インサイドセールスを実践する2社から学ぶ「ハイブリッドモデル」の成功事例【セールスフォース/マネーフォワード登壇】 #ISCon2019W
2019年12月5日、Inside Sales Conference 2019 Winter が虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された。6月に続く今年2度目の開催ながら、ほとんどのセッションは事前予約で満席。商談ブースも賑わい、インサイドセールスへの関心の高まりが伺えた。
本記事では、「内製型のインサイドセールスの限界について徹底議論!各社が実践するハイブリッド型インサイドセールスとは」と題したセッションから、セールスフォース・ドットコム、マネーフォワードの2社が実践するインサイドセールスの体制づくり、外注化のポイントなど、具体的な事例を紹介する。
【登壇者】
●カルデラ 久美子 氏
セールスフォース・ドットコム マーケティング本部 デマンドジェネレーショングループ キャンペーン統括ディレクター●福原 岳史 氏
マネーフォワード Money Forward Business Company Mid-Market本部 本部長【モデレーター】
●阿部 慎平
スマートキャンプ 取締役COO
インサイドセールスの初期設計を知りたい方は6月のカンファレスセッションレポートをご参照ください。
また、インサイドセールスの導入基準や運用方針を知りたい方は、こちらの導入ガイドをご参照ください。
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ハイブリッド型モデルのメリットは?
冒頭、モデレーターを務めるスマートキャンプ阿部は、ハイブリッド型のインサイドセールスとは、内製化を基本としつつ、一部業務をアウトソースすることと定義した。
インサイドセールス業界レポート2019によれば、インサイドセールスを取り入れている企業の29%がすでに外注を利用し、ハイブリッド型モデルを推進している。このモデルのメリットは、外注を組み合わせることで、社内のリソース不足を解消できる、コールドリードへの単純なアプローチを切り離せる、プロのノウハウを入れてスピードアップできることが大きい。
そこで、まずは自社に足りない部分を適切に見極め、どこをアウトソースすべきなのかを判断しなくてはならない。アウトソースの例として阿部があげたパターンは3つ。
1.商談獲得をアウトソース
2.リードスコアリングのアウトソース
3.BDRのアウトソース
阿部「1つ目は商談獲得です。展示会に出展した後や、広告をまわした後はリードが集中しますよね。でも社内のリソース不足でさばききれない場合に、外注するというケースです。
2つ目は、リードに対して架電やヒアリングをして商談化しそうな可能性をジャッジする部分だけを外注するもの。商談をつくるためにはある程度の商材知識やクロージングスキルが必要になってくるので、商談化させるところは内製でやるというパターンです。
そして3つ目はBDRの外注です。リストの作成やコールなどを外注するものですが、最近はリスト創出サービスが充実しているので、それらを活用しながら外注していくというやり方です。」
ハイブリッド型は、多くの企業が抱えるインサイドセールス導入の課題をクリアするために有効なモデルだといえる。
ハイブリッド型成功のポイントは3つ
スマートキャンプでは、「BALES(ベイルズ)」というインサイドセールス支援・コンサルティングサービスを提供しており、セールスフォース・ドットコム、マネーフォワードへの支援も行っている。これまでの経験から、阿部はハイブリッド型を成功させるためのポイントとして、次の3つをあげた。
阿部「ハイブリッド型をうまくまわすためには、商談化に必要な情報やランク付けなど、リードを管理するためのルールをすり合わせて運用するのが重要です。また、関連メンバーでコミュニケーションをとってPDCAを回していくために、定例MTGは欠かせません。
そして、管理するデータベースを統一することも重要です。これは既存CRMじゃなくてもいいです。同じツールの中でデータを管理すれば、フィールドセールスとリアルタイムでの情報共有が可能になり、NG企業対応などもスムーズに行えます。」
THE MODELやインサイドセールスの導入を成功させるためには、属人的な判断に頼らない運用が必要となる。さらにハイブリッド型の場合は、内製型以上にルール設定やコミュニケーションに気を配る必要があるだろう。
【セールスフォース・ドットコムの事例】BDRを外注化
セールスフォース・ドットコムでは、200名以下の企業を対象としたBDRをスマートキャンプの「BALES(ベイルズ)」にアウトソースしている。セールスフォース・ドットコム マーケティング本部 デマンドジェネレーショングループ キャンペーン統括ディレクターのカルデラ久美子氏が、インサイドセールスの体制や外注の理由について語った。
1.インサイドセールスの体制
カルデラ: 現在セールスフォース・ドットコムでは、従業員数200名を境界にして、インサイドセールス部隊を2つに分けています。
まず200名以下の企業に対しては、マーケティングが獲得したリード(見込み顧客)に対して反響型のSDRチームがリード精査から商談化を狙います。200名以上の中堅からエンタープライズ企業に対しては新規開拓型のBDRで対応しています。
