イクボスとは | 部下のワークライフバランスに配慮したマネジメントができる次世代型リーダー

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「イクボス」という言葉が今、注目されています。男性の育児休業など、部下の子育てに対して理解のある上司や経営者がいると、社員にとって非常に働きやすくワークライフバランスを実現しやすくなるのです。本記事では、イクボス宣言やイクボス10か条、広島県知事など自治体での取り組み状況も交えて、イクボスになるために必要なことをまとめました。
イクボスとは | 部下のワークライフバランスに配慮したマネジメントができる次世代型リーダー

注目されるイクボスとは

あなたの職場の上司はイクボスですか。部下の育児参加や介護、学びと仕事の両立など、部下のワークライフバランスに理解のある上司や経営者が少しずつ増えています。こうしたイクボスについてその定義や背景について取り上げます。

男性の育児参加を推進するNPO法人ファザーリング・ジャパンの定義によるとイクボスとは、「職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランス(仕事と生活の両立)を考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しめる上司(経営者・管理職)のこと」とされています。

「イクボス」が必要とされる社会的背景

共働きと核家族化が進みつつある現代では、夫婦ともに仕事と家庭を両立し、子育てを二人三脚で協力して行うことが必要となっています。

育児だけではありません。介護と仕事の両立や、不妊治療と仕事の両立、病気の治療と仕事の両立など、ワークライフバランスの重要度が増しています。また、人生100年時代を見据えた学びや副業、健康維持のためプライベートをより重視する人も増えてきました。

企業側は組織として彼らをしっかりとサポートすることが必要となっています。未曾有の人材不足に直面するいま、重要な戦力が組織から離脱しないために、あるいは魅力的な人材を採用するためにも、企業だけではなく公的機関においてもワークライフバランスを考慮したマネジメントができる人材が必要とされているのです。

そんな管理職こそがイクボスです。部下のさまざまな事情や志向を理解し、ワークライフバランスに配慮しながら最適なマネジメントを行えるのがイクボスなのです。

日本の育児休暇取得率の現状

イクボスという考え方が登場した背景には、日本の育児休暇取得率の課題があります。

厚生労働省が発表した平成30年度雇用均等基本調査によると、育児休業取得者の割合は、女性82.2%、男性6.16%と、どちらも女性は微減に対して、男性は微増にあります。
男性の育児休業取得者は過去最高の取得率となっているものの、いまだに男女差が大きいのが現状です。

男性の育児休暇取得の難しさ

男性の育児休暇取得は、まだまだ難しい実態があります。
その原因は、現在の企業の管理職である40代以上の上司と部下との価値観の違いです。自分の仕事が早く終わっても上司より先に帰りづらい雰囲気や、子どものための有給取得さえままならないような風潮がいまだ残っているのです。

イクボスになるためにやるべきこと

実際にイクボスになるためにはどうすれば良いのでしょうか。具体的に何をするべきなのか見ていきましょう。

イクボス宣言をする

まず一つ目は、「イクボス宣言をする」ことです。イクボス宣言とは、従業員や職員が、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら安心して子育てに取り組めるような環境をつくると企業や自治体などの組織が対外的に宣言すること。

NPO法人ファザーリングジャパンが行っているもので、厚生労働省「日本総イクボス宣言プロジェクト!!」(ひろがれイクボスの輪)を見ると、多くの企業・団体・自治体からの宣言があります。

具体的な取り組みとしては、「仕事を効率的に終わらせて早く帰る社員を評価する」「有給休暇の取得を推進する」といったものが多いようです。

大切なことは、自分たちの組織がイクボス宣言をしていることで注目を集めたい、評価されたいといった下心からではなく、本当に部下やメンバーが働きやすいようにすることを目的として宣言することではないでしょうか。

ちなみにNPO法人ファザーリング・ジャパンでは、イクボスになるために必要な10ヶ条を提案しています。10ヶ条のうちの過半数をクリアすることがイクボスの証、とされているので指標としてチェックしてみてはいかがでしょうか。

イクボス10か条とは

イクボスプロジェクトで提唱されている「イクボス10か条」について、それぞれを簡単に解説します。

(1)理解

これまでの子育ての概念を捨て、現代の日本の子育て事情への理解が必要です。部下の子育てへの時間を確保することに対して前向きな理解を示すことが重要です。

(2)ダイバーシティ

現代では人材不足という悩みをどの企業も抱えています。そのため、ダイバーシティな経営こそが必要不可欠であり、子育てに時間を割いている部下でも働きやすい環境を作ることが必要です。

子育てに時間を使える制度としてはテレワーク時短勤務があります。

(3)知識

部下が企業に属しながら子育てを行いやすいように、「育休制度がどのようになっているのか?」また、「法律上ではどのようになっているのか?」といった専門知識を持っておくことが必要です。

(4)組織浸透

組織は管理職からの発言が大きな影響を及ぼします。そのため、社員からの意見を待つのではなく、トップから積極的に子育てへの時間を確保するように推奨することが必要です。

(5)配慮

子育てに専念しなくてはいけない時期に、単身赴任や引越しを必要とする転勤などは、当事者にとって大きな負担になります。子育てに専念できるような人事配慮が求められます。

(6)業務

子育てに専念できる環境を整備しても、社内の業務が滞ってしまっては意味がありません。もし育休取得者が出た場合でも、業務が滞りなく進むようにチーム内の情報共有の仕組みを事前に構築することが必要です。

