ERPってそもそも何?導入メリットや種類をわかりやすく図解【連載】
既存システム刷新の必要性を訴える「2025年の崖」(※)が迫ってきました。加えて、新型コロナでDX(デジタルトランスフォーメーション)が喫緊の課題に。しかし、具体的に取り組めている企業は決して多くありません。
レガシーシステムを脱却し、新たな事業環境へ迅速に対応すべく、企業活動の根幹を束ねるERPの刷新や新規導入が急務となっています。ところがERP選定に失敗し、現場でミスマッチが起きているといいます。
本連載では、小規模〜中堅企業を対象に、ERPの基礎からシステム選定のポイントまで徹底解説。ERP業界に詳しい専門家を交え、自社に最適なシステム選定を支援する記事を全6回(予定)にわたり掲載します。
※経済産業省「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」(2018年9月公表)
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本記事では、「ERPとは何か」について図を交えながら解説。種類、導入メリット、最新の業界動向などを紹介します。
ERPとは?わかりやすく図解
岸本:山田さんは、公認会計士の資格を取得後、企業経営のアドバイザリーなどを経てマネーフォワード クラウド事業を統括している、いわばバックオフィスのプロです。
業務にもシステムにも詳しいということで、昨今の現場事情を踏まえたお話をがっつり聞きたいと思います。よろしくお願いします!
山田:はい、よろしくお願いします。
ERPとは?に実は正解はない
岸本:さて、新型コロナ対策をきっかけにバックオフィスのデジタル化ニーズが急激に高まっています。ERPはまさに導入検討対象だと思うのですが、そもそもERPって何なのでしょう。
山田:ERPとは「Enterprise Resource Planning(企業資源計画)」の頭文字をとったもので、経営資源を有効活用しようとする考え方です。現在では基幹業務に使うシステム群を指すことが多く、日本語では、基幹系情報システム、統合基幹業務システム、基幹システムなどとも呼ばれます。
岸本:でも、基幹業務といっても広すぎる印象です。具体的に定義を定められないのでしょうか?
山田:実は、システムとしてのERPに明確な定義はありません。業種や企業規模によって基幹となる業務や、最適なERPの構成が異るためです。
ERPには、会計、人事、生産・販売管理などさまざまな業務分野のシステムを含みます。例えば会計や人事はどの企業でも必要ですよね。加えて、製造業なら購買・在庫管理や生産管理の機能が必要です。
もちろん必要なシステムを個別に導入してもよいのですが、システム間の連携がとれないとかえって管理工数を増やしてしまいかねません。そこで、あらかじめ各システムを統合し展開されたのがERPです。
岸本:定義って難しいのですね。一口にERPと言っても人によって思い描くものが違っていそうです。
ERPを構成する業務システム
岸本:もう少しイメージを具体化するため、ERPを構成する業務システムの例を挙げてもらいました。図に示すとこのようなイメージです。
- 財務会計
- 管理会計
- 予実管理 / BI
- 販売管理
- 債権管理
- 債務管理
- 経費管理
- 購買/ 受発注管理
- 在庫管理 / 倉庫管理
- 資産管理
- 生産 / 開発管理
- CRM / SFA
- 採用管理
- 人事管理
- 労務管理
山田:これらを統合型ERPの形で一括導入してもよいし、いくつかの機能・システムを組み合わせてもよい。中核のシステム群から拡大していく方法もあります。ERP選定時には、初めから一括導入にとらわれず、必要な機能を吟味して検討するとよいと思います。
ERPの種類とメリット・デメリット
岸本:続いてはERPの種類と、それぞれのメリット・デメリットについて教えてください。
ERPには「クラウド」「オンプレミス」「パッケージ」「SaaS」などさまざまな提供形態がありますよね。それぞれどういった特徴があるのでしょうか。
山田:まず「クラウド」と「オンプレミス」は、サーバー構築に大きな違いがあります。さらにクラウドの中にも「SaaS型」「IaaS型」があり、「パッケージ」は目的に応じた機能をまとめてインストールする製品に使われる呼び方です。
それぞれ、メリットとデメリットを交えながら話しますね。
クラウドかオンプレミスか
山田:まずは「クラウド型」か「オンプレミス型」か、です。これは、ソフトウェアをインストールするサーバー環境をどこに構築するかによってわけられます。
