高齢化社会はロボットが救う、人手不足の介護業界が取り組むべき20のこと

「過剰サービス」が横行し離職率40%で人手不足は恒常化、倒産寸前まで陥ったという介護施設エーデル土山ではロボットの積極的な導入をはじめとする働き方改革を行うことで収益は過去最高水準にV字回復。具体的に取り組んだ20のことを紹介します。

高齢化社会はロボットが救う、人手不足の介護業界が取り組むべき20のこと

エーデル土山が「働き方改革」に踏み切ったワケ

慢性的な人材不足が続く当施設エーデル土山は一時、事業継続が不可能になるのではないかというところまで危機的状況においこまれたことがある。

危機感を持った我々は「人材確保対策・労働室」という4名編成のチームを作り、人材確保について毎月協議していくことになった。

介護離職の主たる要因は「腰痛・長時間労働・メンタル不調」の3つだ。これらをゼロにする取組を「トリプルゼロ」と銘打ち、積極的に課題に向き合った。

前回の記事でも説明したとおり介護業界には「過剰サービス」が蔓延している。これだけ離職率が高くどの施設も人手不足にあえぐにもかかわらず「奉仕の精神」がもてはやされ、機械やロボットの導入は敬遠されがち、職員は腰痛に悩みながらも長時間労働を強いられて心身を壊してやめていく。

今回は、離職率40%だった当施設がどのような取り組みを経て、入職待機者が続出、収益は過去最高にまで向上させることができたのか、具体的に振り返って紹介したい。

ちなみにこの「人材確保対策・労働室」チームの一番の特徴は「決めたことを確実・迅速に実行する」という点である。決まったことは、労務管理や人材マネジメントだけに留まらず、各種規程の変更、職員の代替となる機器導入の予算編成などにも明確に反映した。

法人経営の根幹に関する部分を動かしたことが、働き方改革の大きな原動力となったことは間違いない。

職員の離職を食い止める「トリプルゼロ」

人材確保対策・労働室で実践した具体的な改革「トリプルゼロ」について説明しよう。介護業界の離職理由トップ3である「腰痛・長時間労働・メンタル不調」すべてゼロを目指した取り組みである。

腰痛ゼロの取り組み

「腰痛・長時間労働・メンタル不調」をゼロにする施策「トリプルゼロ」、1つめは「腰痛ゼロ」の取り組みについて紹介しよう。

これは、機械・ロボットの導入に尽きる。当施設では、人力で利用者を移動させたり持ち上げたりする介助を基本的に禁止した。

移乗用リフトの導入
これは合計10台導入した。利用者6名に対して1台の割合だ。

吊上式電動リフト設置
入浴は職員が腰を痛める主要因だった。浴室に吊上式電動リフトを設置し、基本的に人力での移乗介助は禁止している。

電動自動式エアーマットを導入
寝たきりになると自分で寝返りができず床ずれができたり安眠を妨げる要因にもなるため、寝返りのたびに夜間に職員が呼び出されることが多発していた。

寝返り介助を体位変換のための電動自動式エアーマットを40台導入し、睡眠中に定間隔で寝返りを器械が行うことで、利用者も熟睡でき夜間の呼び出しを減らすことに成功した。

職員に対する身体的ケア
ウォーターベット型マッサージ機器や酸素カプセルを施設に設置し、休憩時間や夜勤の仮眠時間等で利用できるようにした。定期的に腰痛チェックを行い、問題がある場合は産業医の診断のもとケアしている。また、介護、看護職員全員にチタン式腰痛ベルトやネックレスを配布し、就労による身体的不調の軽減を目指している。(1名/2万円相当)

機械やロボットを対人サービスに導入するといえば冷血な印象を持たれがちだが、いま機械工学は凄まじい勢いで発達している。利用者の安全と快適な生活を守りながらサービスを安定的に提供するためには、テクノロジー活用は積極的に検討すべきではないだろうか。

完全ノー残業化への道

次に2つめの施策「残業ゼロ」について説明しよう。

よくノー残業デーを設定している会社があるが、1日のみ定時帰宅しても他の曜日で2時間残業していては、例えば共働き世帯では家事、育児にかえって悪影響も出てくるだろう。

