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生産性とは その意味と定義
生産性とは、インプット(投下資本)に対してどれだけのアウトプット(リターン)が得られたかを表す尺度です。インプットが小さければ小さいほど、アウトプットが大きければ大きいほど生産性は大きくなります。
また生産性は、生産要素の観点から複数の種類に分けられます。たとえば、労働の観点からであれば「労働生産性」、資本の観点からであれば「資本生産性」、また「全要素生産性」といった種類のものも存在します。
誤解されがちな業務効率化との違い
業務効率化という言葉は生産性の向上と混同して使われがちですが両者には違いがあります。
業務効率化とは余計な手間を減らしたり無駄をなくしたりと、日常業務レベルでの効率化を表します。それに対し生産性の向上とは、業務レベルだけでなく大規模な人事異動など抜本的な組織改革なども含みます。
生産性の種類と計算式
生産性は「アウトプット÷インプット」の形で算出されます。インプットとは投下した資源を指します。時間、お金、労働力などがそれにあたります。
アウトプットとは得られた成果のことです。商品やサービスの価値、お金などが該当します。
労働生産性
「労働生産性」は、社員一人あたりの付加価値を示す尺度です。労働生産性の値は次の式で求められます。
そして一言に労働生産性といっても、その計算とする対象によって2種類に分けられます。
一つが物的労働生産性で、物的労働生産性は次の式で求められます。
もう一つが付加価値労働生産性です。
両者は「アウトプット」の対象によって区別され、アウトプットを「生産量」としたものが物的労働生産性、「付加価値」としたものが付加価値労働生産性となります。
資本生産性
労働生産性のほかに、資本生産性というものがあります。資本生産性とは企業の保有している機械設備などの資本がどれだけ効率的に利益を算出したかについて示す尺度です。
つまり、資本生産性の高い企業とは保有している設備を有効に使えている企業だということです。
全要素生産性
冒頭で紹介したように、全要素生産性 (Total Factor Productivity)という指標も存在します。
全要素生産性とはすべての生産要素を計算に入れた生産性の指標です。これまで紹介した指標の計算では労働に関する部分のみを計算に入れましたが、全要素生産性では、労働以外の投入要素も計算に入れてしまいます。
この指標では、技術進歩を表せるとも言われています。
日本の生産性の推移
ここまで生産性に関する各指標の意味について解説してきました。次からは、日本の生産性がどうなっているのか見ていきましょう。
2017年に公益財団法人 日本生産性本部が提出したデータによれば、2016年度の日本の時間あたり労働生産性は4,828円で、一人あたりでは830万円でした。
これは過去最高の数値で、日本の労働生産性は2011年のリーマンショックで急激に低下してから緩やかな回復を続けていることがわかります。
また、物価変動を考慮した実質ベースの労働生産性では、前年度比プラス0.3%と、2015年度のプラス0.8%と合わせて2年連続の上昇をみせています。
世界各国との比較
では、世界と比較したときの日本の生産性について見ていきましょう。
公益財団法人日本生産性本部のデータによると、2018年の日本の時間あたり労働生産性は 46.8ドルで、OECD加盟35か国中21位と低い位置につけています。
数値上は1.5%上昇していますが、順位の変動はありませんでした。米国と比較すると日本の生産性は米国の3分の2程度で、英国やカナダをやや下回るあたりに位置しています。
主要先進7か国(G7)で見るとデータの取得が可能な1970年以降、最下位の状態が続いています。
日本の生産性、なぜ問題視される?
