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ERPはクラウドが定番に - シェア・メリットは?2025年へ向けて刷新進む

最終更新日:(記事の情報は現在から1136日前のものです)
ERP(基幹系情報システム)のクラウド化が進んでいます。クラウドのメリット、支持される理由を、市場動向やERPの歴史を踏まえて解説するとともに、差し迫る「2025年の崖」「SAP 2025/2027年問題」についてもまとめます。ERP導入を支援する連載企画2記事目。【監修:マネーフォワード執行役員 山田一也】

話し手:マネーフォワード執行役員 山田一也2006年公認会計士試験に合格し監査法人トーマツに入所。その後、株式会社パンカクにて執行役員CFO、株式会社Bridgeにて執行役員ベンチャーサポート事業担当を経て、2014年に株式会社マネーフォワードに入社。社長室長、『マネーフォワード クラウド』開発本部長を経て、現在はビジネスカンパニーCSOとして戦略全体を統括。
聞き手:BOXILマガジン編集部 岸本美里編集/ライター。ニュース速報から取材までSaaS情報を発信する記事を執筆しつつ、ガイドブックのディレクションも担当。「SaaS業界レポート2020」「BOXILマンスリーレポート」など執筆。

日本国内ERP市場 - SaaSシェア拡大

岸本:まずはERP市場の最新動向を見てみます。

調査会社ITRのレポート(※1)によれば、日本国内のERP市場は堅調に拡大。なかでもSaaS市場が急拡大し、2022年度にはSaaSがパッケージ市場を上回る見込みとしています。

さらに「SaaS」と「パッケージ(IaaS)」をあわせたクラウド型のシェアも拡大の一途をたどっており、2021年度には、クラウド型ERPが約7割を占めることになります。

山田:既存ERPの保守切れをきっかけにオンプレミスからクラウドへ移行する企業や、SaaS型ERPを新規導入する中堅企業、大企業が増えていることが要因だと考えられます。

クラウド型ERPのメリット

岸本:入れ替えにしろ新規導入にしろ、クラウド型ERPが選ばれている背景には何があるでしょうか。まずはクラウド型ERPのメリットを教えてください。

山田:オンプレミス型ERPと比較すると、クラウドには次のようなメリットがあります。

  • 低コストかつ短期間で導入可能
  • スケールアップ/ダウンに柔軟な対応が可能
  • トータルでのコスト削減
  • 追加コストなく常に最新バージョンを使用できる
  • 時間と場所を問わないアクセス
  • 海外含む複数拠点との共有が容易
  • 災害時のリスク回避

山田:テレワーク制度導入や副業人材の活用、BCP対策も兼ねた拠点分散などが進むと、多拠点からアクセスできるクラウド製品の活用が前提となります。

実際に、コロナ禍における緊急対策でクラウドを導入したところ使い勝手がよく、ERP全体をクラウドへ移行したいと検討している企業もあります。

ERP導入自体で得られるメリットとして、「統合データベースによる一元管理」「セキュリティレベル・内部統制の強化」なども挙げられます。ここにクラウドのメリットが加わることで、より利便性が向上しているのです。

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「2025年問題」でERP刷新進む

岸本:そもそもERPへの投資が旺盛な理由の一つに、2つの「2025年問題」があると捉えています。一つは、経済産業省のレポートから話題となった「2025年の崖」。もう一つは「SAP 2025年問題」です。

2025年の崖

岸本:まずは「2025年の崖」について教えてください。

山田:経済産業省が2018年に公表した通称「DXレポート」(※2)では、DX対応が企業の明暗を分ける境界を「2025年の崖」と表現したわけですが、2020年12月に公表した続編(※3)では「コロナでDXの緊急性が高まった」とより強い危機感を示しています。

2018年のDXレポートでは、既存システムの課題を解消できずデータ活用が進まない場合、「2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性」があると指摘しています。

また「SAP ERPのサポート終了」ほか、老朽化した基幹系システムを使い続けることによる技術的負債にも言及しており、ERP刷新が明確な課題として提示されたのです。

岸本:このレポートでにわかにERP刷新が盛り上がった記憶があります。

山田:先送りにしていた課題に「2025年」という明確な期限を突きつけられた、と言えるでしょうか。

一概にオンプレミス型ERPが悪いわけではありませんが、時代に合わなくなってきたことは否めません。維持管理・保守コストの増大、IT人材不足、リアルタイム性の欠如といった課題は、後々の経営に響いてきますから。

岸本:2025年まであと6年、5年、4年と、ついカウントダウンしてしまいます。私は導入推進者ではありませんが、焦っている担当者いらっしゃるかもしれません。

SAP 2025年問題(2027年問題)

岸本:もう一つは、SAP ERPの保守サポート終了に起因する「SAP 2025年問題」です。2020年2月、SAP Business Suite7については2年のサポート延長が発表(※4)され「SAP 2027年問題」となったものの、いずれ対応しなければならない状況に変わりはありません。

山田:保守切れとなるのは、SAP ERPや前身のSAP R/3、SAP ERPを含むSAP Business SuiteなどのERPパッケージです。いずれも1990〜2000年代にリリースされたオンプレミス基盤のERPで、日本でも多くの企業が利用しています。

山田:SAPは移行先として、2015年リリースの「SAP S/4 HANA」を推奨しています。クラウドで稼働するほか、データ処理が非常に速かったり、AIを搭載していて分析に長けていたりと、とても高機能な製品です。

岸本:「今っぽい」ですね!