これまで主流だったオンプレミス型は、自社で構築したサーバー上でERPアプリケーションを稼働させるものです。ネットワーク環境やセキュリティをすべて自社の制御下におけるメリットがある一方で、導入コストや保守管理コストが比較的重いというデメリットがあります。
対するクラウド型は、外部ベンダーが用意するサーバー上にERPアプリケーションをインストールし稼働させます。そのためユーザー企業は、自社でサーバーを持つ必要がなく、保守管理工数や導入コストを抑えられるメリットがあります。
近年はクラウドが主流。コロナ禍でテレワーク制度を導入したことをきっかけに、クラウド型ERPを検討する企業も増えています。
岸本:システムを使用する従業員から見ると、どんな違いがあるでしょうか。
山田:クラウドはインターネット環境があればどこからでも接続できるサービスが増えています。所定のパッケージソフトをインストールしなくても、Internet ExplorerやGoogle Chromeといったブラウザ上で操作できるものも多く、その場合OSや端末の制限を受けません。WindowsでもMacでも使えるのは大きなメリットです。
ただし専用アプリが必要な製品(クライアントインストール型などと呼ばれる)もあるので、動作環境は必ず確認しましょう。
クラウドに対し、オンプレミスは基本的に社内ネットワークからでないと接続できないので、例えば規定のオフィス以外の場所、家や外部の事務所から接続するにはVPNが必要といった制限が生じます。
そこで、クラウド事業者のサーバー上にERPアプリケーションを構築する「IaaS(イアース/アイアース)型」の利用も拡大しています。カスタマイズ性をある程度確保しつつ、インフラ保守コストを削減できるメリットがあります。
関連記事)SaaSとは?PaaS・IaaSとの違い
パッケージかフルスクラッチか
岸本:続いては「パッケージ型」についてです。対比するなら「フルスクラッチ型」でしょうか。カスタマイズ性に関する項目ですね。
山田:パッケージ型は、一般的によく使われる機能をあらかじめまとめて提供するもので、マルチテナント方式のように完全ノンカスタマイズで行うSaaS型での提供や、IaaS型にして一部カスタマイズを加える形式が多く見られます。
カスタマイズ性は低いものの、導入にかかる期間が短く初期費用も抑えられるので、特に中小企業ではSaaS型が、中堅・大企業でもSaaS型とIaaS型を使い分ける形で導入が進んでいます。
対するフルスクラッチ型は、いわば完全オリジナルのシステム。大企業がオンプレミス環境下で取り入れてきたもので、クラウド利用が広がるなか、近年は減少しつつあります。
岸本:パッケージだと対応しづらい、カスタマイズが求められる業務には何があるでしょうか?
山田:個社のビジネスロジックに依存する割合が高い業務ほどカスタマイズ要望が出ます。例えば、購買管理や生産管理。企業ごとに管理方法やオペレーションが異なり、またサプライチェーン全体での調整が必要となるため、基本機能だけだとカバーできないことがあります。
岸本:だから自社に合わせたカスタマイズや、いっそゼロから自社専用システムを構築したい、という要望が出てくるのですね。
山田:そうです。ただし、保守運用コストの増大やIT人材難といった問題が山積するなか、カスタマイズだらけにするのは得策ではありません。そこで、中核部分は自社仕様にしつつSaaSを組み合わせる「ポストモダンERP」のような考え方が出てきたのです。
岸本:まさに経産省が「2025年の崖」で指摘しているポイントですね。ポストモダンERPについては、連載第3回の記事(2月公開予定)で詳しくお聞きします。
ERP導入5つのメリット
岸本:ではERP導入で得られるメリットを教えてください。これからの時代を見据えて、クラウド中心でお聞きしたいです。
山田:はい、クラウド型ERPの導入メリットを5つの観点から解説します。
1.統合データベースによる一元管理
山田:まずメリット1つ目は統合データベースによる一元管理。デジタル化では必須の項目です。特に人事、経理では、正確な管理のために欠かせません。
ERPでは、経理や財務会計、人事労務など、個別のシステムで管理していた情報を一つのシステムに集約できます。
一元管理による利点には2つあると考えています。一つは、自動でデータの整合性がとれること。もう一つは、データ入力や転記にかかる手間を軽減できることです。
経営層のみなさんにとっては、見るシステムが一つで済むので便利ですし、内部統制にも効果があります。
2.業務効率アップ
岸本:メリット2つ目は「業務効率アップ」。一元管理にも通じる項目ですね。
