1990年代に注目を集めたフリーアドレス制度が働き方改革と関連して再び注目を集めています。
本記事ではなぜ今フリーアドレス制度が再び注目を集めているのか、導入の成否をわけるポイントや、実際に導入して成功している企業の事例について解説します。
目次を閉じる
フリーアドレスとは
フリーアドレスとは、オフィスにおいて従業員に固定の席を与えずに仕事に応じて好きな席で仕事をしてもらう制度のことを指します。
コンサルタントや営業など基本的に社外で活動する社員を多く抱えている企業がコスト削減のために1990年代に推進した制度ですが、あまり定着しませんでした。
フリーアドレスが注目される理由
しかし、働き方改革の影響によってフリーアドレスが再び注目を集めています。働き方改革の影響により、テレワークや在宅勤務が推進されています。これによりオフィスに社員の固定席を設ける必要性がどんどん薄れています。
また、フリーアドレスブームが発生した1990年代はIT技術が未発達だったので、紙の資料の保管や部署内のコミュニケーションのために固定席が必要だったので定着しませんでしたが今は違います。
IT技術の発展によりパソコンがあればどこでも仕事ができるようになりましたし、ペーパーレス化も進んでいます。さまざまなコミュニケーションツールも開発されています。
フリーアドレスが抱えるデメリットと課題
フリーアドレスのデメリットは技術によって解消されつつありますが、それでも技術によって解消しきれないデメリットはまだいくつか存在します。
帰属意識の低下
まず、技術で解消しきれないフリーアドレスのデメリットが帰属意識の低下です。社員はオフィスに自分の席があることによって、自分がその部署や会社に所属していることを意識します。
しかし、フリーアドレスによって自分の席が無くなってしまえば、オフィス内に固定された居場所がなくなってしまうので、会社や部署に対する所属意識は薄れてしまいがちです。
どこに誰がいるかわからない
また、席を自由にすることによって、どこに誰がいるのかわからない事態が発生します。固定席ならば座席表を元にどこに行けば誰に会えるのかわかりますし、不在ならばその席にメモや資料を残せます。
しかし、フリーアドレスになると誰がどこにいるか決まっていないので、どこにいるかを聞いたり、社内を探し回ったりする必要があります。
制度が浸透しない
また、制度が浸透しないというデメリットもあります。
フリーアドレスにすることによって社内の他部署間のコミュニケーションを活性化させようとしても、同じような部署は同じような部署で固まったり、働く場所がコロコロ変わると落ち着かないので同じような席を選びがちになったりします。
その結果、固定席と同じ状態になりコミュニケーションが活性化しない場合もあります。
集中の妨げになる場合も
また、フリーアドレスにすることによって社員の集中が妨げられる場合もあります。
社員の中には、
「働く場所が変わると集中できないので固定席で仕事がしたい」
「オープンスペースになると周りの音などが気になる」
「周りにいつもと違う人がいると気になって集中できない」
という人もいることでしょう。
フリーアドレスにはこんなメリットも
このような技術によっても解消されにくいデメリットはまだ残っていますが、それを加味しても余りあるメリットがフリーアドレスには存在します。フリーアドレス制度のメリットについて紹介します。
スペースの削減
まず、固定席が無くなることによってコスト削減効果が期待できます。
たとえば、営業や客先常駐が多い会社では、オフィスには従業員の机を全員分用意しているけれども、社員の半分も社内にいないということはよくあります。このような場合、フリーアドレスにすることによって、実際に出社している社員の分しか席が必要なくなりスペースの削減ができます。
必要なスペースを削減できると、狭いオフィスでも良いので家賃や電気代などのコスト削減につながります。
コミュニケーションの活性化
また、コミュニケーションの活性化効果も期待できます。フリーアドレスにすることによって、さまざまな部署の社員が隣の席になることが期待できます。隣同士になると自然とコミュニケーションが発生し、活性化するでしょう。
これにより、想定していなかった新たなコラボレーション事業のアイデアが発生するかもしれませんし、部署同士だけではなく、会社全体での一体感が高まることが期待できます。
セキュリティの向上
セキュリティの向上も期待できます。フリーアドレスにすることによって紙資料の保管スペースが少なくなるのでペーパーレス化が進みます。
固定席だと自分の席ということで、安心して紙媒体の重要資料などを机に置いておくことによって盗み見されたり、社外に流出したりしやすくなります。ペーパーレス化して情報のレベルに応じてアクセス権を設定、セキュリティ対策を行うことによってセキュリティが向上します。
生産性の向上
実はフリーアドレスによって生産性の向上も期待できます。自分のデスクがあると、つい自分のデスクを居心地良くして気が緩んでしまいがちです。
適度な刺激を与え続けることによって常に新鮮な気持ちで仕事をして、集中力を途切れさせず生産性を向上につながるきっかけになるのです。
レイアウト変更が容易に
レイアウト変更が容易なこともメリットです。固定席にしてレイアウトを変更すると机と一緒に個人の荷物も移動させなければならないので大変ですが、フリーアドレスならこの手間は発生しません。
また、オープンスペースにすることによって同じ床面積でも、開放的なレイアウトにすることによって広々とスペースを使えます。
フリーアドレス導入に失敗する企業の特徴
このようにメリットの多いフリーアドレスですが、導入に失敗する企業も存在します。どのような場合にフリーアドレスの導入に失敗しやすいのかについて説明します。
書類の取り扱いが多い
まず、書類の取り扱いが多い企業はフリーアドレスの導入に失敗しがちです。
フリーアドレスでは退社するときに、自分が使っていた机の上を綺麗にしてから帰る必要があります。紙の資料をたくさん取り扱っている部署では、いちいち机を綺麗にしたり資料をロッカーから出したりしていると始業と終業時に無駄な手間が発生します。
また、これに関連して個人情報や機密性の高いデータを取り扱う場合もフリーアドレスに向いていません。
在席率が高い
在籍率が高い部署もフリーアドレスに向いていません。経理や法務などのバックオフィスは落ち着いた環境で作業した方が生産性が高くなりますし、在席率が高い部署なのでオフィススペースの削減効果も期待できません。
フリーアドレスの導入成功企業事例
では、どのような企業がフリーアドレスを導入して成功しているのか、企業ベースで成功事例について説明します。
事例:カルビー
カルビーでは出社すると、「ソロ席」「集中席」「コミュニケーション席」という3種類から座席を選択して、コンピューターがその種類の席の中からランダムに席を割り振るようになっています。
席の種類を決定でき、場所のみランダムにすることによって、業務内容によって最適な環境でかつ、他部署間のコミュニケーションが活性化できます。ただし、社員が自由に席を選らべないことはストレスにもなります。
事例:キューピー
キューピーもオフィス改革の一環としてフリーアドレスを導入しています。
キューピーの場合はフリーアドレスにすることによって加工食品チームと食品開発チームが連携しやすくなった結果、新商品の開発期間が約6か月削減されたという事例があります。
フリーアドレスを上手く取り入れ働き方改革を
働き方改革によってフリーアドレスに注目が集まっています。昔は不便なためあまり定着しませんでしたが、IT技術の発達により、フリーアドレスのメリットは固定席に対して相対的に増大しています。
単に、フリーアドレスを導入するだけではなく、ITによるペーパーレス化などを促進し、テレワークなどの多様な働き方を推奨する人事制度を導入することによって、フリーアドレスの効果は高まり、定着もしやすくなります。