みなし残業(固定残業代)制とは | メリットや注意点、計算方法
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みなし残業(固定残業代制度)とは
みなし残業とは、実残業時間にかかわらず一定の時間外労働はあるとみなし、基本給とは区別してあらかじめ定額の残業代を支払う制度です。みなし残業代は、固定残業代や定額残業代とも呼ばれます。ただし、みなし残業とみなし労働時間制は別の制度なので注意が必要です。
みなし残業の例
みなし残業が適用されていない状態で残業が10時間の場合、10時間の時間外労働に相当した給与が発生します。
一方、みなし残業の場合は企業が「みなし残業を20時間とします」のようにあらかじめ決めておき、この20時間分の残業代が残業の有無にかかわらず支払われます。たとえば、みなし残業が20時間で実際に残業した時間が10時間の場合、支払われる残業代は20時間分です。
みなし残業とみなし労働時間制の違い
みなし残業とみなし労働時間制は、いずれもあらかじめ労働する時間を検討しておき給与に反映させる制度です。ただし、次の点においてみなし残業とみなし労働時間制は違いがあります。
みなし残業 | みなし労働時間制 | |
---|---|---|
規定する項目 | 残業する時間 | 労働する時間 |
規定の時間を下回ったときの給与 | 規定された残業時間分の支払い | 規定された労働時間分の支払い |
規定の時間を上回ったときの給与 | 規定された残業時間 + 超過した残業時間分の支払い | 規定された労働時間分の支払い |
つまり、みなし残業は規定の残業時間を超えた際は、超過分の給与が支払われます。それに対しみなし労働時間制は、どれだけの時間を働いたとしても規定された時間分しか支払いがなされません。
みなし労働時間制は、次の3種類にわかれます。このうち「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」はまとめて裁量労働制とも呼ばれます。
事業場外みなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制は、事業場外で労働しているために労働時間を算出しづらいときに用いる制度で、労働基準法の第38条の2にて規定されています。具体的には外回りの営業や在宅勤務が該当します。
専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制とは、業務の遂行方法を従業員に委ねる必要があり、使用者から時間配分の決定に関して指示を出せない場合に適用される制度で、労働基準法の第38条の3に規定されています。
研究職やシステムエンジニア、コピーライター、デザイナー、弁護士、税理士などが、専門業務型裁量労働制に該当します。詳しい職種については厚生労働省労働基準局監督課のサイトで確認可能です。
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制とは、事業運営上において重要な決定がなされる支部において企画や立案を行う際に適用されるみなし残業で、労働基準法の第38条の4に規定されています。
経営の企画や分析をする方、営業の立案・分析をする方を中心に適用される制度です。企画業務型裁量労働制を導入できる事業場や従業員も、厚生労働省労働基準局監督課のサイトにて確認できます。
みなし残業導入のメリット
会社側にとっては、社員の残業が一定時間内であれば毎月の給与支払いで発生する残業代の計算が必要ありません。一方、社員にとっては定時で帰っても一定の残業代が受け取れるというメリットがあります。
残業代の計算が楽になる
企業は、給与支給において残業代の計算が欠かせません。みなし残業であれば、一定の時間内の残業なら残業代の計算が簡略化され、残業代に関するトラブルが減ります。ただし、残業時間の算出自体は必要なので注意が必要です。
ダラダラ残業せず生産性が高まる
みなし残業は、定時で帰っても残業代が支給されます。たとえば20時間のみなし残業がある場合、10時間の残業でも20時間分の残業代を社員は手にできます。そのため残業代を稼ごうと、無駄に仕事を長引かせようとはしないでしょう。社員は効率よく仕事をしようとするので、みなし残業の導入で労働生産性が高まるといえます。
みなし残業が違法か見分けるポイント
みなし残業のメリットを説明してきました。つぎに、みなし残業で注意するポイントを説明します。
求人広告への明記
求人募集広告のなかには、みなし残業の表記あいまいにしごまかしている場合があるでしょう。2015年10月の「改正青少年の雇用の促進等に関する法律(若者雇用促進法)」施行により、みなし残業代の内訳である労働時間数・金額の計算方法・みなし残業代を除く基本給・みなし残業を超えた場合の残業代などの明示義務が厳格化されています。
そのため、みなし残業についてあいまいな表記があった場合は違法な可能性があります。みなし残業をあやふやに記載している企業があった際には次の3つを確認しましょう。
- みなし残業の金額
- みなし残業の労働時間数