BDRの場合、業種やセグメント別の営業部門に連携しており、製造業や、リテール業支援などインサイドセールスも細分化しています。さらに、新規リードをトスアップするだけでなく、営業がクロスセルやアップセルを狙いたい取引先企業、または新規で狙いたい企業をターゲティングして、アウトバウンド活動を行います。
阿部:既存企業に対してのクロスセル・アップセルアプローチということは、ある意味カスタマーサクセス用のインサイドセールスということでしょうか。
カルデラ:もちろんカスタマーサクセス(お客様の成功)が私たち社員全員の最終ゴールです。実際には、たとえばSFA(営業支援ツール)を使用している企業に対して、SFA以外の商材を検討していただける多部署にアプローチしたいが、コンタクト先がないという場合にアウトバンドを仕掛け、アポを獲得し、商談化につなげていくという感じです。
弊社のデータベースをたどって再度アタックすることもありますし、マーケティングと連携してターゲット向けに様々な仕掛けを検討し、アプローチしていきます。
2.外注を検討した理由とは
カルデラ: いくつか理由はありますが、まずは展示会リードの対応です。複数の展示会に連続して出展する場合、インサイドセールスはプライオリティに応じて確度の高い企業からアプローチしていきますが、展示会の数が増えるとリードをさばききれません。
また、国内約440万企業の中で中小企業は99%と言われており、まだまだアプローチできていない企業がたくさんあります。特に地方は、オンライン施策や展示会で獲得できない潜在顧客が多くいるので、そこをリスト化して、攻めたいという狙いもありました。
阿部:ちなみに展示会に連続で3回出た場合に、獲得するリード数はどのくらいでしょうか。
カルデラ:約9,000件です。その中でインサイドセールスが優先的にアプローチすべきリードは6-7%になり、それ以外は中小企業では決裁権を持つ経営者や高役職の方を順番にアプローチしていきます。一般社員の方については、高役職者やシステム担当者につないでいただくキーマンリサーチをかねてコールしています。
3.内製と外注の判断ラインはどこか
カルデラ:弊社は多岐にわたる商材を扱っており、潜在顧客がお持ちのビジョンや課題もそれぞれ異なるため、そういった情報を収集した上で、お客様に共感いただき再度弊社からのアプローチを可能にする。すなわちOpt-Inを獲得することが重要です。
セールスフォース・ドットコムのマーケティングのミッションは、見込み客を見つけて育てることなので、内製でも外注でも上述した内容を実現することが好ましいと考えます。
4.インサイドセールスのスキルとキャリア
カルデラ:セールスフォース・ドットコムの場合はインサイドセールスからキャリアをはじめる方が大変多いです。主にIT業界を経験していない方も積極的に採用しています。
阿部:セールスフォース・ドットコムさんでは、インサイドセールスの中に、大学の「単位」のように習得すべきスキルを整理し、社員レベルの底上げを図る「インサイドセールスユニバーシティ」というプログラムがありますね。
カルデラ:そうですね。入社後は多岐にわたる知識やスキルをインプットしなければなりません。特に商材と会社のカルチャーを知ることはすごく重要です。インサイドセールスの電話のかけ方、トークなどの基本を勉強しながら、リードがインサイドセールスに流れた後の基本的なオペレーションも理解が必要です。
またリードを商談化するためのコミュニケーションスキルやプレゼンテーションスキルを身につけなくてはなりません。スキル習得の場として、展示会でのデモ支援やミニシアターでのプレゼンも行っています。
展示会でデモの説明をする場合、顧客の課題や興味によって見せる画面が違い、推奨する商材も変わります。ブースに足をとめてもらうためにも、丁寧なコミュニケーションが必要となります。セールスフォース・ドットコムの展示会ブースに立っているのは、基本的にすべて社員です。インサイドセールスのメンバーは、マーケティング部門と一緒に実際にリードを獲得し、1件のリードの重みも感じながら、またお客様の生の声を聞きながら、自分たちでフォローしていくという体制をとっています。
私たちのモデルは、反響型から新規開拓型、そして外勤営業というキャリアパスが基本とされているので、インサイドセールスで知識やスキルをインプット、アウトプットできるように設計されています。
5.インサイドセールスのモチベーション
カルデラ:インサイドセールスがモチベーションを維持するのは大変だと私も思います。ただモチベーションは人によって違うので、マネージャーが個々の特徴を理解し、個々にあわせた教育を実施していると思います。
ほかにも、アウトプットを出し続けるためにインプットの時間を設ける、企業文化として社会貢献やボランティアに使う時間を設けるなど、様々な取り組みによって、モチベーション維持に努めています。
阿部:たしかに、目の前の仕事への意義だけではなく、働く環境は大きいですね。外注のオペレーターさんがメンバーに入ったことで、よい刺激を受けたという事例も聞きます。
カルデラ:本日もインサイドセールスのマネージャーと打ち合わせをしたのですが、小さな成果をみんなで祝うとか、「ありがとう」という言葉を投げかけていこうとか、そういう基本的なところをやっていこうと話をしています。
外注さんでも、「あなたたちのおかげでこれだけ商談ができています」ということをフィードバックしてあげると、自分たちの仕事が役に立っているんだなと思って、さらに頑張っていただけると思います。
6.外注先を選ぶポイント
