「いい意味でサボる」ことは労働生産性向上の特効薬
ドイツとは歴史的背景も文化も違う。ドイツから学ぶべきところは大きいが、完全に真似することは当然ありえない。しかしながら日本の働き方改革はなぜ進まないのだろうか。
「日本の顧客は世界一厳しい」と言われるように日本では高いサービスレベルを要求する傾向にある。消費者の顧客であれ、法人の顧客であれ、要求にこたえられるようなきめ細かなサービスが求められる。
また、ものづくりは高い技術力で日本経済を支えてきた。「最高に良いものを作ろう」という思いが競争力の源泉であり競争優位性を築いていた来たいう成功体験もある。日本ブランドが付加価値として評価されているのも事実だ。
しかし、きめ細かなサービスを追求すると数々の例外を生む。「おもてなし」精神での個別対応が増えれば業務のルール化や標準化が浸透せず、時代に反して機械への代替が遅れる。「カイゼン」にこだわればこだわるほど、標準化やモジュール化が進まず勝機を逃す。
おもてなしへの過度な要求や対応が働き方改革の阻害要因となっている可能性を意識すべき時が来ているのだ。
過剰すぎるサービスを減らして労働生産性を上げるためには、職場や社会全体での意識改革が必要となる。ここでは、ドイツを参考にすべきではないだろうか。
ドイツでは「いい意味でサボる」という合理主義が社会全体に浸透している。「いい意味でサボる」という発想に立てば、例外を作って物事を複雑にしない、仕事を標準化し誰でもミスなく代替できる環境を構築するなど、極めて合理的な判断が成立する。
結果、大量の仕事を抱え込むことで存在価値を発揮しようなどという人はいなくなる。どんどん他人に、あるいは機械に任せてたっぷり休み、クリエイティブな仕事をしようという意識も働きやすい。
またサービスに過度に期待しない文化が根付くドイツでは、たとえ担当者が4週間のバカンスで不在となっても、休暇中にコンタクトを取ろうとして不在通知が自動返信されるだけだったとしても、クレームなどに発展しない。日本でもこうなれば有給休暇を取るときの罪悪感は随分緩和されるだろう。
「多様な働き方を当たり前と思うこと」から始めよう
既述のとおり全面的にドイツを真似ようというのはナンセンスな話だが、過労死のや少子高齢化による人材不足といった社会問題は、多様な働き方と生産性を上げる方策なくしては解決できないのも事実。
在宅勤務や時短勤務だと肩身が狭い、出世できないという現状を打開し、試験的に導入されている働き方改革を本格的に進めなければ国際競争力は低下の一途だ。
ドイツに学ぶべきは「多様な働き方を当たり前と思うこと」ではないだろうか。
どんな働き方でも社内で当たり前に受け止め、働き方に合わせて社内の仕事のやり方を根本から見直すのだ。これが真の働き方改革の促進剤となる。
国の法整備と厳しい規制、そして企業が全力で働き方と向き合うという覚悟が、いま求められている。