山田:そうかもしれません(笑)。いずれにせよ、リアルタイム経営を見据えると旧来型のオンプレミス型ERPに限界が来ているという話なので、クラウドへの移行は欠かせません。

SAP S/4 HANAはすでに1万5,000社以上に導入されています(※5)。2016年には月額制のSaaS版「SAP S/4HANA Cloud」を公開。大手企業の導入が相次いでおり、同社サイトでは事例も多く公開されています。

ただ、SAP S/4 HANAはそれまでのSAP ERPとは別システムと言ってよいくらい仕組みが異なるため、移行プロセスが複雑です。

そこで基幹系業務全体の見直しを兼ねてほかのERPへ乗り換えたり、SaaSを組み合わせてポストモダンERP化したり、といった対応もとられています。

中小企業もERPで経営改善

岸本:そうはいってもSAP製品は大企業向けというイメージがあります。中小・中堅企業でもERP導入が進んでいる背景には、何があるのでしょうか。

山田:一つはSaaS型ERPの普及。もう一つは、企業の競争力強化にデジタル化が欠かせなくなったこと、でしょうか。

SaaS型ERP増加でスモールスタート可能に

岸本:SaaS型のERPと言えばOracle NetSuiteを思い浮かべます。SAPも、SAP Business ByDesignなどの中堅企業向けERPパッケージをSaaSで展開しています。

山田:NetSuiteを提供するNetLedger社(のちのNetSuite社、2016年Oracle社が買収)は、1998年に設立されました。当時ERPパッケージは非常に高価で中小企業は手を出しづらく、SaaS型のNetSuiteは一躍脚光を浴びます。そして2000年代半ば、クラウドが盛り上がるとともに中小企業でもERP導入が加速します。

岸本:先日「ERP ポジショニングマップ」制作にあたり調査したところ、ほとんどのベンダーがSaaS版を出していて驚きました。

山田:ここ数年で、パッケージしか販売していなかったベンダーもSaaS型を用意するようになりました。また、パッケージでも稼働環境にクラウドを選び「IaaS型」で導入するのも人気が高く、冒頭で紹介したようなクラウド型のシェア増加につながっています。

岸本:最近はSaaSのみのERPも多く見かけます。

山田:初めからSaaS型で提供する日本向けのERPが出てきたのは、2000年代後半です。例えば、オロが「ZAC Enterprise」をリリースしたのは2006年。freeeやマネーフォワードの設立は2012年です。

初めから日本の商習慣にあわせて構成されているため、従来のERPパッケージには手が出ず導入をためらっていた小規模企業やスタートアップでも、「共通データベースの活用」というERPの恩恵を受けられるようになりました。

また、SaaS型ならではの特徴として「常に最新バージョンを使用できる」点も挙げられます。テクノロジーの進歩を常に取り入れられ、オンプレミス型と異なり、利用サービスが陳腐化するという心配がないのもメリットです。

岸本:法改正にも自動で対応してくれますものね。法律が変わる度にソフトウェアを買いなおしたり、大がかりなバージョンアップを行ったりしなくてよいのは便利です。

競争力強化にデジタル化が不可欠

岸本:デジタル社会を生き抜くためには、データ活用が欠かせません。特にコロナ禍でオンラインツールを利用せざるを得なくなり、デジタル化を強く意識した企業も多かったと思います。

山田:DXレポート2とも重なるテーマです。経産省は同レポートの中で、コロナ禍で「DXの本質が明らかになった」としていて(※3)、下記のように指摘しています。

DXの本質とは、単にレガシーなシステムを刷新する、高度化するといったことにとどまるのではなく、事業環境の変化へ迅速に適応する能力を身につけると同時に、その中で企業文化(固定観念)を変革(レガシー企業文化からの脱却)することであると言える。

岸本:システム刷新だけではダメ、ということですね。とはいえシステムやデータを活用しないことには、変革に近づけません。

山田:だからこそデータベースを一元化し、リアルタイム経営を取り入れられるERP導入は重要な観点です。

そうした理由から、ERPの新規導入意欲も旺盛です。エクセルや個別ソフトウェアで管理していた会計情報、物流情報、顧客情報、人事情報、これらを一元管理できるだけでも、十分メリットが得られるのではないでしょうか。

岸本:現場としては、転記作業や再入力作業が減るだけでもありがたいです。

山田:それも共通データベースを持つメリットですね。ERP導入で業務フロー見直しも必要となるので、現場の意見も生かしながらすすめることを推奨します。


経済産業省が指摘した「2025年の崖」、そしてSAP ERPの保守切れに起因する「SAP 2025年問題(2027年問題)」を目前に控え、ERPのクラウド化が進んでいます。SaaS型、IaaS型ともにシェアを拡大しており、オンプレミス型からの移行も旺盛。

2000年代後半以降は日本のベンダーが提供するSaaS型ERPが増え、小規模企業やスタートアップでもERPを導入しやすくなり、データを活用したリアルタイム経営を支援しています。

次回第3回の記事(3月公開予定)では、アラカルトのように必要な機能/サービスを組み合わせ、自社に最適なERPを構成する「ポストモダンERP」について解説する予定です。お楽しみに!

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※1 ITR「ITRが国内ERP市場の提供形態と運用形態別の市場規模推移および予測を発表」(2020年4月23日公開)
※2 経済産業省「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」(2018年9月8日公開)
※3 経済産業省「DXレポート2(中間取りまとめ)」(2020年12月28日公開)
※4 SAPジャパン「Maintenance 2040」(2021年3月18日閲覧)
※5 SAPジャパン「SAP 2020年第3四半期決算発表 1株あたり利益とキャッシュフローが2桁の好調な増加 SAPがクラウドへの移行を加速し、2025年までにクラウド売上220億ユーロ超えを目指す」(2020年10月27日発表)

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