来る方も多いかもしれない。

これは中国のインターネット三巨頭であるバイドゥ・アリババ・テンセントの頭文字をとっており、世界的にも動向が注目されている企業である。もちろん、中国でもよく目にする表現だ。

最近はBATにもう1社、スマホ・IoTサービス大手として高い存在感を示しているファーウェイ(Huawei)も加わり、「BATH」と呼ばれ注目を集めている。

ファーウェイといえば日本法人の大卒初任給が、高スキルの理系人材に限定してとはいえ学士卒でも40万と"破格"の値をつけた話題が記憶に新しいが、いま筆者が注目しているのは「BATH」4社すべてが、ここ中国の深センに拠点を構えていることである。

BATHのうちテンセントとファーウェイの本社は深センで、バイドゥとアリババも深センに大きな拠点を持つ。

筆者は深センでベンチャー企業を経営しており、JETROや日本政府関係者をはじめ、日系企業やインキュベーターの深セン視察の企画やアテンド、カンファレンス企画を行っている。

今回は、ハイスピードで変化する深センの最前線を常に追うなかで気がついた、深センの人材エコシステムについて紹介したい。

「BATH系」が創る、深センの人材エコシステムとは

筆者は、深センで開催されるフォーラムやイベントに頻繁に参加しているが、最近注目しているのが「~系」という言葉だ。

具体的には、BATHと資本関係があったり、BATH出身者が創業チームにいる新興企業であったりと、バイドゥ・アリババ・テンセント・ファーウェイ「BATH」4社いずれかの企業を軸とした企業群のことを指す。たとえば、「テンセント系」というような使われ方だ。

BATHには、中国の有名大学を卒業した若き精鋭が集っており、社内での競争は熾烈を極める。若いうちから濃い経験を積んだ彼らは、その経験を糧に次のキャリアへと進んで行く。人材の流動性は極めて高い。

このため深センでは「BATH系」と呼ばれるイノベーティブな集団がゴロゴロ生まれている。BATH系同士で共同創業<することもよく聞く話だ。

アジアのシリコンバレーとも、世界一爆速で発展中であるとも称されるここ深センの成長を支えているのは、間違いなくこのBATH系人材エコシステムなのだ。

BATH系が集まるところには、次なるトレンドを創り出す可能性を秘めた雰囲気、何かが生まれそうな熱気に満ちている。ピッチコンテスト(事業プラン発表会)で登壇するチームには、決まってBATH系メンバーがいる。

本家BATHもITサミットなどでの幹部の発言や戦略には高い関心が集まるが、BATH系が集まるイベントは本家とは全く違う雰囲気なのである。

深センでは人材の流動性が極めて高い

日本ではあまり語られていないが、バイドゥ・アリババ・テンセント「BAT」3社の深センオフィス立地については特筆すべきで、いずれも深セン市政府が主導し開発したソフトウェアパークというエリアに位置している。しかも、互いに徒歩圏内だ。

勢いのあるIT企業が物理的に集積することで、人材エコシステムの裾野が広がっているのだ。

さらに、発信や交流の「場」が多様であり、これが高い人材流動性を生み出す原動力となっている。

ソフトウェアパークには複数のスタートアップカフェと呼ばれる、プレゼンスペースが併設されたカフェがあって、ここでは昼夜問わず頻繁にイベントが開催されている。

BATHの若手社員同士が出会い、新規事業のタネや共同創業者を見つけ、BATH系へとキャリアを移すきっかけとなっているのだ。

テンセントの事例

しかも面白いのは、BATH企業間でのこうした若手社員の交流を、BATH側は止めるどころか歓迎し促進している。たとえば、テンセントの事例を紹介しよう。

テンセントといえば、時価総額でトヨタ自動車やFacebookも超えてアジアNo.1となった大企業だ。ソフトウェアパークに巨大なツインタワーの新社屋を建設中で、物理的にも一際目立つ存在である。

そのテンセントはソフトウェアパーク内でインキュベートサービスも行うコワーキングスペースを運営しており、テンセント系創業者がサポーターになる体制も整えている。

さらに青騰匯(QingTenHui)(若いテンセント系のコミュニティという意味)と呼ばれるテンセント系の有力創業者コミュニティを組織し、テンセント本体のリソースを活用した支援や海外視察プログラムの提供まで行っているのだ。

視察領域は広く、明確な協業プロジェクトを目指すものから、新たな掛け合わせでの化学反応を期待するものまで幅広い。

ちなみに筆者も一部これらの企画に関わっているのだが、テンセント系企業ではテンセントの主要事業でもあるゲームやエンタメ産業はもちろん、シニアや医療産業、生命科学、小売等の各分野において日本への視察ニーズが高い。

テンセント以外の3社も運営理念や規模の違いはあれ、似たようなコミュニティ育成体制は保持している。BATHが一体となり人材エコシステムを形成しており、これがまた深センという街の魅力を増幅させている。