「高プロ」対象者とその予備軍が、おさえておくべき3つのこと

年収1075万円以上の労働者を対象とした高度プロフェッショナル制度(高プロ)を含む、働き方改革関連法が成立しました。ホワイトカラー・エグゼプションなど高プロ導入に至るまでの歴史と高プロが求められている背景や目的、「高プロ」対象者と予備軍が知っておくべき3つのポイントをご紹介します。

「高プロ」対象者とその予備軍が、おさえておくべき3つのこと

国税庁の調査によると、年収1000万円以上の給与所得者は5.9%。高プロ予備軍の年収800万円以上まで広げると、高プロを意識したい給与所得者は12.1%に拡大します(※)。高プロの適用になる可能性のある方は知っておきたい高プロのポイントを解説します。
※国税庁統計情報「平成29年分民間給与実態統計調査」

高プロ導入にいたるまでの歴史をおさらい

高度プロフェショナル制度(高プロ)の前身は、2007年に第一次安倍内閣が打ち出した「ホワイトカラー・エグゼンプション」です。この制度は、アメリカで用いられているエグゼンプト(ホワイトカラーの労働者)を対象としたしくみに影響を受けています。

結果的に「過労死を招く」といった強い反発を受けてホワイトカラー・エグゼンプションは国会に提出されずじまいでしたが、内容は現在の高プロと大きく変わりありません。

反対意見のあおりをうけて年収要件が引き上げられたため、直近での対象者は少数派ですが、参考元のアメリカの制度では年収要件が500万円以上とされています。日本の高度プロフェッショナル制度においても、制度成立後に段階的に年収要件が引き下げられるのでは?と噂されています。

他方、高プロを「残業代ゼロ法案」と揶揄するケースもあります。長時間労働を促進する制度では?残業代を払いたくない経営者のための制度では?といった根強い反発があるなかで成立したことは事実です。

高プロがフィットする仕事もある

では、高プロを導入しようとする会社は俗に言うところのブラック企業なのでしょうか?そうした論調は強いのですが、社労士として客観的にこの制度を評するに、一概にそうとも言い切れないと思います。

労働時間×賃金の考え方のベースとなる労働基準法には、労働した対価として賃金を支払うように定められています。ここでの労働とは労働した時間を指しています。

労働基準法は、労働者の保護を目的とした法律なので、労働時間の上限を定めることで労働者の健康を守り、労働時間×賃金の公式で労働者の生活(待遇)を守ることができるように考えられています。

管理職(管理監督者)に該当する人が時間外・休日労働の割増賃金の対象外なのは、管理職者が、労働者であると同時に使用者としての側面も持っていることが理由です。

ですが、これまでの実態としては割増賃金さえ支払っていれば、実質的に青天井で労働者に残業させることが可能だったため、健康を守るという面では時間の尺度が機能していませんでした。この解消策として、導入が決まっているのが残業の上限規制です。

つまり、健康と待遇を守るためのブレない尺度として労働時間が必要だとするなら、健康と待遇が担保できさえすれば、時間の尺度はなくともよいのでは?と定義したのが高プロなのです。

労働時間×賃金=成果の方式が、おおむね成り立つ仕事も多いでしょう。しかし、労働時間を抜いた、成果=賃金の方がフィットする仕事があることも事実だと思います。

裁量労働制、年俸制との違いは?

労働時間について使用者が指示を行わず、労働者の裁量に任せるしくみとして裁量労働制がありますが、裁量労働制も、成果に必要な労働時間の予測をもとに賃金を考える必要があります。

また、よくある勘違いですが、年俸制であっても残業代の支払は必要ですし、固定残業代を導入していても固定時間を超えたら残業代は必要です。高プロ以外のしくみには、必ず労働時間の尺度が組み込まれているのです。

おさらい。高プロってどんな制度?

一言で説明すると、対象業務と年収要件、健康確保のための一定要件をクリアすれば残業代の支払が不要になる制度です。

特徴として、時間外・休日労働のほか深夜残業も残業代支払いの対象外となる点が、管理監督者や裁量労働制の扱いと異なります。また、残業という考え方自体から外れるため、残業時間の上限規制の対象からも外れます。

引用:「労働基準法等の一部を改正する法律案」資料No2

高度プロフェッショナル制度のポイント
・制度を適用するには、労働者の個別合意が必要
・残業代は対象外でも、会社には正確な労働時間を把握する義務がある
・時間無制限で働くためのしくみではない

長時間労働の温床となると誤認されることも多い高プロですが、会社には、残業代を払う義務はなくなっても、健康を確保する義務は変わらず課せられています。

むしろ、裁量労働制よりも健康確保については具体的な措置の実施と報告が求められているので、そういう意味では働く時間のコントロールは今より必要になる制度とも言えるでしょう。

「高プロ」対象者と予備軍がおさえておくべき3つのこと

前段のとおり、自動的に高プロが適用になるということはありません。必ず、会社と個別で合意を結ぶというステップが発生します。対象となる方はそのときに備えて、以下のポイントを押さえておきましょう。

(1)効果は求めるものによって違う

もっと働きたいと思っていても、会社から時間外・休日労働を制限されているという場合には、時間にとらわれず成果にこだわる働き方ができるかもしれません。

逆に、働く時間を減らしたいと思っている方にとっては、健康確保についての具体的な措置を足がかりに、仕事にメリハリをつけるきっかけとしてはいかがでしょうか。

(2)収入減につながる可能性あり

これまで残業代の支給があった場合は、高プロの対象になることは収入減につながります。

毎月の給与明細の中身を把握していないという方は、必ず給与明細をみて残業代の金額を把握しておきましょう。高プロ適用後の給与条件と比較し、減収額が大きすぎるという場合には個別に合意を結ぶ際に、話し合いを持つべきです。

(3)望まない管理職から解放されるかも

労働者本人の意向や適性にかかわらず一定以上の給与額になると管理職(管理監督者)に振り分けられ、結果として時間外・休日労働の支給対象外となっているようなケースもあると思います。

高プロの適用によって望まない管理職から解放され、専門職としての道をまい進できる体制が整うことも期待できると思います。

まとめ

高度プロフェッショナル制度は、デメリットが取り上げられることが多い制度ですが、逆に考えると世の中が厳しい目で行く末を見つめている制度でもあり、企業にとっては導入ハードルが高く、悪用しにくい空気が生まれています。

この採用難の時代、高度な専門スキルを有する人材を手放すリスクを企業側も十分承知のはずです。対象となる方も、本当に自分たちにとってプラスとなる制度なのかを冷静に見極めて、現職企業で合意するか否かを判断してほしいと思います。

いずれにしても、「働いた時間に対して、賃金を支給する」という仕組みのなかでは、長時間労働の是正や生産性の向上に限界があることも事実です。高度プロフェッショナル制度が、時間ではなく成果で報酬を決める「ジョブ型雇用」が日本にも定着する、追い風となることを期待します。