広告オンラインシフト進むも、消費者とマーケターの好みは正反対? 意識にズレ
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新型コロナで消費者の行動も変化
2020年の春以降、働き方が大きく変わり、リモートワークや在宅勤務、ビデオ会議が中心になりました。もちろん、これは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響です。働き方だけではなく、消費者の行動も大きく変化しています。
たとえば、オンライン通販(EC)の高齢者ユーザー増加、好調な音楽ストリーミング市場、家庭でのスマートテレビやスマートスピーカーといったスマートデバイスに対する需要増加、映像ストリーミング(OTT)サービス利用者の急増といった現象が見られます。「YouTube」では、セルフカット(自宅散髪)や自宅エクササイズ、家庭菜園、料理の作り置きに関連する動画の視聴回数が増えたそうです。
情報接点がオンラインへと大きくシフトしたのです。
広告はどんな影響を受けた?
商品やサービスの売れ行きは、消費者の行動に左右されます。行動が変わることで需要が変化すれば、おのずと消費を促すための広告も影響を受けるはずです。COVID-19パンデミックを受け、広告市場に何か変化は起きたのでしょうか。
カンター・ジャパンの国際調査レポート「グローバル広告エクイティランキング」で確認してみます。
注目のTikTokが高評価
カンター・ジャパンは、テレビCM(TVCM)、雑誌や新聞の広告、交通広告といった従来型の広告から、ソーシャルメディア(SNS)やストリーミングTVなど最近のオンライン広告までを含め、各広告の影響度を調査して、結果をランキング形式で発表しました。
調査は、世界7カ国(オーストラリア、ブラジル、中国、フランス、ドイツ、英国、米国)の消費者と、広告主と広告代理店、メディア企業といった世界各地のマーケターが対象です。マーケターの調査では、日本も対象に入っています。
評価が高く消費者とマーケターに好まれる広告プラットフォームの1位は、「TikTok」でした。世界的に注目されているTikTokは、調査対象7カ国のうち米国、英国、オーストラリアで1位に選ばれています。
順位 | プラットフォーム |
---|---|
1位 | TikTok |
2位 | |
3位 | SnapChat |
4位 | |
5位 |
ただし、TikTokの運営元は中国企業のバイトダンスであることから、米国向けTikTok事業の先行きは不透明な状況です。なお、TikTokの米国事業を買収すると一時伝えられたオラクルは、技術面で提携する方向とみられますが、具体的な動きはまだ正式に発表されていません。
いずれにしろ、米国事業やその他地域の状況によって、TikTokの広告プラットフォームとしての価値は大きく変動するでしょう。
消費者とマーケター、認識にずれ
好意的に受け止められる広告の種類を集計すると、消費者とマーケターでまったく異なる結果が得られました。
順位 | 消費者 | マーケター |
---|---|---|
1位 | 映画広告 | 動画広告 |
2位 | イベントスポンサー | TVCM |
3位 | 雑誌広告 | SNSニュースフィード広告 |
4位 | デジタル交通広告 | ストリーミングTV広告 |
5位 | 新聞広告 | SNSストーリー広告 |
全体として、消費者はオフライン広告を好むのに対し、マーケターはデジタル空間のオンライン広告を好む状況です。オーストラリアとドイツ、英国、米国の4カ国で映画広告がトップだったほか、印刷メディアとデジタル屋外(OOH)広告も消費者に支持されています。
カンター・ジャパンによると、オフラインチャネルの広告に対して消費者は、オンライン広告よりも質が高く、信頼できて、押しつけがましさがなく、過度なターゲティングがないと考えています。
また、インターネット広告に出会った人がどう反応したかを調べたマイボイスコムの調査では、「広告を閉じた」(37.1%)人と「間違えてクリックした」(37.1%)人が、「クリックした(意図的に)」(28.0%)人より多くなりました。さらに、「その広告が表示されたWebサイト・アプリを見るのをやめた」という人は8.3%いて、「関係のない広告が表示されるとイライラする」「スクロールなどの操作を妨げられるので、わずらわしい」という意見が反映されたようです。
それにもかかわらず、マーケターの関心は依然デジタルエンゲージメントへ向かっていました。
オンライン広告だけでも異なる認識
オンライン広告に限っても、消費者とマーケターでは好まれる広告プラットフォームが以下のとおり異なりました。
順位 | 消費者 | マーケター |
---|---|---|
1位 | TikTok | YouTube |
2位 | ||
3位 | SnapChat | |
4位 | ||
5位 |
消費者は、インフルエンサーによるブランデッドコンテンツ、ポッドキャスト広告、ストリーミングTV広告に好意的な傾向がみられます。一方のマーケターは、オンラインビデオ広告、テレビ広告、SNSのニュースフィード広告、ストリーミングテレビ広告、SNSのストーリーを好んでいます。
さらに、消費者はTikTokのような新しいプラットフォームでの広告を肯定的に受け止め、マーケターはYouTubeのような確立されたブランドを好んでいました。
今後の広告市場は?
COVID-19パンデミックにより、広告市場の規模は縮小しました。カンター・ジャパンの調査では、パンデミック期間中にマーケティング費用を60%の企業が削減し、30%が大幅に削減したそうです。
今後は回復していく見通しですが、割り当てられる予算があらゆる広告チャンネルで増えるわけではありません。ニューノーマル時代に応じて、増えるチャンネル、減るチャンネルに分かれます。
オンライン広告が加速
COVID-19対策のロックダウンなどが実施された影響で、オフラインメディアへの投資が減少し、デジタルチャネルに対する予算とリソースの配分が増加しました。カンター・ジャパンは、この変化は2021年にペースを高めると予想しています。なかでも、オンライン動画の加速が強まるとしました。反対に、「その他のほとんどのオフラインメディアについては、2020年の厳しいビジネス環境を2021年もひきずるのではないか」としています。
この変化から受ける恩恵が大きいと予想される広告プラットフォームとして、カンター・ジャパンは具体的にYouTube、Instagram、TikTok、Googleを挙げました。
だからといって、この種のプラットフォームで動画広告を単に配信すれば広告効果が高い、とは限りません。消費者は、「楽しい」「質が良い」「関連性がある」「信頼できる」と考える広告を好み、「繰り返しの露出」「広告が多すぎること」を嫌うとのことです。展開の仕方や広告の内容が不適切だと、逆効果になってしまいます。ニューノーマル時代に適したプラットフォーム選定と、消費者の受け止め方に合わせた広告制作が必要なのです。