カルデラ:私たちの商材は非常に多岐にわたります。ですから、商材やテクノロジー理解という点を重視しています。スマートキャンプさんはボクシルでお世話になっていたこともあり、弊社の製品ナレッジをすでにお持ちでした。外注先を選ぶファーストステップとしては、重要だったと思います。
運用は、きちんとレポート業務をしていただけるか、ウィークリーで定例をしてトークスクリプトをアジャストしてもらえるか、課題や問題があったらすぐに報告していただけるかというところが大きいです。弊社の名前でコールをかけていただくので、何かあると顧客からの信頼を損ないかねない。誠実に対応いただけるベンダーさんを選ぶべきですね。
【マネーフォワードの事例】SDRを外注化
マネーフォワードでは、内製のインサイドセールスチームを東京と北海道に構えており、スマートキャンプのインサイドセールス支援サービス「BALES(ベイルズ)」に対しては展示会のリスト対応を発注している。従業員数50~2000名の企業を対象としたミッドマーケット本部で「マネーフォワードクラウド」を提供する福原 岳史氏が、インサイドセールスの体制や外注の理由などについて語った。
1.インサイドセールスの体制
福原:現在、北海道と東京をあわせて約25名のインサイドセールスメンバーが所属しております。アポを獲得するメンバーは5名で、残りのメンバーはマネーフォワードのWebページから問い合わせをした方に向けて、カスタマーサクセスに近い支援を行うことで登録を促しています。
2.外注を検討した理由とは
福原:当初はインサイドセールスのなかでも、アウトバウンドを中心に大手企業の新規開拓を担うBDRをうまく機能させたいと思って外注を検討しました。狙った業種をリスト化してアタックしていきますが、どうしても社内リソースでは足りません。
そこから、想像していたより展示会のリード数が膨らんできたので、現在はSDRを中心に外注しています。
3.内製と外注の判断ラインはどこか
福原:BDRに比重を置きたいと思っていましたが、月々の目標などを考えた場合、SDRにリソースを割くほうが効率がよいと思い、今はSDRを外注しています。リードのリサイクルについては、一部社内でも回し、展示会などが重なったときには外注にもお願いしています。
阿部:リサイクルリードには、どういうルールでアプローチしているんですか。
福原:何か月後に検討しますと言われたリストのほか、ナーチャリングのメールを送ったときの開封履歴や、リードが一定のスコアリング以上になったものを対象にしています。
コンテンツとしては、バックオフィス系の商材のため、法律の変更などトレンドの情報を用意しています。あとは事例です。
阿部:オンラインセールスはされていますか?
福原:インサイドセールスではなく、フィールドセールスのメンバーがやっています。北海道の拠点では、コールセンターのキャリアを持つ人を採用したので、コールセンタースキルと営業クロージングのスキルは違うと感じているためです。
4.インサイドセールスのスキルとキャリア
阿部:インサイドセールスのメンバーのスキルを高めるためにどんなことをされていますか。
福原:育成については、カスタマーサポートの部門が率先して対応してくれています。期間としては入社時と数か月後、内容としては製品単位の研修などをやっています。
キャリアパスとしても、カスタマーサポートで正しい製品知識を得てもらい、そこからインサイドセールス、次はフィールドセールスという方が多いです。新卒入社のメンバーも半分くらいはカスタマーサポートから入ります。
5.インサイドセールスのモチベーション
福原:インサイドセールスはずっと荷電していることもあり、変化がない分モチベーションの維持が難しいと言われます。何人かで同じ悩みを共有することが大事だと思い、北海道は複数人のメンバーで立ち上げました。みんな同じ作業をしていて、それが当たり前という環境を作っています。
北海道の後に東京もインサイドセールスチームを作りましたが、北海道に研修に行き、当たり前に業務に取り組んでいる姿勢を見て意識が変わってきたと思います。
受注報告はSlackに共有されますが、誰がいくら受注しただけではなく、誰がアポをとったというのも一緒に共有するようにしています。
6.外注先を選ぶポイント
福原:ちょうど1年前くらいにBALESさんと取引をはじめたんですが、ポイントは2つありました。
まず、展示会に合わせて柔軟なリソース配分をしてくれるかどうか。たとえば今月末に展示会をやるから、今週来週はちょっと稼働を少なめにして月末に集中させましょうとか、時間契約でできるフレキシブルさです。
もうひとつは、FORCASを使ってリストが共有できることです。マネーフォワードの名前を使ってコールするので、同じリストを使って架電をするべきだと思います。
ハイブリッド型はインサイドセールスのトレンドに
インサイドセールス業界レポート2019では、インサイドセールスのトレンドを次の5つとして紹介している。
1.リードナーチャリング施策の多様化
2.ABM×BDR(アウトバウンド)
3.インサイドセールスイネーブルメント
4.ハイブリッドモデル(内製×外注)
5.イベントによるナレッジシェア
なかでも、ハイブリッドモデルは、比較的すぐに取り組みやすい施策だ。インサイドセールス内製化のための採用や教育、システム費などのスト面を比較しても、外注したほうが安く抑えられるとの試算もある。今後インサイドセールスの広がりとともに、需要は拡大していくだろう。