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手指が不自由でもゲームを楽しみたい
注目すべき技術的アイデアの情報を得るため米国特許商標庁(USPTO)のサイトを検索していたところ、マイクロソフトの「CONTROLLER DEVICE」がデザイン特許として登録されたことに気付いた。これは、ゲーム機「Xbox One」などに接続して使う特殊なコントローラー「Xbox Adaptive Controller」を意匠登録したものである。
指や手、腕を思うように動かせない人にとって、XboxやPCなどでプレイするゲームを楽しむことは難しい。そこでマイクロソフトは、一般的なゲーム用コントローラーにある小さなボタンの細かな操作ができない人を想定して、Xbox Adaptive Controllerを開発した。
大きめの十字キーや手のひらサイズのボタンを設けたほか、外付けボタンやジョイスティックなどのデバイスを多数接続できるようにしている。マイクロソフトは、このようなデバイスを約100ドル(約1万1,000円)という比較的「入手しやすい価格」で提供し、ゲーム参加へのバリアをなくそうとしたのだ。
かつて紹介したとおり、障がい者の活動を手助けする技術はXbox Adaptive Controller以外にもたくさんある。今回は、以前の記事で簡単に触れたものも含め、さまざまな困難を抱えている人に役立つ技術を取り上げよう。
PCやスマホ操作、楽器演奏を支援するデバイス
Xbox Adaptive Controllerのほかにも、PCやスマートフォンの操作を助けてくれるデバイスが存在する。
1. 大きなボタンでPCやスマホを操作
Xbox Adaptive Controllerは、Xbox Oneおよび各種Windows搭載PC向けのデバイスであり、用途が限られている。これに対し、クラウドファンディング「Indiegogo」で開発資金を募っていたキーボード「Key-X」は、PCだけでなく、Androidベースのスマートフォンおよびタブレットに接続して使える。
表面に11個ある大きなボタンで、アルファベットや数字、記号の入力と、カーソル移動、マウス操作が可能だ。脳性麻痺、パーキンソン病、多発性硬化症、アルツハイマー、ダウン症、自閉症などによって手指の細かなコントロールが苦手な人でも、テキスト入力、ウェブ閲覧、ゲームなどが実行しやすくなる。
Indiegogoのキャンペーンでは目標以上の資金を集めることに成功し、すでに出荷を始めている。
2. iPhoneがマウスで使えるように
iOSで動く「iPhone」「iPad」向けにも、同様の支援デバイスがある。英国のインクルーシブ・テクノロジー(Inclusive Technology)が販売する「AMAneo BTi」は、iPhoneなどをマウス操作するためのアダプターだ。
AMAneo BTiにマウスをUSB接続し、iPhoneとBluetooth接続すれば、特別なアプリを使うことなくiPhoneをマウスでコントロールできる。トラックボールやジョイスティックなどにも対応しているので、ユーザーの特性に合った最適なデバイスを接続すればよい。マウスボタンとして機能する外付けスイッチもつなげられる。
マウスポインタ制御には震え対策機能が組み込まれており、手が震えてしまう振戦(しんせん)で悩む人でもスムーズに操作できるという。
3. ドラムスティックを操る義手
普段の必要不可欠な動作を支援するだけにとどまらず、生活をより豊かにする支援技術もある。
「Cyborg Drummer」は、ジョージア工科大学が右腕のないドラマー用に開発した、ドラム演奏に特化した義手だ。右腕に装着して使うのだが、先端に取り付けた2本のスティックをモーターで細かく制御できるようになっていて、生身の人間には無理な高速ドラミングまで可能にする。その点では、単なる支援デバイスでなく身体拡張デバイスと呼べるだろう。
ジョージア工科大学はピアノを弾ける義手も開発している。
AIで急速に進歩した音声認識、音声合成
聴覚と発話に障がいを持つ人を支援する技術は、人工知能(AI)の発達で急速に進歩した。
4. ろうあ者でも音声コミュニケーションが可能に
グーグルの開発者向け会議「Google I/O 2019」で紹介されたスマートフォン向け技術「Live Caption」「Live Relay」は、今すぐにでも役立ちそうだ。
スマートフォンでLive Captionを使うと、再生される音声がリアルタイムに字幕化される。聴覚障がい者の場合、ビデオであっても音が聴き取れないと楽しめない。Live Captionなら、音声のみが提供されるポッドキャストのようなメディアですら情報入手ツールとして活用できてしまう。耳に障がいがない人も、苦手な外国語を聴き取るツールとして利用できるだろう。
Live Relayは、ろうあ者の電話コミュニケーションを可能にしてくれる。相手の話す音声は自動的にテキスト化され、相手に伝えたいことはテキスト入力すると音声合成されて送られる。介助者に頼ることなく、電話で意志疎通ができるのだ。
グーグルは、周囲で交わされている会話をスマートフォンで字幕化するAndroidアプリ「Live Transcribe」も提供している。
5. あごの神経信号から音声を合成
マサチューセッツ工科大学(MIT)が開発したのは、病気や事故であごの機能に障がいが生じて発話できなくなった人を支援する装置である。
これは、発話動作時にあごの筋肉へ送られる神経信号を検出し、発声されるはずだった言葉を信号パターンから合成するという技術。この技術が実用化されれば、発話障がいを持つ人も会話コミュニケーションが可能になる。
6. 言語中枢の活動からも音声合成に成功
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)は、発声されるであろう音声を脳内の言語中枢の活動から作り出すことに成功した。
言語中枢の活動パターンから唇やあご、のど、舌などの動きを推測し、音声を合成するという技術だ。実験室レベルの初歩的な試みであり、電極を脳内に埋め込む必要もあって実用化を語る段階にはないが、ブレイクスルーを期待したい。
視覚障がい者を支援するITサービス
もちろん、目の不自由な人を助ける技術も続々と登場している。
7. 周囲にある物体を音声で伝える
グーグルのAndroidアプリ「Lookout」は、スマートフォンのカメラでとらえた物体が何かを音声で教えてくれる。「Google Lens」を視覚障がい者向けに高度化した技術であり、目の不自由な人の活動を助けてくれる。
また、カリフォルニア工科大学(Caltech)は、Lookoutと同様の機能をマイクロソフトの複合現実(MR)ヘッドセット「HoloLens」で提供するシステム「Cognitive Augmented Reality Assistant(CARA)」を開発した。
8. 助け合い精神をインターネットで全世界に
最後に取り上げる「Be My Eyes」は、これまでに紹介したツールとは一味違う方法で障がい者を助ける。目の不自由な人と目の見える人をつなぎ、視覚障がい者を支援する。
視覚障がい者がBe My Eyesアプリを通じて困ったときに手助けを求めると、Be My Eyesアプリをインストールしているボランティアに通知され、ビデオ通話を介してやり取りできる。視覚障がい者がスマートフォンのカメラで周囲を撮影し、晴眼者がそれを見ながらアドバイスすることになる。
Be My Eyesは、昔ながらの助け合い精神をインターネットで全世界にまで広げたのだ。