厚生労働省が発表した「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」によると、近年の診断技術や治療方法の進歩により、かつては「不治の病」とされていた疾病においても生存率が向上し、「長く付き合う病気」に変化しつつある。
がんをはじめとする疾病は、以前は「すぐに離職して治療に専念しなければならない」というのが共通認識だった。しかしいまや、必ずしもそうではなくなってきている。仕事を持ちながらがんで通院している人の数は、32.5万人に上るという。
「治療と両立の支援」を必要としているのは、がんなどの大病に限らない。厚生労働省の発表によると、仕事と不妊治療との両立ができず、16%の方が離職している。
東京都内で働く女性はこう語る。「不妊治療では、1週間のうち3回、4回と通院できるかと急に医師から言われることもある。会社では不妊治療を受けていることは話したくないので、とても続けられないと思った」(30代後半)
フローレンスが導入した「安心ストック休暇」とは
フローレンスは、多様な働き方を働きがいを実現する組織として注目を集める認定NPO法人だ。これまでにも、保育スタッフの週4正社員や完全フルリモート、副業の解禁など多様な働き方を推進してきた。2017年版GPTW「働きがいのある会社」では女性ランキング2位に輝いている。
そんなフローレンスの新しい人事制度として2018年4月に施行されたのが「安心ストック休暇」だ。
年次有給休暇は、通常2年間使用しない場合時効により消滅してしまう。「安心ストック休暇制度」の導入により、時効で消滅した有給休暇を失効有給積立休暇として積立し、治療と仕事の両立に使用できるようになるという。
目指すは、働く意欲・能力のある人が治療と仕事を両立し、適切な治療を受けながら長く働けること。休職制度や勤務形態の変更などと組み合わせ、治療ありきの現状にあった働き方を選択できること。
「安心ストック休暇制度」施行にあたり、フローレンスでは専門家(産業医)からのアドバイスを受け議論を重ねてきたという。想定するケースは以下。
1.がん、脳卒中、その他難病など反復・継続して1年以上治療・リハビリが必要となる事由であり、当団体が主治医・産業医の意見を元にこの制度の使用を認めた場合
2.不妊治療の検査や通院の必要があり、当団体が主治医・産業医の意見を元にこの制度の使用を認めた場合
(引用:プレスリリース)
疾病に対峙し、治療と仕事の両立に思い悩む人はこれからも増えることはあっても減ることはないだろう。前述のとおり、医療技術が進歩するにつれて、疾病は「長く付き合う」存在へと変わりつつある。
他方、エクスペディア・ジャパンが毎年行なっている「世界30ヶ国 有給休暇・国際比較調査2017」によると、日本の有休消化率は50%で世界30か国中最下位もしくは下から2位を約10年間さまよっている。しかも日本人が休みを取らない理由は「緊急時のためにとっておく」なのだ。
2年で消滅してしまう有給休暇を、がんなどの大病や不妊治療といったライフプランをも左右する「有事」の際につかえるようにしようというフローレンスの「安心ストック休暇」。まさに日本人の本質的なニーズにあった施策だといえるのではないだろうか。