目次を閉じる
グーグルのノートPC「Chromebook(クロームブック)」という選択
普段の作業に高性能PCは不要?
家庭や職場で使う新しいPCを選ぶ際、どんな条件を挙げるだろうか。価格、デザインの好き嫌い、サポート体制も重要だが、用途に適したPCということを忘れてはならない。
長編映画としてリリースする作品の映像編集、3Dグラフィックスだらけのアニメーション制作、プロゲーマーとして最先端ゲームで対戦、といった大量のコンピューティング・リソースを必要とする作業でもない限り、今時なら平均レベルのPCで満足するはずだ。
仕事で使うにしても、メールの読み書き、文書作成、表計算、ウェブ・ブラウジング程度なら、特に高性能なPCは必要ない。
そのようなスペックのPCを探している人には、グーグルの「Chromebook(クロームブック)」導入をすすめる。4年前からChromebookを使い続けている筆者が、その理由を説明しよう。
「Chromebookで十分」な理由
Chromebookは、グーグルのPC向けOS「Chrome OS」を搭載しているデバイスのうち、ノートPC製品群の総称だ。
一般的によく使われるWindowsやMac、ソフトウェア開発者に好まれるLinuxとは異なるOSなので初めて耳にする人もいるだろうが、米国、特に米国の教育市場ではメジャーな存在になりつつある。
Chrome OS最大の特徴は、グーグルのウェブブラウザー「Chrome」を動かすことに特化している点。つまり、Chromebookでは基本的にChrome以外のアプリを使わず、ほぼすべての作業をウェブブラウザ上で処理する。
「そんなOSなど不便だ」と思うかもしれないが、日々PCで処理している作業を振り返ってみると、仕事のほとんどはウェブブラウザだけで処理できている。
メールなら「Gmail」を使うし、スケジュール管理は「Google Calendar」、外出先の確認は「Google Maps」で済む。
グーグルは、Chromeで動くワープロ「Google Docs(ドキュメント)」、表計算「Google Sheets(スプレッドシート)」、プレゼンテーション「Google Slides(スライド)」などのツールも用意している。
これらツールはマイクロソフトの「Office」シリーズとある程度の互換性があるので、オフィス作業も心配ない。
意外とChromebookで十分な気がしてきただろう。
Chromebookのメリット
とにかく安価、長く使い続けられる
Chromeが動けばいい、という割り切ったスペックであるため、Chromebookは一部のハイスペック・モデルを除き安価だ。「ネットブック」と呼ばれ、2010年前後に人気だった低スペックなノートPCと同程度のハードウェア構成でも、実用に耐える。
アプリをインストールする必要がなく、作業用ファイルは「Google Drive」「Google One」などのクラウド・ストレージに保存するので、ChromebookはHDDのような大容量ストレージ搭載が不要だ。その結果、消費電力が少なくて済むし、落としてHDDを壊すこともない。当然、本体価格も安くなる。
たとえば、日本で入手しやすい現行モデルの販売価格は4万円弱から、といった具合である。しかも、ハードウェアが陳腐化しにくく、Chrome OSのアップデートだけで古いChromebookを長く使い続けられる。頻繁に買い替える必要がないから安上がりだ。
起動やスリープからの復帰が一瞬
OS自体もシンプルなのでとても軽快に動き、電源投入から数秒でログインできるほど素早く使える。スリープからの復帰も一瞬で、閉じていた画面を開くとすぐに使い始められる。
システム・アップデートをする以外の完全なシャットダウンなど必要に感じないが、もちろんシャットダウンでも待たされることはない。
管理作業が容易
Chrome OSのユーザー情報は、「Googleアカウント」にひも付けられる。Chromebookを立ち上げて自分のGoogleアカウントでログインすると、そのアカウントの各種設定がChromebookに反映され、ほかのPC上で動かしていたChromeの環境が手間なく再現される。
別のChromebookで使っていた環境もログインだけで引き継がれ、複数のChromebookを使い分けたり、1台のChromebookを複数人で共有したりする場合も、環境移行に悩まされない。
設定情報はグーグルのクラウド環境に保存されているので、新たに購入したChromebookもログインするとなじんだ設定ですぐ使い始められる。逆に、Chromebook内に保存される情報がほとんどないため、盗まれたり置き忘れたりした場合も情報漏えいにつながらない。