そこで当施設が目指したのは「完全ノー残業」である。

平成28年度には、職員1名あたりの年間残業時間0.07時間(4.2分)となり、「完全ノー残業デー」をほぼ達成した。

介護業界では「奉仕の精神」を大切にしモチベーションにもなっている職員が圧倒的多数だ。利用者側もまたしかりだ。

たとえば食事・排せつ・入浴という「3大介助」や病院搬送など、利用者と直接関わる業務をいきなり削減することは職員の大きな反発を招くどころか、モチベーションも下げかねない。

まず職員の日常業務を、利用者に直接関わる部分とそうでない部分とに分け、利用者に関わらない業務から徹底的に無駄をなくした。具体的には、記録記入、清掃、ミーティング・会議などだ。

朝礼の廃止
利用者の状態や稼働率の把握は管理者自ら現場に赴けばわかることだ。毎朝わざわざ現場職員が一同に介する必要はない。職員1名あたり10分×6人が集まるのを見直すだけで60分の業務削減。

全員参加型の会議を撤廃
会議は必要なメンバーのみ招集し開催することにした。議題は事前に示し意見を持ったうえで会議に臨む。議事録はその場で決まったことのみを記載し翌日には持ち越さない。

全員参加型の研修を撤廃
全員参加型にすると、夜間や休日の参加を強いることとなり、職員負担につながる。いまは日中の業務内に複数回に分けて実施したりeラーニングによる研修導入しており、講師職員の負担も軽減された。

ミーティングの拡充と効率化
職員会議よりも毎朝・夕の申し送り、ミーティングを充実させた。基本シナリオを作成し(〇時〇分~プランについての協議等が時系列になっている)タイマーを置いて30分以内で完結できるようしている。

介護補助業務の切り出し
介護福祉士は介護に専念することとし、清掃や洗濯などの専門資格をもっていなくてもできる介護補助業務は全て、フォロースタッフに一任することにした。フォロースタッフとして高齢者や障がい者を積極的に雇用。また当施設は館内が広く窓が多いため自動掃除機や窓ふきロボなどの機械を導入し、人間が担当する業務を削減した。

デジタルとアナログの併用
全てパソコン入力で記録、伝達していたが、ときにはホワイボードなどアナログでの情報把握の方が早い場合があったため、一律にデジタル化することを禁止した。たとえば利用者の状態一覧や送迎管理など。アナログよりもデジタルのほうが全て良い、とする固定概念を見直した。

残業・業務チェック
どの職員がどの業務で残業しているのかを調査。「時間外把握シート」を使ってこれらを抽出し、残業の原因となっている業務を洗い出し、辞めるもしくは業務削減を実施していった。

マイナス10分運動(一斉出勤・一斉退勤)
職員は、出勤時刻10分前まで入館できない。出勤時刻3分前から5分間、館内に音楽を流し、その時間帯に着替え等を行い、出勤処理を行っている。また退勤時は定時終了前の10分前に業務終了予告を行い、全員一律で定時退勤している。

役職者が率先してカエル運動
上司が残っていたら職員は退勤しにくいため、役職者から率先して帰宅した。ポスターにカエルのイラストを使用し、全体に分かりやすく周知した。

介護業界のみならず、「過剰サービス」からの脱却が必要されるサービス業界や小売業界でも参考にしていただける内容ではないかと思う。

メンタル不調ゼロの取組

3つめは、「メンタル不調ゼロ」の取り組みだ。

トーキングの実施
毎月定例で15分程度、役職者が職員との「トーキング(個人面談)」を実施し、日頃の悩み相談だけでなく、指導や施設の思いを伝える場としている。特にメンタル不調を起こしやすい新人や人事異動者、精神疾患の既往者などには、看護師や安全・衛生管理者が面談を行い、必要に応じ産業医にも相談し、診察を受けてもらっている。

家庭の状況に合わせた働き方の変更
育児や介護、看病などの各家庭状況に応じて職員の勤務形態や業務内容を柔軟に変更し、勤務継続ができるよう配慮している。

モラルハラスメント防止ブックの作成
パワハラ、セクハラ、マタハラなどが起きないよう、「モラルハラスメント防止ブック」という小冊子を作成して職員全員に配付し、防止教育を行っている。併せて、ハラスメントごとにポスターの作成及び掲示することにより、ハラスメントが起きない職場づくりに努めている。