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働き方改革は一体誰のため?
安倍政権が最重要と位置付けている「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)を含む、働き方改革関連法案が29日に成立した。参院で強行採決される可能性があるという一報があり、26日には高プロに反対する市民団体の集会が行われるなど、賛否両論ある中での法案成立となった。
2016年に「働き方改革」が提唱されて以来、長時間労働の是正、育児休暇・有給休暇の取得促進、テレワーク制度、時短勤務、副業解禁など、各企業はさまざまな工夫を行っているものの、いまだ成果が見えないとの声もある。
そもそも働き方改革は、労働者のために作られた制度のはずである。自分らしいワークスタイルを実現し、誰もがいきいきと働くためのしくみであり、その考え方自体が問題なのではない。政府や企業側の一方的な制度化が、現場の労働者との間のギャップを生んでいるのだ。
そこで働き方改革の事例として、既成概念にとらわれず「社員が自分で選ぶ」働き方改革をスタートさせた、USENの新プロジェクトを紹介したい。
「Work Style Innovation」とは?
USEN-NEXT HOLDINGSは、音楽配信のUSEN、動画配信のU-NEXTなどを傘下に置く企業だ。同社は働き方改革の一環として、6月1日から「Work Style Innovation」と名付けた新人事プロジェクトを始動したことを発表した。スローガンは「かっこよく、働こう」である。
具体的には、以下のような制度が導入される。
●スーパーフレックスタイム制度
これまでの固定時間制から、始業・就業時間を自身の裁量で週休3日勤務、早朝出社など自由度の高いはたらき方を目指す制度。●テレワーク勤務制度
希望する全員に、テレワーク勤務を可能にする制度。場所や利用回数にも制限を設けず、ノートPCとスマートフォンを全社員に貸与し、社内にいなくてもスムーズに仕事ができる環境を作る。
これまで一部の職種や回数制限などを設けてテレワークを導入している企業の事例はあったが、数千人規模の企業による全社員、制限なしのテレワーク導入は日本ではあまり例がない。ある意味自由すぎるこの制度の中に、同社が目指す「かっこいい働き方」が象徴されているようだ。
同社は9月以降、グループ全体の約4,000人の社員が対象になるとしている。
現在、半数の社員がテレワークを実践中
同社の広報によると、6月1日にプロジェクト始動後、実際にテレワークを実践している社員は半数に上るという。
テレワークを体験した社員からは、時間を有効活用できるようになったことで習い事をはじめた、訪問先や外出先からでもオフィスと同じ環境で利用できるのが便利、直行直帰が可能になったなどの声がある。
また、産後に育休から復帰した女性社員は、これまで保育園のお迎え時間のため、2時間時短で勤務をしていたという。テレワークにより、フルタイムの勤務ができるようになり、時短によりカットされていた収入がもらえるようになったという。
「自分で選ぶ」ことの意義
同社の制度の大きなポイントは「自分で決める」、という点だろう。スーパーフレックスタイムの導入は、自分で時間を決めることでメリハリをつけて自分の仕事に向き合い、生産性を高めることを目的としているという。
また、これまで育児や介護のために「時短勤務」という選択しかできなかった社員が、時間や場所を自分で決めることで、フルタイムという働き方を選択できるようにもなった。時間を減らすだけが、本当にその人にとってベストな働き方とは限らないのだ。
スローガン「かっこよく、働こう」には、企業が決めたものを押し付けるのではなく、自分でより良い働き方を選び、それを実践できてこそ「かっこいい」というメッセージが込められているのではないだろうか。
4,000人の社員から働き方改革コンテストも実施
制度を実現するために課題となるのが環境整備だ。同社では、ノートPCとスマートフォンを全社員に貸与し、VPN接続経由で社内ネットワークシステムをテレワーク時にも利用できるようにしている。
また、セキュリティの問題をクリアにするために、HDD暗号化処理を実施した機器を使用するという。
さらには、社員自らが考える機会を作るための施策として「Innovationコンテスト」を実施するという。働き方改革に関する情報を発信する社内向けポータルサイトにて、グループ全体の約4,000人から“idea”を募集しているという。
導入後のマネジメントが成功のカギ
現在、スーパーフレックスやテレワークを大規模に導入できない理由は、環境だけでなく、マネジメントの難しさにもあるといわれている。制度を導入することはゴールではなくスタートだ、今後さまざまな課題が浮上する中で、企業としてどう社員に向き合うか。同社の取り組みに、注目していきたい。