農業RaaS「inaho」が最優秀賞、プライシングSaaS「空」も受賞‐NTT東日本アクセラレータープログラムで14社ピッチ
(写真左:審査委員長を務めたNTT東日本代表取締役副社長 澁谷直樹氏、最優秀賞を受賞したinahoの代表取締役CEO 菱木豊氏)
コレクティブインパクトを未来へつなげるために
NTT東日本のアクセラレータープログラム「NTT EAST ACCELERATOR PROGRAM LIGHTnIC」(以下、LIGHTnIC)は1月23日、採択企業14社によるピッチを審査するデモデイを開催した。
LIGHTnICはNTT東日本の技術や販路と、ベンチャーが持つプロダクトを掛け合わせ、地域・社会課題解決に向けたイノベーションを生み出すためのプログラム。3年目となる2019年度は5月に募集を開始、8月末に16社まで選考で絞り込み、9月から4か月のPoCやテストマーケティングを経て同日のピッチ発表となった。
審査員長を務める澁谷直樹氏(NTT東日本代表取締役副社長)は冒頭、「個々の人や企業の思いを超えて共通したインパクトを未来にもたらせるかが重要」とコレクティブインパクトの必要性、LIGHTnICの意義を語った。また、きたる「デジタルデータの駆動型社会」に向け、同社が基盤を支える役割を担いたいとの意思を示した。
ピッチの審査には、アルファドライブ代表取締役社長 麻生要一氏、内閣府 科学技術・イノベーション担当 企画官 石井芳明氏、デロイトトーマツベンチャーサポート代表取締役社長 斎藤祐馬氏、eiicon company 代表・founder 中村亜由子氏が参加した。
最優秀賞は自動野菜収穫ロボットを提供するinaho
受賞企業は次のとおり
【最優秀賞】inaho(農業ロボット)
自動野菜収穫ロボットとRaaSモデルによる次世代農業パートナーシップを目指す
【優秀賞】知能技術(医療)
クラウドとAIで病院と介護施設の患者行動を常時学習し、患者安全向上と職員負担減を実現
【優秀賞】DG TAKANO(節水ノズル)
国内外さまざまな業界への節水活動を促進し、水を大切にする社会を築く
【優秀賞】LUUP(モビリティ)
電動マイクロモビリティのシェアリング事業ですべての人の移動が自由になるスマートシティを目指す
【オーディエンス賞】空(SaaS)
駐車場業界の価格適正化とダイナミックプライシングの導入検討を実施。移動をより自由にし、スマートシティの実現を目指す
最優秀賞を受賞したのはアグリテックのinaho。これまで目視で収穫時期を判断し、手作業で収穫していた野菜の自動収穫ロボットを手掛けている。同社によれば、アスパラガス、トマト、ピーマン、ナスなどの目視で収穫時期を判断する野菜は、労働時間全体の6~7割を収穫にあてているという。また野菜の種類により、収穫時期には空白期間があるため、安定的な雇用ができないという課題も抱えていた。
同社の自動収穫ロボットはセンサーやカメラで1本1本の収穫時期を判断し、座標軸で収穫までの経路も判別。収穫時間の大幅な削減を可能にした。ロボットは使いたいときにだけ使えるため、雇用の問題も解決してくれる。さらに特徴的なのは、継続的にアップデートされる同社のRaaSモデルだ。ソフトウェア、ハードウェアを常にアップデートし、利用者は収穫量に対し15%の手数料を支払うという仕組み。初期導入費用は無料だ。
これまではロボットの不具合があった場合にすぐに駆け付けるために、支店から半径30分以内にしかサービスを提供していなかった同社だが、NTT東日本との連携で、メンテナンスや保守体制を強化し範囲を拡大していきたい考えだ。
またオーディエンス賞を受賞した空は、Price(価格)とTechnology(技術)を掛け合わせたPriceTech(プライステック)ビジネスを展開するベンチャーで、2017年にホテルや旅館業界の価格設定を効率化する「Magicprice」をリリースした。同プログラムで採択されたのはMagicpriceの仕組みを応用した駐車場価格最適化の支援SaaSで、NTTルパルクとの提携で開発されたサービス。駐車場の値付けにかかる時間の削減、売上の増加、業務の標準化に貢献するという。
【パネル】地域課題解決のために意識すべきこと
ピッチ後に行われた審査員によるパネルディスカッションでは、地域課題解決に向けて意識すべきことについて意見が交わされた。
リクルート時代に1,500件の新規事業を手掛け、現在は起業内新規事業の支援やコンサルティングを行うアルファドライブ代表麻生氏は、地域課題に踏み込む際に重要なのは「地域の住人になること」だと語る。
麻生氏:弊社も高知に子会社を作っていますので、よくわかります。大企業やベンチャーの人がこんなすごいことをしています、これを導入すれば変わりますといくらいっても、地域の人が受け入れてくれないとダメなんです。地域の住人になるというのは大事なことです。しかし、ベンチャーが地域にたくさん支店を持って広めていくというのは体力的に難しいので、すでに地域に足場を持っているNTT東日本が組むのは非常に意義深いことだと思います。
また都市圏のスタートアップや大企業が地域の課題を解決することによって、地域のお金が都市圏に流れる。搾取する構造になってしまうのは、よくないことですよね。地域の人も敏感です。中小企業など地域経済のプレイヤーの存在を忘れてはいけないと思います。
日本最大級の企業検索・マッチングプラットフォーム「eiicon」を運営する中村氏は、「日本のどこにいても課題を解決できるプラットフォームを作りたかった」と地方創生への思いを語った。
中村氏:大企業では地方支社で働く方たちが最初に感じた課題感や憤りのようなものが、大企業の中で話を進める中で、消えていってしまうということがあるんです。地方は課題先進都市で、いずれ首都圏にも同じ課題はやってくるもの。最初に感じたことを大事に向き合っていけば、必要性は認められるはずです。
内閣府の石井氏は、「ソーシャルインパクトを持つ地域のスタートアップ」について官の立場から語った。
石井氏:スタートアップ政策の観点では、新しい技術やビジネスモデルでVCから資金調達しユニコーンを作っていくという話と、もうひとつは地域でソーシャルインパクトを与えるスタートアップを作るという話があります。VCが出資するのではなく、地域にいる中堅企業があたたかいお金を出資して見守る、商流を提供するなどを地域でやらなくちゃいけない。ソーシャルルインパクトで地域を豊かにするスタートアップという切り口を、見直さなくてはならないと思っています。
3者に共通する意見として聞かれたのが、「現場を知る」ことの重要性だ。地域の課題は地域の人が一番具体的に理解している。また話を会社で通すときに、もし上司が理解を示さなかったとしたら、まずは現場に連れていき、現場の声を聞いてもらうことからはじめるのも良いという。
麻生氏:今回14社のピッチを聞いていてよかったと思うのは、全部PoCをやっていること。実際現場でやってみた結果に納得感があるんです。残念ながら、今ほとんどの大企業の新規プロジェクトはそれがない。机上の空論ではなく、まずはチャレンジしてみてほしいです。
また大企業とスタートアップが連携をしていくと、大企業の中でも「変革が起きやすい空気」が生まれると石井氏はいう。組織を超えたオープンイノベーションから、大企業が変わり、大企業が変われば社会全体が変わっていく。LIGHTnICに採択された企業、そしてNTT東日本が生み出すイノベーションに今後も注目したい。