- みなし残業時間を超える労働を行った場合、別途追加支給する旨
残業時間による支払いの有無
みなし残業は残業時間にかかわらず、一定の残業時間に値する給与を支払う制度です。そのため、残業時間がみなし残業の規定時間に達していないために支払いを行わないのは違法となります。たとえば、みなし残業の時間を40時間としている場合、実際の残業が30時間であったとしても40時間分の給与をもらう権利があります。
超過分の残業代の支払い
みなし残業時間を超えた場合、会社は追加で残業代を支払う義務があります。みなし残業を採用していたとしても規定の時間を超過した際は、別途支払いが必要です。たとえば、20時間のみなし残業を採用している企業で30時間の残業が発生した際、支払われる給与は30時間分になります。
土日祝日、深夜に対する割増賃金
みなし残業に限らず、土日祝日、深夜(午後10時~朝5時)の労働は割増の賃金が発生します。労働基準法の第32条では、労働時間は1日8時間または1週間に40時間以内と定められています。また、最低週1回もしくは4週間に4回以上の法定休日を取ることも義務です。
1日に8時間を超える労働は、基本賃金の25%以上の割増しとなり、夜10時から朝5時までの労働は深夜残業と定められており、基本賃金の50%以上の割増しとなります。決められた法定休日を取ることなく働いた場合は、35%割増しとなり、労働基準法では会社側に労働者の健康に配慮するように記載されています。
これらの項目を守れていない場合、企業は違法とみなされます。
みなし残業が45時間を超過(例外あり)
36協定(労働基準法36条に基づく労使協定)では、社員の残業時間は月45時間までとされており、みなし残業が45時間を超える場合は違法です。しかし、36協定には例外も規定されており、企業が定めている時間や回数だけ残業時間が超えていなければ合法とされます。そのため合法か違法かは企業の36協定をよく確認しましょう。
また2019年4月に大企業へ、2020年4月に中小企業へ施行された法律により次の上限を超える残業は禁止とされています。
- 年間720時間以内
- 複数月平均80時間以内(※)
- 月100時間以内
※月45時間を上回った月を平均した時間
残業代の計算方法
みなし残業代のパターンには、「給与とは別支給の場合」と「給与に含んでいる場合」があるので、それぞれの計算方法で説明します。なお、計算方法では、残業時間の倍率をすべて1.25で行っていますが、22時から翌日5時までの労働や休日の出勤については別途計算が必要です。
基本給にみなし残業を含む場合
時給 = 基本給 ÷(月の平均労働時間 + みなしを含めた残業時間 × 1.25)
基本給 = 時給 × 月の平均労働時間
みなし残業代 = 時給 × みなし残業時間 × 1.25
残業代(みなし残業以外)= 時給 × 残業時間(みなし残業以外)× 1.25
計算例
次の条件の場合で計算してみましょう。
- 基本給 30万円
- 月の平均労働時間 175時間
- みなし残業 30時間
- 残業時間(みなし残業以外)10時間
時給
= 300,000円 ÷(175時間 + (30時間 + 10時間) × 1.25)
=約1,333円
基本給
= 1,333円 × 175時間
= 233,275円
みなし残業代
= 1,333円 × 30時間 × 1.25
= 49,988円
残業代(みなし残業以外)
= 1,333円 × 10時間 × 1.25
= 16,663円
基本給にみなし残業を含まない場合
時給 = 基本給 ÷(月の平均労働時間 + みなし残業を除いた残業時間 × 1.25)
基本給 = 時給 × 月の平均労働時間
みなし残業代 = 時給 × みなし残業時間 × 1.25
残業代(みなし残業以外)= 時給 × 残業時間(みなし残業以外)× 1.25
計算例
次の条件の場合で計算してみましょう。
- 基本給 30万円
- 月の平均労働時間 175時間
- みなし残業 30時間
- 残業時間(みなし残業以外)10時間
時給
= 300,000円 ÷(175時間 + 10時間 × 1.25)
= 1,600円
基本給
= 1,600円 × 175時間
= 280,000円
みなし残業代
= 1,600円 × 30時間 × 1.25
= 60,000円
残業代(みなし残業以外)
= 1,600円 × 10時間 × 1.25
= 20,000円
みなし残業を理解しトラブルを防ぐ
みなし残業は、会社が社員を安く雇うために導入された時期もあり、ブラック企業の判断ポイントと言われていました。しかし労働者が正しく権利を主張し出したことで、働いた対価はちゃんと支給されるように会社側、労働者側の意識が変わり、法が整備されました。みなし残業では、生産性が上がったり、残業トラブルを防げたりというメリットもあります。
会社側も社員側も不利にならないよう、みなし残業をよく理解して無用なトラブルを防ぎましょう。勤怠管理システムをはじめサービスを使いながら文化を浸透させるとよいでしょう。
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