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LPWAとは
LPWAとは、Low Power Wide Areaの略称であり、省電力でありながら、広域での通信が可能な無線技術のことを意味します。
身近なところでは、IEEE802.11a/b/gといったWi-Fi、Bluetooth、携帯電話で使用される5G LTEや3Gなども無線技術です。
これらが広帯域や通信速度を優先して発展したため、消費電力が大きく長距離の通信に向かないのに対し、LPWAでは低消費電力と広域・長距離伝送に焦点を絞り、それに最適化された規格の策定が行われている、というのが大きな違いといえるでしょう。
なぜLPWAが必要なのか
それではなぜ、LPWAのような低消費電力・広域・長距離伝送の通信規格が求められているのでしょうか。
それは、すべてのモノがインターネットに接続される「IoT(Internet of Things)」、マシンとマシンがインターネットでつながる「M2M(Machine to Machine)」の進展が見据えられているからにほかなりません。

IoTやM2Mが進展した世界では、移動し続けるクルマや、人里離れた観測所の計器もインターネットに接続されることが求められます。
こうした状況では、それぞれに設置された通信機器の電池を頻繁に交換するのは現実的ではなく、ましてや通信距離が足りずにオフラインとなってしまうことも許されません。
このような時代の要求からLPWAが誕生し、注目されているのです。
LPWAの3つの特徴と種類
欧米では一足早く実用化され、サービスも開始されているLPWAですが、日本でも一部でサービス提供がはじまっています。
その特徴を簡単にまとめてみましょう。
広域・長距離通信
すでに解説したように、広域・長距離通信がLPWAの最大の特徴といえます。
通信距離は、Wi-Fiの場合で約100〜300メートル程度、Bluetoothの場合で約10〜100メートル程度といわれていますが、LPWAでは数kmを実現しており、なかでもSIGFOX方式は理論値で50kmにもおよぶ通信距離を実現するといわれています。
低消費電力
スマートフォンをWi-Fiに接続していると、電池の減りが早く感じますよね。
これは、Wi-Fiが広帯域幅の双方向データ送受信を行うため、通信処理が複雑になる傾向にあるのが要因です。
しかし、LPWAの場合はボタン電池ひとつで数年以上動作するといわれており、圧倒的な低消費電力化を実現しています。
低ビットレート
LPWAがこのような広域・長距離通信、低消費電力を実現できるのは、低ビットレート、つまり通信速度を抑えていることがひとつの理由です。
具体的に説明すると、320Mbps以上のLTEに対して、LPWAは100〜800bps程度、最大でも250kbps程度となり、理論値の比較でも1/1,000以下の速度しか得られないことになります。
しかしIoTやM2Mでは、通信機器に接続されたセンサーデータを送信するだけでよい場合が多く、むしろシンプルな通信処理によって接続可能な台数が増やせた方が好都合です。
このため、通信速度が犠牲にされている、といえるでしょう。
LPWAの種類
LPWAは実用化がはじまったばかりであり、そのため多くの方式が乱立しているのが現状ですが、大きく分けて無線局免許が必要な「ライセンス系」と、無線局免許が不要な「アンライセンス系」の2つが存在します。
ライセンス系では、3GやLTEなど携帯電話事業者の基地局を経由することから、「セルラー系」とも呼ばれることもあり、アンライセンス系よりもやや高速な通信速度を持つ傾向があるようです。
LPWAの種類には、次のようなものが存在します。
- Wi-Fi HaLow
- Wi-SUN
- RPMA
- Flexnet
- IM920
- LTE-M
これ以外にもいくつかの方式が存在しますが、今後、主流になっていくと見られる方式について、次にピックアップしてみます。
LoRa
Semtech/IBMが中心になって策定された規格であり、920MHz帯を利用するLPWAです。
規格上の通信距離は10〜20km程度とされていますが、実測で1.5〜6km程度となっており、100bps程度の低速で通信を行います。
また、送信時20mA程度、待機時はその1/100という低電力を実現するため、IoT利用に有望視されている規格といえます。
