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ガラスの天井とは
近年、女性活躍というキーワードのもとで語られることの多くなった言葉にガラスの天井があります。
これは「(女性が)組織内で昇進に値する人材であるにも関わらず、性別や人種などを理由にそれが阻まれている不当な状態」のことを指します。目には見えないガラスの天井(グラスシーリング)を破ることこそが、本当の機会の平等の足がかりになるといわれています。
主に女性の仕事に関する文脈で使われることがほとんどですが、最近では男性に対しても使われる言葉にもなりつつあります。
日本企業における女性管理職比率
ガラスの天井の現状を知るために、まず日本企業における女性管理職の比率についてみてみましょう。
帝国データバンクの2018年「女性登用に対する企業の意識調査」によると、回答企業約1万社のうち、女性の管理職がいない企業は約半数の48.4%にものぼり、いまだ多くの企業で女性管理職がほぼいない現状が窺えます。
ただ、一方で管理職の3割以上が女性である企業は6.8%と年々増加しています。女性管理職の割合も平均7.2%とわずかではありますが、前年度より上昇しています。
女性活躍に意識を向ける企業は徐々に増加傾向にあることは間違いないものの、まだ社会全体に浸透しているとはいえない、というのが現状ではないでしょうか。
ガラスの天井指数ランキングとは
世界主要各国との差に目を向けてみると、2018年のガラスの天井指数ランキングにおいて、経済協力開発機構(OECD)加盟国29か国中、日本は下から2番目。男性と女性では経済参画に大きな落差があることを問題視する声もあるようです。
このランキングによって「日本は遅れている」という批判も目立っていますが、実はヨーロッパにおいても女性の能力を軽視したり、女性の昇進等を阻害しようとする風潮があることが指摘されています。女性活躍は世界的な課題であることが窺えます。
ガラスの天井「もうひとつの正体」とは?
アベノミクスの成長戦略にも、女性活躍には重点が置かれています。女性活躍推進法の制定により、平成28年4月1日からは「自社の女性の活躍状況の把握・課題分析、行動計画の策定・届出、情報公表などを行うこと」が事業主に義務付けられました。(従業員300名以下は努力義務)
しかし、政府主導の働き方改革だけでは、現実問題としてなかなか改善がみられない現状があるようです。ガラスの天井の「もうひとつの正体」、それには「女性の自信のなさ」や「女性が忖度してしまうこと」などが挙げられるのではないでしょうか。
女性の自信のなさ
まず注目すべき現象として、女性の側が管理職になることを拒んだり、躊躇したりするケースが少なくないようです。
理由のひとつとして、たとえばWorld Economic Forumの調査では、女性が管理職になりたがらない背景に女性自身の自信のなさがあると指摘されています。つまり、女性の方が男性に比べて慎重で自信をもちにくい傾向にあるため、なかなか管理職に立候補する人がいないといった趣旨の指摘です。
こういったトピックに関しては、個人の思い込みによる意見が蔓延していることもありえます。自信の持ちようについては性差以上に個人の資質に拠るところが大きいでしょう。一概に女性だから自信がないというのは、いささか乱暴な結論付けという見方もあります。
ただ全体の傾向としては、性差が自信に影響を及ぼす、という研究結果があることは事実。それに加えて企業風土や慣例などの影響で、女性が管理職になりづらい状況にあるのは、諸々の統計データで報告されています。
明確な根拠に基づかない乱暴な議論を避けつつも、企業として、どういう制度設計が男女平等の観点からふさわしいのか、冷静に考えるべきでしょう。同時に女性自身も、キャリア開発において過度な謙遜(自信のない心理状態)に陥っていないかどうか、セルフチェックの眼を持ってみてはいかがでしょうか。
女性の忖度
周囲の状況に忖度するあまりに、女性が仕事において自分の長所を消してしまうケースが多いことも指摘されています。
たとえば、アダストリア・スタイル研究所の調査によると、働く女性の7割近くが自分の主張よりも周囲に合わせるという選択をしており、さらにその状況に「疲れ」を感じていることが諸々のアンケート調査から浮き彫りになっています。
組織で働く社会人である限りは、完全に組織のしがらみから自由になることは難しいでしょう。しかし、本来は優秀な人材が周囲に遠慮するあまりに、自身の強みや特異性を発揮できないのは、企業にとっても不利益になりかねません。
必要な場面ではしっかりと自己主張することや、自分の強みを認識し、それを活かして価値を提供できる環境を自ら作り上げる意思をもつことも重要でしょう。
ガラスの天井の打開策とは
こういったガラスの天井に関する課題を解決する方法はないのでしょうか?
