介護業界の人手不足を解決に導く処方箋|高齢化社会はロボットが救う

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記事の情報は2017-12-18時点のものです。

「過剰サービス」が横行し離職率40%で人手不足は恒常化、倒産寸前まで陥ったという介護施設エーデル土山ではロボットの積極的な導入をはじめとする働き方改革を行うことで収益は過去最高水準にV字回復。介護業界は慢性的な人手不足だが、高齢化が進むいまロボットの活用も含め何に取り組むべきを具体的にまとめた。

働き方改革に対する「抵抗職員」にどうアプローチするか

しかし、これらの「働き方改革」は最初から順風満帆には行かなかった。介護業界の根底にある「奉仕の精神」にノーを突きつけるものだからだ。

特に、残業撤廃や機械・ロボットの導入については、介護業界特有の奉仕の精神が過剰に働くことがあり、強い反発あらわにする職員も少なからずいた。

定時退勤することに「利用者に冷たい」「とても割り切れない」といった声、機器使用には「機械で人をぶら下げるなんて非人道的だ」といった強い抵抗感が職員から起こった。

これについては、全体会議や社内メールで方向性を周知するのではなく、職員ひとりずつに「働き方を見直すことが利用者へのより良いケアに繋がる」ということを丁寧に説明し理解を求めた。

時には1名に何回も説明することもあった。これだけ粘り強く説得することには大きな理由がある。

それは職員は長時間労働が悪いことだとは思わず、自分は良いことをしているという意識を持っているからだ。過剰サービスを「過剰」だとは決して思っていないのだ。

この介護業界特有の奉仕マインドがある限り多くの働き方改革は頓挫する可能性が高い。いくら最新機器を導入されても、自分の良心を否定されていると感じるからである。だからこそ、働き方改革を進めるうえで丁寧で粘り強い説明は欠かせないのである。

他方、働き方改革がサービス低下につながり安全性が確保できない、となっては本末転倒だ。仮に退勤間際に利用者に呼び止められた時に、無視して帰宅するということは根本的にサービス業として許されることではない。

そこで日替わりでオンコール体制を整備し、職員が帰宅後も担当職員が利用者のニーズに応えられるようにした。もちろん担当職員は輪番制とオンコール手当を付けている。

また利用者家族にも施設で出来ることと現実的に出来ないことを説明している。

今までは「ご家族の意向を全て聞きます(夜遅くの送迎)」と言っていたものをサービス提供を持続可能なものとするため「できません」ということを予め断っておく

これらは職員の生活を守るということと同時に安定したサービスを継続していくうえでは欠かせない取組である。

介護スタッフのWLB(ワーク・ライフ・バランス)向上は、収益に直結する

このような地道な取り組みを経て当施設おける「奉仕マインド」は、これらの取組を丁寧且つ迅速に実行していく上で、確実に薄れてきた。

定時に帰宅することが当たり前になるとWLBも自然に向上し、余暇の時間をジムに行ったり趣味に生かしたり、もちろん家事や育児に充てるなど充実していく。仕事だけが優先されるといった感覚は、放っておいても改善されるのである。

現に人間関係のトラブルも大幅に減少し、離職事由も遠方への移住などやむを得ない理由が大方を占めるようになった。

また収益も毎年向上しており、今年度も過去最高水準の収益性を上げている。働き方改革を実施し職員が気持ちよく働ける環境が接遇やサービス向上につながり、収益を高めていると分析している。職員が疲弊した状態で絶対に良い介護は行えない。

最後に、当施設の働き方改革はまだまだ発展途上だ。前回もお伝えしたが、ネガティブな介護業界だからこそ、もっと職員の働きやすさを圧倒的に向上させなければ、他業界との職員獲得競合に勝てないことは明白だからだ。

今まではひたすらにサービスの向上や、福祉の理念だけを唱えていれば成立していた介護サービスは、今後、現実を見据え極めてシビアな経営と人材確保対策をしていかなければ、人材を確保できなくて破綻していくだろう。

働き方改革は経費をかけずともできることもあり、躊躇する理由や時間は皆無である。一度、職員のマインドを変えるという入口を突破すれば、意外と改革は円滑に進むものだ。

2025年問題という団塊世代が75歳に突入するという高齢化社会を目前に、今こそ社会保障の一旦を担う介護業界の大きな覚悟と実行力が問われていると言えよう。人材が集まる魅力的な職場構築には、もはや働き方改革を避けては通れないのである。

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