日本の生産性は、なぜ問題視されるのでしょうか。その問題点について解説していきます。
労働人口の減少
現代日本では少子高齢化が進んでおり、労働人口の減少に歯止めが効かなくなっているのが現状です。
労働人口の減少はすなわち現場での人手不足につながり、これが日本の生産性が大きく落ちている原因の一つとなっています。
少ない人数でも一定の成果を出せるような仕組みづくりや工夫が必要だと言えるでしょう。
長時間労働
現代日本では過酷な長時間労働も深刻な社会問題となっています。
働き方改革として、長時間労働の防止に努力している企業も少なくありませんが、実際のところ労働時間が目に見えて減少したという事例はあまり多くないでしょう。
長時間の労働を続けると、心身に不調をきたすだけでなく過労死の可能性も出てきてしまい非常に危険です。早急な改善が必要とされています。

生産性向上のための方法
大きく成果を増やすか投入資源を減らすかの2つがあります。
上図のように「成果を2倍に増やす」「投入資源を1/2に減らす」どちらを実現しても生産性が2倍になるのがわかります。
また、それぞれにはそれを改善によって行うか革新によって行うかという2つがあるため、合計で4つの方法があるということになります。
たとえば、付加価値の高い商品やサービスを開発して成果を増やすのは革新によって成果を増やす方法、業務工程を減らして納期を短縮するのは改善によって投入資源を減らす方法です。
どうすれば生産性は向上させられるのか
次にいくつかの例を挙げてみます。
- 業務の無駄を改善
- チーム内の連携を強める
- 会議のムダをなくす
今一度自分の業務を見直し、余計な手間や時間をかけてしまっていないか確認しましょう。また、チーム内でのスムーズな連携を行うことで無駄な時間は削減できるかもしれません。
また、会議の時間は1時間までといったように時間制限をつけることで、無駄に会議が長引くことを防げるでしょう。
ツールの導入
限られた時間内での労働効率を最大限に上昇させるための手法として、ツールの導入は非常に効果的です。近年ではクラウドサービスの導入が活発になってきていますね。
ツールの導入によりこれまで手動で行っていた部分が自動化され、時間を大幅に短縮できるでしょう。余計な時間を削り、その分コア業務に集中することで生産性を向上させられます。
ITリテラシーの向上
業務効率改善による生産性向上のためにITリテラシーの向上は欠かせません。
せっかく生産性を向上させるツールを導入したとしてもITリテラシーの低さから使いこなせなければ意味はありません。単純なショートカットキーやパソコンの操作から、ツール内で利用されている単語など、理解を深めることは重要です。
ただツールを活用するだけでなく、そのツールをこれからのビジネスにどのように活かせるかまで考えましょう。
モチベーションアップ
仕事に対するモチベーションを上げることも生産性の向上に効果的です。モチベーションの向上により、業務改善に対する意識が高まります。
生産性向上を図る事例
生産性向上を実現するため、具体的にどのようなことが行われているのか、いくつかの事例を紹介していきます。

事例(1)リフト付特殊車両送迎車を導入した介護事業者
介護サービスの利用者を車で送迎していた介護事業者ですが、車椅子を使用している利用者も多く、その運搬は重労働のため複数人で対応していました。
この問題を解決するためリフト付特殊車両送迎車を導入したところ、従来の半数の人数での送迎が可能となり、人員体制を見直して付加価値の高い業務に割り振れます。
この例では、一見投入資源を増やしているように見えますが、長期的に見ると人的リソースを有効活用することによって成果を増やす、つまり改善によって成果を増やす方法であることがわかります。
車両費用は、条件によっては国の助成金が得られる場合もありますので、投入資源を抑えることも可能でしょう。
事例(2)定例会議をすべて廃止したソフトウェア開発会社
東京と松山に拠点を持つソフトウェア開発会社は、生産性の向上と効率化を目指し、業務プロセスの中で意味のない業務をしていないか見極めるため、一定期間、すべての定例会議を廃止しました。
期間中のコミュニケーションにはオンラインを活用しましたが、定例会議をなくすことにより、必要なときにはメンバー間で柔軟にミーティングを行えることが判明する一方、別の拠点のメンバーとは意思の疎通が難しくなることも判明しました。
これを踏まえて、拠点間の定例会議は維持しつつ、議題がなく急ぎでない場合は、定例であっても会議をスキップするという方針が固まり、効率化が果たせました。
この場合は、定例会議に費やされるリソースを減らして効率化を図る、つまり改善によって投入資源を減らす方法となっていますが、これによって成果を増やすことも期待でき、最終的に生産性向上につながっていきます。
これはまさに業務改善策の基本となるスクラップ&ビルドであり、ムダなことの削減・効率化(スクラップ)を行ったうえで、注力したい業務に集中できる体制を再構築(ビルド)した例と言えます。
生産性を向上させるために
これまで生産性とは何か、日本の生産性の問題点とは何かについて説明をしてきました。
労働人口の低下や長時間労働など、過酷な労働環境の日本では業務効率を改善し、生産性を上げていくことが急務となっています。
本記事で学んだ知識を活かし、ぜひ生産性の向上を目指しましょう。