クォータ制の導入
ひとつの打開策としては、さまざまな国で取り入れられている「クォータ制」の導入があります。
クォータ制はもともと政治的な決定に携わる人々に男女の偏りがないようにする制度で、簡単に言えば、組織を構成する際には一方の性別が「一定数を下ってはならない」という決まりです。
性別の極端な偏りをルールとして禁じることで、旧態依然としたガラスの天井を打破する一助となることは期待できます。一方で、定数制限のために優秀な人材でも排除されてしまう可能性もありますから、実施する際には慎重な運営が求められます。
クォーター制に関しては、以下の記事を参考にしてください。

ガラスの天井を破った女性の前例
ガラスの天井を克服する施策のもうひとつは、実際にガラスの天井を破って活躍している女性をモデルケースとする方法です。
たとえば、歯医者の受付や店舗でのオーダー取りの仕事から、最終的にハンバーガーチェーンのCEOとなり順調に店舗数を拡大している女性社長がいます。彼女は生来の能力を活かして優秀なチーム作りで企業に貢献し、それが認められるかたちで企業の全社員をまとめあげる立場に昇格しました。
彼女は企業のトップとして、前向きで楽しい組織環境を作ることや、性別に関わらず頑張りに見合った報酬を必ず支払うこと、そして社長である彼女自身が日々仕事をこなす社員に感謝を忘れないことなどを必須の要素として挙げています。
このように、実際にどういう考え方や行動指針で女性が自らの望むポジションを手に入れたかを知ることで、具体的なアプローチの方法がみえてきます。
オンライン求人サービス会社のグラスドア公表した、「従業員から高く評価されたCEOのランキング TOP CEOs 2018」にランクインした女性を参考に、ガラスの天井を破った女性の事例として以下の記事で紹介しています。

ガラスの天井を撤廃し女性が活躍する企業メリット
ガラスの天井を撤廃するメリットとしては、女性が活躍することにより男性の出世率が上がることや、組織全体としての生産性が向上するなどのメリットが挙げられます。
また、女性活躍が進む企業では、従業員がキャリア構築に対して前向きになるという結果は見逃せません。女性起業家は男性起業家に比べ、資金調達が困難であるにも関わらず成長意欲が高いという調査結果も発表されています。女性が自らガラスの天井を打ち破り活躍することは、日本社会全体の活性化につながるのではないでしょうか。
無意識に生まれるバイアスから脱却を
ガラスの天井の背景にある根本的な問題として「女性(男性)だから~だろう」あるいは「女性(男性)だから~すべきだ」という無意識のバイアスが存在することは、長らく指摘されています。
こういったバイアスは本人も気づかないうちに嵌っている可能性が高いため、意識して取り払うように努力する必要があります。
また、ガラスの天井という言葉は、たとえば米国企業において優秀な外国籍の人や有色人種が一定のポジション以上には出世できない場合にも使われます。性別のみならず、国籍、人種や肌の色などで不当に扱いを変える振る舞いを戒める意識をもつことも、ダイバーシティが進む社会では必要不可欠だといえるでしょう。
企業が長期的に成長を続けるためには、不当な偏見をもたずに、優秀な人材が自らの強みを発揮できる環境を整えることが重要なのです。

