後払い決済「BNPL」急成長見通し、国内認知度は57% 企業間取引にも
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キャッシュレスなど決済手段は多様化
店頭で商品購入やサービス利用した際、現金で支払わない場合はクレジットカードで決済することが一般的でした。それが今は、電子マネーやQRコードによるキャッシュレス決済が当たり前です。給与デジタル払いが始まったり、「デジタル円」のような中央銀行デジタル通貨が実現したりしたら、キャッシュレス化が進み、決済手段がますます多様化するでしょう。
電子マネーやQRコードなどを通じた決済は実店舗が主でしたが、オンライン店舗でも対応するところが増えています。そして、ネット通販サイトでは、少し前から「BNPL」という決済方法に対応するところが出てきました。
BNPLとは、「Buy Now, Pay Later(今買って、後で払う)」の略です。つまり、後払い決済なのですが、クレジットカードと違って与信審査が厳しくなく、手軽に利用できることから利用者が増えています。手数料無しで分割払いにできる点なども、好まれているようです。
BNPLの利用状況
BNPLの利用は広まっているのでしょうか。調査結果で確認してみます。
クレジットカードからBNPLへシフト
J.D.パワーが米国でクレジットカード利用者を対象に調査(※1)したところ、メインで使用するクレジットカードの利用シェアが小さくなっていました。月間支出に対してメインのクレジットカードが占めた割合は、2019年の50%から下がり、2020年および2021年が47%、2022年が42%にまで低下したのです。
高額の買い物をする際には、クレジットカード利用者の44%がBNPLや分割払いローン、個人ローンといったクレジットカード以外の手段を検討しました。なかでもBNPLの人気は高く、28%が高額の買い物をする際に検討していたそうです。
BNPLが検討対象になる理由として、J.D.パワーは「リーズナブルな手数料と競争力のある金利」を挙げています。
※1 J.D.パワー『J.D. パワー 2022年米国クレジットカード顧客満足度調査』, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000178.000042677.html
2026年の世界BNPL市場は87兆円規模
フロスト&サリバンは、世界BNPL市場に関する調査レポート(※2)を公表しました。2021年に1,365.5億ドル(約17兆9,973億円)の市場規模が、2026年には約5倍の6,563.4億ドル(約86兆5056億円)へと拡大するとの予測で、その間の年平均成長率(CAGR)は36.9%にもなります。
金利がかからず、返済計画も柔軟に選べることが、世界中でBNPL市場が成長する大きな要因だといいます。さらに、クレジットカードの取得ができなかったり難しかったりする若い消費者でも、BNPLは比較的利用しやすく、これも利用拡大を後押ししているのでしょう。
※2 フロスト&サリバン『Buy Now, Pay Later Solutions to Unlock Growth Potential for B2B Companies』, https://www.frost.com/news/press-releases/buy-now-pay-later-solutions-to-unlock-growth-potential-for-b2b-companies/
日本のBNPL市場は
日本でのBNPL利用状況や、日本の消費者のBNPLに対する意識については、別の調査レポートがあります。
オンライン通販の5%がBNPL決済
グローバルデータの調査(※3)によると、アジア太平洋地域(APAC)の各国ではオンライン通販での決済手段としてBNPLの利用率が高くなっています。決済額全体に対するBNPLの割合は、2022年に1.6%で、2026年には4.1%へ高まる見通しです。
2022年時点のBNPL決済率を国別でみると、オーストラリアが20%と際立って高く、これにニュージーランドの12.5%が続きます。日本は5%強あり、シンガポールやインド、マレーシア、インドネシアと同程度でした。
BNPLの利用を増やす要素は、COVID-19パンデミックでオフラインからオンラインへ移行した消費行動、急速なインフレによる可処分所得の減少などが考えられます。こうした背景があり、特にクレジットカードのような従来型の後払い決済を利用できない層にとって、分割払いで支払いを先送りできる手段としてBNPLの注目度が高まっているのでしょう。
※3 グローバルデータ『BNPL to account for 4.1% of Asia-Pacific e-commerce payments』, https://www.globaldata.com/media/banking/bnpl-to-account-for-4-1-of-asia-pacific-e-commerce-payments/
認知度は高いが、信頼感はまだまだ
Mastercardが行った別の調査(※4)もみてみましょう。
日本では、過去1年間に「新興デジタル決済手段」(BNPL、QRコード、暗号資産、デジタルウォレット、生体認証など)のいずれかを利用した人の割合は70%で、調査対象となったAPAC(日本、オーストラリア、中国、インド、ニュージーランド、タイ、ベトナム)のなかでもっとも低かったそうです。ちなみに、APAC全体では88%が新興デジタル決済を利用していました。
BNPLの認知度は日本でも57%あり、知っている人は少なくありません。ところが、「安心して使用できる」と回答した人は19%にとどまりました。これに対し、APACでは50%が安心してBNPLを利用しています。
BNPLに対する日本の状況は、認知度は十分高く、利用者も増えつつあるものの、信頼し切れていない、といったところでしょうか。つまり、日本でBNPLを普及させるには、セキュリティについて理解してもらい、丁寧なサポート体制を整備することが鍵になりそうです。
※4 Mastercard『Mastercard、決済手段に関する調査結果を発表』, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000071.000037691.html
BtoB分野でもBNPLを活用できる可能性
キャッシュレス決済の利用は、間違いなく増えていくでしょう。この流れは、消費者向けの事業だけでなく、企業間の取引でも同様です。
フロスト&サリバンの調査レポートでは、BtoB分野におけるBNPL決済が成長すると指摘しています。日本でも、バンカブル(※5)が企業向けサービスを開始するなど、BNPL活用の兆しが見えます。
※5 デジタルホールディングス『バンカブル、EC事業者向け広告費分割・後払い(BNPL)サービス「AD YELL」の提供を開始』, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000866.000014848.html