広まる「スマート農業」 ドローン・自動運転・IoT・AIが一次産業の働き方を変える

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記事の情報は2018-10-22時点のものです。

食糧自給は重要だが、日本では農業従事者の減少と高齢化の問題が深刻である。解決策として検討されているのがICT技術を活用した「スマート農業」の本格的な導入だ。スマート農業では、ドローンや自動運転、IoT、AIといった先端技術を用いて作業効率や品質の向上を図る。スマート化で農作業の負担が減れば、農業の働き方改革につながり、人手不足が解消するだろう。
広まる「スマート農業」 ドローン・自動運転・IoT・AIが一次産業の働き方を変える

スマート農業とは

物流の発達した現代では、世界各地の珍しい食べ物を季節に関係なく味わう楽しみがある。家族や友人と美味しいものを囲む行為は、精神面の健康を保つのに役立つ。同時に、食は生命維持に不可欠な要素だ。社会を安定させて経済や技術を発展させるため、食料安定供給の重要性は極めて高い。

輸入が滞りなく行える世界情勢であれば、食料の生産を海外に依存しても問題ない。しかし、そのリスクは大きい。主要な食料は国内で賄える体制を整えておく必要がある。ところが日本では、たとえば農業に携わる人は減少し続け、従事者の高齢化も進んでいる。このままでは、すでに低い食料自給率は下がる一方だ。

出典:農林水産省 / スマート農業の実現に向けた取組と今後の展開方向について

状況を改善するには、若い人々の就農、法人の参入、大規模化や機械化による生産性向上などが効果的で、こうした努力は以前から行われている。そして、少し前から「スマート農業」という考え方が広まってきた

スマート農業とは、農林水産省の解説によると「ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、省力化・精密化や高品質生産を実現する等を推進している新たな農業」のこと。特に最近は、ドローンや自動運転、IoT、AIといった先端技術への期待が高まり、スマート農業での活用が試みられている。

食料の供給源である一次産業には、農業だけでなく、漁業や養殖などの水産業、牧畜業なども含まれる。それぞれの領域でスマート化に向けた試みは盛んだが、今回は農業に絞り、スマート農業の全体像をみていく。

スマート農業に使われる技術

IoT、5G、ドローンで「見える化」

農作物をうまく育てるには、温度や湿度、日照、水分や栄養素の過不足といった気象データを得たうえで、適切に対応することが必要だ。名人は長年の経験から習得した勘で限られたデータから見事な結果を出すが、そんな技など一朝一夕では盗めない。

ここで使える技術は、IoTと5Gである。温度や日照、水分量など用の計測センサーを多数設け、24時間休みなくデータを集めて分析するのだ。従来の技術だと、データの大量取得は簡単でなかった。一つひとつ目視した温度計などの数値をノートに書き留める時代は過去の話だとしても、各センサーに配線してデータを集めるシステムの構築は負担が高い。センサー設置にも配線にも手間がかかる。

これに対し、5Gによる通信方式が可能で、通信プロトコルが統一されたIoTセンサーならば、設置と配線の作業負荷が軽くなる。5Gは1平方kmあたり最大100万台ものデバイスを同時モバイル接続できる規格であり、広大な畑や水田の状態を把握しようと大量のセンサーを設置しても、問題なく機能する。システム構築などの負担が大きくて難しかった詳細なデータ収集が、最新技術で省力化される。

また、空撮やレースなどのホビー用途で人気のドローンも、スマート農業の一翼を担う。

農作物の生育状況を調べるのに葉や実の状態を見たいのだが、人手頼りだと大規模な農地ではほんの一部しか確認できない。目視で確かめられなかった領域の育成状況は、その周辺のようすから推測するしかない。

ところが、ドローンで上空から撮影すれば歩いて回るよりはるかに広い範囲の状況を目で確かめられる。ヘリコプターや飛行機よりも手軽に利用でき、しかも低空から観察できるので、定期的に詳しく調べられる。ドローンの映像で大まかな状況を調査し、気になる場所は実際に足を運んで確かめる、といった対応がとれる。

ドローンと自動運転で「自動化、省力化」

ドローンはさらに、さまざまな農作業の自動化や省力化に貢献する。

広大な農地への農薬散布は重労働だが、ドローンを使えば容易になる。従来の人間が操縦するヘリコプターと違い、専門の業者に依頼する必要がない。リモコンのヘリコプターより操縦が簡単なので、導入しやすい。

しかも、自律飛行が可能なドローンなら「このルートを飛行し、畑のこの部分にだけ散布する」と設定するだけで、あとはドローン任せにできるようになる。散布作業から解放されるだけでなく、ほかの仕事に時間を使える。

農業においては、収穫も重労働だ。腰をかがめたり、高いところに腕を伸ばしたりといった動作を繰り返すことは、体に対する負担が大きい。このとき役立つのが、外骨格スーツだ。装着者の動きをパワーアシストして負担軽減させるデバイスで、パワードスーツなどとも呼ばれる。実用化されれば、肉体労働と思われがちな農作業のイメージが一変する。将来的には、収穫を完全に自動化するロボットも開発されるだろう。

自動車で期待の自動運転技術も、農作業の自動化と省力化につながる。たとえば、トラクター運転、収穫物運搬といった仕事が無人で行える。

ほかの自動車や歩行者、自転車などが混在する公道と違い、農地内は要求される自動運転技術の完成度も比較的低くて済む。ガイド用のビーコンを設置しておけば、自動運転の難易度は下がる。さらに、日本の準天頂衛星「みちびき」で提供される高度な衛星測位システムに対応すれば、ビーコンなしでも正確な自動運転が可能になる。

AIで「判断を支援」

IoTで大量にデータを集めても、解析してデータの意味を見いださなければ価値はない。そこでAIが活躍する。ビッグデータから特定のパターンを見つけ出すことや、見落としがちな変化を漏れなく発見することに長けたAIからアドバイスをもらえば、経験の少ない農業従事者でも失敗なく作物を育てられるだろう。

AIは画像解析も得意なので、葉の写真などから生育状況、病気や害虫の有無などの診断も可能だ。ドローンや人工衛星で撮影した画像も診断に利用できる。

スマート農業で一次産業の働き方改革を

最先端の技術でスマート農業が実現すると、農作業の負担が軽減されるうえ、ノウハウのシステム化で未経験者も結果を出しやすくなり、農業に興味があっても二の足を踏んでいた層の参入が期待される。

農業法人のような組織で交代勤務したり休暇取得したりできるサラリーマン的な農業も可能になる。農業の働き方改革へとつながり、農業従事者の増加、人手不足の解消へと向かうはずだ。

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