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職能給から職務給へ、なぜ賃金制度は転換しているのか
職能給から職務給へ、賃金制度が転換しているのには3つの理由があります。
1つは高度経済成長、労働力人口が放っておいても増加する時代が終了したこと、2つめは、テクノロジーの急速な進化、3つめは成果報酬制度の普及です。
職能給では、社歴が長く年次の高い社員に対してその成果以上に賃金を払うこともあります。
大量生産大量消費で経済成長を遂げていた時代であれば、新入社員をたくさん雇い入れて若手社員に活躍してもらい、全社員の人件費をまかなうことも可能でした。
しかし、このような高度経済成長は終わり、テクノロジーが急速に進化するいま、社歴や経験の長さは職務遂行能力の高さを保証するものではなくなりました。
たとえ年次の高い社員であっても成果以上の報酬を支払うのは困難であり、それぞれの成果に応じた給料を払うべきだという考えが強くなっています。
さらに、働き方は多様化し、2000年代に突入する頃から非正規社員はどんどん増加しています。同じような責任を課していても、正規社員と非正規社員では報酬が異なるケースもあり、身分に基づく待遇格差は不合理なので是正しなければならないとの指摘が相次いでいます。
今後も、職能給から職務給への賃金制度の転換はさらに進むでしょう。
職能給とは
職能給は、どのような職能(能力やスキル)を保有しているかに応じて賃金を決める制度です。
職能は職務の遂行能力を指しますが、この職務の遂行能力を客観的に評価することは容易ではありません。
そのため、職能を決める基準は会社にどのくらい勤続しているか、社内や業界のことにどれだけ精通しているかなど属人的な情報に依存し、仮に成果を出していなくても年功序列で賃金が上昇していく可能性が指摘されています。
職能給のメリット・デメリット
職能給のメリット・デメリットにはどんなものがあるのでしょうか。
職能給のメリット
職能給は、年齢や勤続年数に応じて自動的に職能の等級が上がっていく傾向が強い賃金制度です。そのため、社員は長期間勤続し、50〜60代の高給を目指して会社に残り続けます。
企業側は定着率向上(離職防止)につながること、社員側は、実力主義の厳しい競争に巻き込まれず、目の前の業務に安心して取り組めることがメリットと言えるでしょう。
職能給のデメリット
しかし、成果主義が広く普及した昨今では、職能給のデメリットも指摘されています。
まず、高齢人材は相対的に高い給料をもらえますが、一方で若手社員は成果に見合った給料をもらいにくくなります。
その会社に最適化されたジェネラリストを育成するので、一個人としての労働市場における価値が向上しない、自発的なキャリア開発が滞るなどの問題が発生しがちです。
つまり、若手の優秀な社員にとって職能給の会社に勤めるデメリットは大きいといえます。
また、勤続年数とともに給料が上がっていくということで、社員が成果を出すためのモチベーションを引き出すのが難しいでしょう。
職務給とは
一方、職務給とはアメリカを中心に取り入れられてきた成果主義の賃金制度です。職能給では勤続年数が重視されるのに対して、職務給においては業務の種類に基づいて賃金が決定されます。
成果や責任に応じて給与は変わり、勤続年数に関係なく、営業職には営業職、事務職には事務職として働き方によって同じような賃金評価をしよう、というのが職務給の考え方です。
日本でもバブル崩壊以降、終身雇用と年功序列の雇用慣行を見直して、職務給を導入する企業が増えています。
職務給のメリット・デメリット
職務給にもメリットやデメリットがあります。
メリットは、若手でも成果を出していればその分評価され、収入増を目指せることです。合理性があるので、組織内部での納得感も得られやすいでしょう。
デメリットは賃金制度の運用コストや、柔軟な配置換えが難しくなることなどが挙げられます。
職務給のメリット
職務給においては、職務内容と成果に基づき給料が決定されます。
会社としても業績に連動して給料を設定しやすくなりますし、若手の社員でも成果さえ出していればきちんとした給料を支払えます。なぜ給料がその金額なのか、社員に合理的に説明できるため、社員の納得も得やすいでしょう。
成果をだすために社員は自分の専門性を高めようと努力し、努力して成果を出せれば働きがいにもつながります。社内のスペシャリスト人材を育成し、モチベーション高く活用できるのです。
また、若手でもきちんと成果に応じて給料がもらえて、なおかつスペシャリストとして労働市場における価値の高められるということで、優秀な若手社員を集めやすくなります。
職務給のデメリット
職務給の賃金制度で社員を適正評価するためには、人事部が社員を細やかに評価する必要があります。そのため、勤続年数をベースに一律で給与を計算しやすい職能給と比較すると、職務給の賃金制度の方が運用コストは高くなってしまいます。
また、職務給を前提として雇用をすると異なる職務への配置換えは困難になります。日本では欧米のように従業員を簡単に解雇できないため、不採算事業からの撤退や縮小が行いにくくなります。
社員の立場からすれば、能力が上がっても市場環境などの外部要因で成果が上がらなかった場合には給料が下がることもあり、会社へのエンゲージメントは低下することがあるでしょう。
心身に不調をきたした場合、職能給であれば別の職務への配置換えによって雇用を守ることもできました。一方で職務給の場合、こうした対応がしづらくなるという指摘もあります。
職務給の導入は促進されるか
グローバルでは職務給が一般的です。海外の人材からするとなじみづらい旧来の雇用慣行のままで、世界の労働市場において日本企業に魅力を感じる可能性は低いでしょう。
国内での人材の獲得難や人件費の高騰、海外から優秀な人材を獲得しようと思えば、職務給ベースでの賃金制度構築は急務といえます。
すでに日本でも一部の企業ではこのような課題に対応するために役割等級制度(ミッショングレード制)を導入する企業が増えており、職務給の考え方が普及してきています。
今後は国を挙げて働き方改革の柱ともいえる「同一労働同一賃金」が推進されるため、仕事内容が同じ労働者に対しては同じ賃金を支払うべきだという考えが浸透していく可能性は高いでしょう。