SIGFOX
フランスのSIGFOXによって策定された規格であり、LoRa同様、920MHz帯を利用するLPWAです。
こちらの規格上の通信距離は3〜50km程度とされており、LoRaと同程度の(100bps)低速度通信を行い、フランスやスペイン、オランダなどのヨーロッパ諸国を中心に、普及が進みつつあります。
NB-IoT
Narrow Band-IoTの略であるNB-IoTは、セルラー系のLPWAであり、LTE標準の規格策定を行う3GPPによって定義されています。
LPWAながら最大通信速度は100kbps程度と、アンライセンス系よりも高速に設定されており、単4電池2本で10年以上の低消費電力が目指されているようです。
現時点では各事業者による実証試験が進められている段階ですが、名称のとおり、IoTに最適なLPWAとして期待されているといえるでしょう。
2021年には10億ドル - 急拡大が予測されるLPWA市場
さまざまなLPWA方式が登場し、実際の運用も開始されつつある現在、これからのLPWA市場、ひいてはIoTの未来は、どのようになっていくのでしょうか。
いくつかの調査結果をもとにした、今後の予測を紹介しましょう。
LPWA台数/売上予測
下図は、LPWA機器の台数および接続による売上金額を、2016年までの実績をもとに、2021までの予測をグラフ化したものです。
2016年には2,800万台であったLPWA機器は今後大きく成長を続け、2021年には3億8,000万台まで拡大、それに伴った売上金額も、2016年の8,900万ドルから2021年には10億ドル規模になるとみられており、用途に応じた無線帯域のインフラが進むと予測されています。
LPWA方式別予測
それでは、今後のLPWA規格に関しての見通しはどのようになっているのでしょうか。
下図は、2016年の実績をもとに予測された、2021年の方式別出荷台数をグラフ化したものであり、世界に地域による分布もあわせて確認できるようになっています。
LoRa、SIGFOXなど、サービス開始が先行している規格の強さがわかりますが、今後はより高速な通信が必要なニーズに向け、NB-IoTの普及が進むと予測されています。
また、現時点で普及が後手に回っているともいえる、アジア太平洋地域の伸びが大きくなると見られており、2021年にはアメリカ、ヨーロッパとほぼ同様の市場になると予測されています。
LPWA分野別市場規模予測
IoTが進展し、どの分野でLPWAが活用されるようになるのかについても調査が行われています。
下図は、LPWAの分野別市場規模を、2016年の実績をもとに、2021年までの予測をグラフ化したものです。
現時点では、スマートメーターの需要が大きく、先行してLPWA化が進んでいる状況ですが、今後は企業による事業への投入が進展すると見られ、物流・資産管理が大きく伸びてくると予測されています。
LPWAの用途は?ケース別にピックアップ
今後の急速な普及と市場拡大が予測されるLPWAですが、これによって、どのような活用方法が考えられるのでしょうか。
「遠隔監視」「動態管理」「通信回線」という枠組みで、それぞれの活用ケースを次に挙げます。
遠隔監視
- ガスや電気のメーターをリアルタイムに計測して可視化
- 農園にネットワークカメラを設置して遠隔監視
- 太陽光発電所を遠隔監視
- ウェアラブルロガーを活用して工場内の状況を可視化・分析
動態管理
- 牛に取り付けたセンサーで健康状態を把握するスマート酪農
- 魚群センサーによって餌の量を最適化するスマート養殖
- バスの位置情報を取得して到着予測時間をリアルタイムに配信
- 商店街の人の動きを分析して街づくりに貢献
通信回線
運用ノウハウと互換性が課題
LPWAのような低消費電力、広域・長距離通信を実現する技術が登場したことにより、ようやくIoTとM2Mが具体的に動き出したともいえるでしょう。
しかしLPWAは、ライセンス系、アンライセンス系を含め、多くの規格が乱立する黎明期でもあり、それを充分活用するための運用ノウハウの蓄積、そして各規格の互換性の問題が残されているともいえます。
インターネットに接続されることによって、必然的に顕在化するセキュリティ面とあわせ、これらをどのように解決していくのかが、今後の普及のカギを握っているのではないでしょうか。