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- プレシジョン・ファーミングとは
- 精密農法の原型とは
- Site Specific Managementの登場
- プレシジョン・ファーミングのテクノロジー
- 可変作業技術(Variable Rate Technology)
- GPSベースの土壌調査(GPS Soil Sampling)
- アプリケーション(Computer-Based Applications)
- リモートセンシング(Remote Sensing Technology)
- 日本のスマート農業
- クラウド・ソフトウェアパラダイム
- IoT
- ビッグデータ分析・機械学習
- モビリティ/モバイルアプリケーション
- プレシジョン・ファーミングの今後の課題
- プレシジョン・ファーミングで日本農業の競争力強化を
プレシジョン・ファーミングとは
プレシジョン・ファーミングとは、農地の気候や土壌、農作物の状態をきめ細かく観察・管理することで生産性と品質の向上をはかる、21世紀型の農業生産システムであり、精密農法あるいは精密農業、精密ほ場管理と呼ばれています。
システムの中核となるのはGISとGPSを用いた農地管理ですが、具体的にテクノロジーがどのように適用されているのか、日本の農業に与える影響はどのようなものか、解説していきます。
精密農法の原型とは
大量の農作物収穫のため、長らく使用されてきた農薬や化学肥料が環境汚染を引き起こし、人体への影響が深刻化する中、1980年代のアメリカでは化学資材散布の法規制が強化されるようになりました。
それに対応するため、本来の農法に回帰する「有機農法」や、農薬を使わない「無農薬栽培」害虫の天敵を利用する「生物防除」が試みられ、1989年に出版された「代替農業」でそれらを集約した精密農法の原型ともいえる概念が登場しました。
Site Specific Managementの登場
しかし、コストと手間がかかる一方で生産性が低下してしまう有機農法の代替農業は、農業者からの支持を得ることが難しいという現実がありました。
これを解決し環境保全と生産性を両立させる農法として、ほ場を小さいセルに区切って細かく管理するというSite Specific Managementという手法が登場しました。
GISやGPS、リモートセンシングなどの技術発達に伴い、この手法が一気に現実化したことで、21世紀型の農業生産システム、プレシジョン・ファーミングとして世界中に広がることになったのです。
プレシジョン・ファーミングのテクノロジー
農業にテクノロジーを活用するというのは、一見不自然なようにも感じるかもしれませんが、生産性を向上させるという観点では、一般的な事業が生産性向上のためにテクノロジーを活用するのと同様です。
その活用方法とはどのようなものなのか、具体的にプレシジョン・ファーミングで投入されているテクノロジーを解説します。
可変作業技術(Variable Rate Technology)
可変作業技術(VRT)は、プレシジョン・ファーミングの基本となる技術であり、小さなセルに区切られたほ場をエリアごとに管理し、除草剤といった資材を可変調整しながら投入していくものです。
基本的な方法としては、マッピングされたほ場をセンサーとデータベースで管理しますが、それを構成するテクノロジーが、次に解説する「GPS」「アプリケーション」「リモートセンシング」になります。
GPSベースの土壌調査(GPS Soil Sampling)
農地の土壌に含まれる栄養素、pH値などが農作物の成長に与える影響は大きく、収穫量と品質につながります。
そのためプレシジョン・ファーミングでは、区切られた小さなセルごとの土壌調査を行い、ばらつきを考慮したデータが必要になりますが、これにGPS(全地球測位システム)が利用され、VRTでの資材可変投入に利用されます。
また、GPSはアプリケーションで解説するGIS、リモートセンシングにも利用されます。
アプリケーション(Computer-Based Applications)
GPSのデータを利用してほ場のマップ作成を行うGIS(地理情報システム)、それを元に、農作物の生育状況、収穫状況のマップを作成して活用するためにアプリケーションが使用されます。
これらのデータに資材の投入状況などを組み合わせ、データベースを構築して分析、改善策の応用を繰り返すことにより、環境負荷が小さく、収穫の大きい農業の実現を目指します。
今後、データの蓄積と応用方法が進むにつれ、意思決定をさらに容易にするアウトプットが得られると期待されています。
リモートセンシング(Remote Sensing Technology)
農地の広大なアメリカでは、古くからほ場のモニタリングを行い、水や資源の管理のためにリモートセンシングが行われてきました。
当時は飛行機、ヘリコプターなどが使用されていました。現在では小さく区切られたほ場ごとのモニタリングのため、GPSやドローンを活用するリモートセンシングが行われています。
日本のスマート農業
小さく区切られたほ場ごとの管理というプレシジョン・ファーミングの概念は、テクノロジーの発達によって急速に現実のものとなりました。日本でもこうした動きを農業に取り入れ、活用していこうという動きが活発化し、農林水産省が「スマート農業」として推進を行っています。
スマート農業の考え方やテクノロジーは、基本的に欧米のプレシジョン・ファーミングと同様ですが、農地が狭いという日本の状況を考慮に入れたテクノロジーの活用がされています。
クラウド・ソフトウェアパラダイム
プレシジョン・ファーミングでアプリケーションにあたる部分が、クラウド・ソフトウェアパラダイムです。
特に目新しいシステムということではなく、農地のマッピングや農耕計画作成、データ収集と分析といった機能を、クラウド上のストレージとソフトウェアに集中して処理・管理する、いわばSaaSといえるものです。
欧米が先行しているプレシジョン・ファーミングの世界で、日本が追いついていくために期待されている分野でもあります。
SaaSについて詳しく知りたい方は次の記事をご覧ください。

IoT
あらゆるものをインターネット経由で接続するIoTは、スマート農業でもGPSを核にしたシステムとして活用されています。
GPSによる土壌調査はもちろん、GPSガイドで無人動作するトラクターなどが実用化されており、得られたデータをクラウド経由で収集、活用することによって、ソフトウェアパラダイムの進化に役立てています。
IoTについて詳しく知りたい方は次の記事をご覧ください。

ビッグデータ分析・機械学習
これらによって得られたデータを収集してビッグデータを形成し、農耕計画をより効率的に策定するため、AIによる機械学習も進められています。
これにより、簡単なアルゴリズムで検索可能な構造化データと、非構造化データの収集と分析が進み、より有効な農法の改善点を見つけ出せます。
ビッグデータについて詳しく知りたい方は次の記事をご覧ください。

モビリティ/モバイルアプリケーション
小規模農家の少なくない日本では、農家単位で大規模なシステムを導入することが難しい面が存在します。
こういった現実に対応するため、モバイルデバイスとモバイルアプリケーションの貸与を行い、より詳細なデータ収集と分析に役立てられているほか、モバイルアプリケーションの進化も続けられています。
プレシジョン・ファーミングの今後の課題
プレシジョン・ファーミングという技術革新が進む中、アメリカではサービスを提供する農業IT企業と農家のトラブルを避けるため、適切なサービスを農業関係者に提供するための認定を付与するNPOが設立され、法整備への動きが加速しています。
これは、ほ場のデータを提供する立場にある、農業関係者の個人情報保護に基づいた動きとなっており、日本でも取り組んでいかなければならない課題の一つであるといえます。
プレシジョン・ファーミングで日本農業の競争力強化を
日本の食料自給率は、世界でも類を見ない低さになっています。
品質には定評のある日本の農作物が、自国経の供給を満たしていない現状は、生産性を向上させることが難しいことに起因する、農作物の競争力欠如に見いだせるかもしれません。
プレシジョン・ファーミングを基本としたスマート農業の進化は、そうした状況を打破し、日本農業に競争力をもたらすきっかけとなるかもしれません。