介護施設で職員の離職率を低下させる「働き方改革」の極意

公開日:
介護といえばキツそうなイメージを持つ人が多い。しかし働き方改革を断行し離職率が低下、いまでは「ここで働きたい」と入職待機者が続出する介護施設がある。滋賀県にあるエーデル土山だ。職員の奉仕の精神依存しない、現実を見据えた「働き方改革」を断行した背景について語っていただいた。
介護施設で職員の離職率を低下させる「働き方改革」の極意

介護施設で職員の離職率を低下させる「働き方改革」とは

介護業界というと皆さんはどんなイメージを抱かれているだろうか。おそらくはキツイ、汚い、給料が安いといった「3k職場」であるということや、過酷で劣悪な労働環境といったネガティヴなイメージを連想されているかもしれない。

残念ながら、これらのイメージは的外れなものではない。介護という仕事は、心身ともに負担のかかる大変な業務であることに違いないし、数少ない人数で夜勤をしなければならず、事故が発生すれば多額の損害賠償を請求されることもある。

しかし、手法によっては他業種と比べても遜色のない、労働者にとって非常に魅力的な業界になり得ると確信している。

事実、当施設(エーデル土山)では「働き方改革」を行い、慢性的な人手不足の介護施設において離職率の低下とともに入職待機者が多数存在するまでになった。2017年10にはイクメン推進シンポジウムで表彰されるほど働きやすい企業に生まれ変わった。

今回のコラムでは、理想論からの過剰サービスを脱却することで、過酷な"サービス業"である介護業界でも十分魅力的な職場になるという、従来の価値観を変えるような情報を提供したい。

結果として、介護施設で働く職員の離職率が低下すれば、もっと働きやすく、働きがいのある組織へと制度や設備を拡充することも可能になるのではないだろうか。

介護施設は「3k職場」の代表格だ

介護施設は24時間365日稼働しており、職員が日々、高齢者の介護にあたっている。主たる介護業務は「入浴・食事・排せつ」である。これを業界では3大介護と呼んでいる。3大介護は心身ともに消耗する大変な仕事だ。主に従事する職員は「介護福祉士」という国家資格を保持した者が多いのだが、未経験者も少なくない。

というのも、介護福祉士は国家資格だが、名称独占資格であり介護福祉士でなければできない業務は基本的には無い。したがって全くの未経験者でもすぐ介護業務に就ける。

慢性的に人手不足の介護施設が優秀な人材を選ぶ余裕はなく、異業種からの転職者でも容易に就職が可能である。この専門性の低さが低収入や社会的評価の低さにつながっている一因だと言えるだろう。

介護職員の報酬はなぜ低い?

職員の給与は主に介護保険制度で定められている公定価格の介護報酬から捻出されているのだが、我が国の財政事情の悪化により、基本報酬単価は年々低下している。

国は運営基準を定めており、特別養護老人ホームの場合、利用者3名に対し1名の介護者が必要となる。いわゆる3:1を基準に介護報酬が定められている。

しかし3:1では到底、安全な介護を行うことはできないのが現実だ。

安全な環境を構築し、それなりのサービスを提供しようと思うと、基準以上の職員数を配置せねばならず、少ないパイ(介護報酬)を多くの職員に分配しながら何とか運営している。これが多くの介護施設の実態であろう。

介護職員の処遇向上に資するため介護報酬に加算がついている(介護職員処遇改善加算)。だが実際に厚労省の賃金構造基本統計調査を見ると、介護職員の平均月給(賞与除く)は23万円で全産業平均より10万円も低いデータが出ている。

また年々、利用者の重度化と高齢化が進行しており、介護に従事するスタッフの労働負担はどんどん厳しさを増している。

「3k(キツい・汚い・危険な)職場」の代表格ともいえる労働環境を嫌って、若者・学生も介護職を敬遠する傾向にあり、新卒者の確保は少子化も相まって非常に難しくなっているからだ。

介護施設における「過剰サービス」が現場をますます疲弊させる

安定した介護サービス継続のため、厳しい実態を変えていかねばならないが、なかなか介護業界の現実は変わらない。介護保険制度そのものが疲弊していることもあるが、「奉仕の精神」という、介護業界特有のマインドが業務改善を阻んでいる部分が非常に大きいと筆者は感じている。端的にいうと、ボランティア精神に基づいた無理な「過剰サービス」が現場をますます疲弊させているのではないだろうか。

もともと、福祉の原点はボランティアである。特別養護老人ホームなどを主に運営する社会福祉法人は、戦災孤児を助ける慈善活動がはじまりである。

故に施設側も、世間一般の福祉事業所に対するイメージも「儲けてはいけない」という、どこかボランティア精神に付随した感覚があるように思う。

この「奉仕の精神」というものが業界全体に根強くあるという認識に立たなければ、過剰サービスが自然に蔓延する構造は到底説明がつかない。

実際に現場で働くスタッフの多くは、奉仕的な想いを強く抱いている。

「帰りたいけれど、利用者に呼び止められると帰れない」
「施設であっても在宅にいたころのような生活習慣(たとえば夕食後の入浴など)を継続させてあげたい」

これらの想いは非常に尊く、本来ならば介護サービスにとってなくてはならないものである。

しかし、公定価格として定められている介護報酬においては、どれだけ基準以上のサービスを行っても、収入上のインセンティブは発生しないのだ。

各事業所の持ち出し、それから職員の長時間労働によって、利用者へのサービスが成立している構造なのだ。