情報共有に利用可能な社内SNSやビジネスチャットについては次からご覧ください。

(7)時間捻出

部下の判断だけでは、子育ての時間を捻出することは困難です。そのため、部下が時間を作りやすいように社内での意思決定のスピードの迅速化、不要な業務を効率化させることが必要です。

(8)提言

企業にとって人材は必要不可欠な資本であるため、部下がワークライフバランスのとれた働き方ができるような経営方針を提言していることが求められます。

(9)有言実行

育休制度を充実した結果、業績が落ちてしまっては元も子もありません。そのため、イクボスのいる組織こそが社会に認められ、業績も向上していくということを実証する必要があります。

(10)隗より始めよ

いくら部下に対して積極的な子育てを推奨していても、イクボスの立場である自分自身が実現できていなければ説得力はありません。イクボス自らがワークライフバランスを重視した取り組みをしていることが必要です。

イクボスセミナーに参加する

イクボス宣言は組織として行うものですが、個人としてできることもたくさんあります。セミナーに参加してイクボスについて学ぶことも効果的です。

自治体やNPO法人ファザーリング・ジャパンが行っているイクボスセミナーに参加すると、「イクボスの実践の方法」「実際の実施例」などさまざまなことを学べます。

自治体や企業の取り組み

イクボスを育てることは、現代の社会的な要請であるとも言えますが、こうしたことに対して自治体や企業はどういった取り組みを行っているのでしょうか。

自治体からの積極的なイクボス宣言

多くの自治体で、首長が率先してイクボス宣言をしていることが話題になっています。たとえば、広島県の湯崎知事が全国の知事に先駆けてイクボス宣言をしたときには大きな話題となったため、記憶している人も多いのではないでしょうか。

今では、全国20政令市の市長や、滋賀県甲賀市のように管理職職員総勢130人がイクボス宣言するといった例もあり、大きく広がりを見せています。

イクボス企業同盟の設立

NPO法人ファザーリング・ジャパンでは、イクボス企業同盟を設立しています。イクボス育成に積極的に取り組む企業のネットワークです。

ノウハウの連携やイクボス育成のためのセミナーや勉強会を実施しています。また、社会に対してのイクボス育成のための発信行動も行っています。

イクボスアワードの授与

厚生労働省では、男性の育児休業取得を促進するイクメンプロジェクトの一環として「イクボスアワード」というものを実施しています。これは、「部下の育児と仕事の両立を支援する管理職=イクボス」を企業の推薦によって募集・表彰するもので、これによって育児と仕事の両立を推進しています。

イクボスに必要な3つのパラダイムシフト

企業の中でイクボスになるためには、ある意味でパライダイムシフトが不可欠です。具体的にどういった既成概念を乗り越えていく必要があるのでしょうか。

「残業は美徳」という考えの打破

一部の企業では、かつての高度経済成長期の日本がそうであったような「残業は美徳である」といったような、残業を肯定的に捉える風潮が残っています。

美徳まで行かずとも、お付き合い残業の恒常化、断れない転勤など、長時間におよぶ均質的な働き方を暗黙裡に強要する企業文化を持つ企業は少なくありません。

しかし、これでは社員のワークライフバランスは保てません。ワークスタイルに対する古い価値観を打破することは、イクボスになるために乗り越えるべき最初の一歩です。

部下ひとりひとり「個」の尊重

イクボスになるには、部下それぞれの考え方や状況を尊重、理解して、支えようとする姿勢が大切です。これまでは、一律のルールに則って部下を管理することがマネジメントでしたが、いま必要なのは個別の事情を考慮し部下に伴走するようなマネジメント。

それぞれの部下には、いろいろな事情があります。1on1ミーティングなどを通じて、個別の価値観や状況をオープンにしてもらい、心理的安全性を担保したうえで個別最適化を図っていくよう、マネジメントスタイルをシフトすることが必要です。

個別の事情を考慮したマネジメントを実現しながらも、チーム内での負荷の偏りをなくすといったバランス感覚も求められます。

人事との積極的な連携

イクボスは管理職だけでできるものでありません。部下の事情をしっかりと理解し、思いを汲み取り、時には人事に制度の見直しなどを含めた働きかけをすることも必要です。

これまでのように人事が定めた規則を守るだけでは、個別最適化マネジメントは不可能。働き方などの規則改定だけではなく、ワークライフバランスを確保するために宙に浮いた仕事を引き受けた人を評価するための新たな制度創設も必要です。

管理職として単独で頑張るのではなく人事部門と積極的に連携し、人事と協力して子育てや介護をする部下をサポートし、組織全体で成果を上げていく仕組みを自ら創っていくことがイクボスの役割でもあるのです。

理想の上司になるために

部下にとって理想の上司、イクボスになるためには、自分の思いや価値観だけでなく部下の意向や事情をしっかりと理解することが不可欠です。

しかし、ホスピタリティだけを原動力にイクボスになるには限界があるでしょう。企業や事業の置かれた状況や現状の課題を理解し、組織への貢献と個人への配慮を両立しながら、イクボスとしての働きをしていく必要があります。

労働力人口の減少が続く中、イクボスの活躍で離職率の低下や組織エンゲージメントの向上など、企業メリットは大きいものです。これを機に、イクボス育成についてあらためて考えてみてはいかがでしょうか。