職場の従業員や学校の生徒などに貸与するPCを考えると、ユーザー環境移行とハードウェア交換が容易というChromebookのメリットは計り知れない。企業向けの「Chrome Enterprise」、教育機関向けの「Chrome Education」といったグーグルのChrome OS用ツールを使えば、ユーザー管理も簡単に行える。IT管理に手間を取られず、時間や人的リソースを本来の業務に有効利用できるだろう。
Androidアプリまで動く
ウェブブラウザーのChromeしか使えないものの、ご存じのとおりグーグルはChromeで利用可能なウェブサービスを数多く提供している。Chrome用の「Chromeウェブストア」にアクセスすると、多種多様なアプリや拡張機能が入手可能だ。「LINE」や「Slack」だってChromebookで使える。グーグルの「Google Apps」や「G Suite」などを契約すれば、困ることはないだろう。
それどころか、最近のChromebookはAndroidアプリまで動かせる。スマートフォンで使い慣れたアプリがChromebookでも使えれば、実行可能な作業の幅が広がる。
ノートPC以外もある
ChromebookはノートPCであるが、画面を360°奥へ倒してキーボードと背中合せの状態にして使えるモデルが存在する。画面はタッチパネル付きディスプレイなので、まさにタブレット感覚で操作できる。日本未発売だが、HPは画面とキーボードが分離するデタッチャブル型モデル「HP Chromebook x2」まで投入した。日本向けモデルの種類は多くないが、米国など向けモデルは羨ましいほど多く、上位モデルのグーグル製「Pixelbook」も選べる。
ノートPCに限定しなければ、デスクトップPC型の「Chromebox」「Chromebase」、テレビのHDMI端子に挿して使うスティックPC型の「Chromebit CS10」といったChrome OSデバイスもあり、選択肢はさらに広がる。
Chromebookのデメリット
もちろん、Chromebookにはデメリットも存在する。
まず、高速なプロセッサや大量のRAM、大容量のストレージを搭載しているマシンでないため、冒頭で挙げた映像編集のような複雑な作業には適さない。
専門的で高度な処理をするアプリやウェブ・サービスも用意されていない。そうした仕事をするには、最初からWindowsやMacといった環境を選ぶべきで、Chromebookがそもそも目的に合っていないのだ。
拡張性も高くない。USBやHDMIといった端子は設けられているが、接続できるデバイスの種類は限られるだろう。キーボードやマウス、ディスプレイなどは問題なく使えるが、特別なドライバーソフトを必要とするデバイスの動作は難しい。
Chromebookに大量データを保存することもできない。ストレージ用メモリーはあるにはあるが、4GBや16GBなど必要最小限のモデルが多い。あくまでも、データはクラウドに保管する、という使い方しか想定していない。
これらのデメリットを差し支えないと判断でき、作業のほとんどをウェブアプリで処理する用途であれば、Chromebookは最適な選択になりうる。
Chromebookの新モデル登場か?
Chromebookは、表示と入力に関する処理を手元で行い、それ以外の処理の多くをオンライン・サービスで対応するPCであり、シンクライアントの一種と考えられる。
オラクル(Oracle)などが1990年代に提唱した「NC(Network Computer)」と同様のアイデアだが、当時はインターネット接続の速度が遅く、モバイル通信の使えない環境がほとんどだったこともあり、商業的には失敗して消えてしまった。
それに対し、グーグルのChromebook展開はネットワークの発展とクラウドコンピューティングの出現とタイミングが一致し、うまく時流に乗った。オラクルのNCという夢を、グーグルはChromebookでかなえたといえる。
2018年に入ってから何種類も新モデルが発売されたChromebookの将来は、期待していいだろう。
そのうえ、米国時間10月9日にニューヨークで開催されるグーグルの製品発表会「Made by Google」は、新型Chromebook、もしかしたらPixelbookのお披露目がある、とうわさされている。
筆者が2014年に購入して仕事やプライベートで毎日使ってきたデル(Dell)製Chromebookは、さすがにくたびれてきたものの、長持ちするChromebookらしくまだ現役。しかし、このモデルはAndroidアプリに対応していないこともあり、Made by Googleで発表されるであろう最新モデルが楽しみだ。
4年使い続けても元気な筆者のChromebook