山田:例えば従業員の氏名や住所といった情報も、一度入力したデータを共有することにより転記もれやミスが減り、正確性が向上します。手作業が大幅に削減できるので業務効率も向上します。統合データベースを持てれば、業務の無駄を削減できるのです。
業務処理を一元管理できるフローも提供しているため、部門を横断してデータが更新され、部門間の連携が取りやすくなります。
3.リアルタイム経営でスピード強化
岸本:ERP導入のメリット3つ目は「リアルタイム経営」実現によるスピード強化。急速に変化する社会で欠かせない観点です。
山田:ERPにはダッシュボードが備わっていることが多く、あらゆる経営情報が集約されます。売上データ、在庫データ、営業実績など、経営管理に必要な情報を一元管理することで、より迅速かつ正確な意思決定を行うことが可能に。「今」の情報を適切に把握し意思決定を行うのが、リアルタイム経営です。
統合された情報を分析する経営分析機能が搭載されているため、経営資源の活用状況が可視化され、経営状態をタイムリーに把握できます。
クラウドなら、入力データがスピーディーに反映されるので、より迅速な現状把握につながります。
4.ベストプラクティスの実践
岸本:ベストプラクティスとは「もっとも効率の良い方法・プロセス」ですよね。ERP導入がこれにつながるのでしょうか。
山田:ERPに関わらずクラウドツールを導入すると、業務フローそのものが変わります。初期のフロー構築や従業員への説明にコストはかかりますが、導入後に実現できる業務効率化の分量は計り知れません。
特にERPは、ベストプラクティスを横展開するためのシステム群です。中小企業でも導入しやすいSaaS型が普及しており、恩恵を受けやすくなっています。先進企業の成功事例にあわせて業務フローを改善できるため、いっそうの業務効率化が期待できます。
5.セキュリティ・内部統制の強化
岸本:5つ目のメリットは、セキュリティおよび内部統制の強化です。「クラウドだとセキュリティが不安」という声も聞きますが、実際のところどうでしょうか。
山田:セキュリティ懸念からクラウドに難色を示される企業は、自社の管轄外に置くものが増えることが不安なのだと思います。ただ、クラウドサービスのセキュリティ環境は年々向上しており、実際、大手企業のクラウド移行も増えています。
クラウドサービスの信頼性を示す指標の一つに「SOCレポート(SOC報告書)」があります。米国公認会計士協会(AICPA)が定めた基準などに基づき、外部委託先の内部統制状況を確認するために使用されます。
最近のクラウドサービスベンダーはSOCレポートの発行が当たり前になってきています。財務報告目的の場合はSOC1レポート、財務報告とは直結しないより広範なセキュリティ要件などが求められる業務領域ならSOC2、SOC3レポートを確認されることが多く、一つの指標になります。
SOCレポートを発行するシステムの利用は、内部統制強化にもつながります。
岸本:ERPは個人情報や売上など外部漏えいが許されない情報を扱うので、基準があると安心できます。
山田:実は情報漏えいで心配なのは人為的ミスです。総務省が取り上げている事故事例を見ても、PCやメモリの置き忘れ、端末の盗難など、データを持ち出したことに起因する事故が報告されています。
SaaSやIaaSはクラウドサーバー上のデータを触るので、従業員の端末にデータを残しません。ネットワークセキュリティやデバイス管理、従業員への教育を組み合わせた運用の検討が望まれます。
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岸本:クラウドは何かと利便性が注目されがちですが、セキュリティや内部統制にもメリットがあるのですね。勉強になりました。
ERPは基幹系システムを統合したものを指し、会計、人事、購買、営業など、多くの情報を一元管理するシステム群です。
昨今はクラウド型が主流となり、とりわけ、導入コストを抑えてスピーディーに使い始められるSaaSの人気が高まっているとのこと。統合データベースによる一元管理、業務効率アップ、リアルタイム経営、ベストプラクティスの実践、そしてセキュリティ・内部統制の強化にもメリットがあることがわかりました。
連載第2回の記事では、少し視点を変えて、ERPの歴史から最新業界動向を探ります。SAP ERPの保守切れ問題、クラウド化の流れを深堀り、クラウドへ向かうトレンドを解説しています。
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